#433 狂乱の七賢者③

「そう言えば、七賢者の考察が掲示板で流行っているらしいですね」

「定期的に上がる話題なのにゃ~」

「ちょっと纏め動画でも作ろうかと思ったけど…………本当に確証の無い情報ばかりで、挫折したのは私です」


 円形の炬燵を囲み、ニャンコロとユンユン、そしてスバルが語り合う。


「L&Cって、七賢者に限らず、本当にストーリーが謎だらけですよね?」

「有名どころは、旧都の地下施設や滅んだ理由。伝説の魔人と魔王の関係、あとは真の魔王とかかにゃ~」

「桃姫と魔人の関係も面白いですね」

「因みに、桃姫の部屋に入れるイベントがあるんだけど、そこで暖炉を調べると、面白いイベントが起こるのにゃ」

「ちょ、気になる事サラッと言わないでください! 動画編集がまた、遅れるじゃないですか!?」

「あと、ハルバで……」

「あぁ~、あぁ~、聞こえな~い」

「おぃ~~っす。やっぱり、炬燵部屋こっちだったか」

「おぉ、SKにゃん、おつかれ~」


 続々とメンバーが集まる。彼女たちはギルド単位で行動していないものの、こうしてギルドホームに顔を出し、大まかな行動方針や情報交換(とお喋り)を欠かさない。


「そう言えば、七賢者を倒して回っているデーモンって、アニキなんだよな?」

「そうみたいね。ボスをソロ攻略とか、同行して録画させてほしいくらいよ」

「SKにゃん、もしかして、七賢者に挑戦したいのかにゃ?」

「いや、まぁ…………ちょっと興味がわいて」

「「…………」」


 SKの顔が『自分もソロ攻略したい』と言っているのを、集まった面々が感じ取る。しかし、それはなかなか出来る話ではない。もちろん、挑戦するだけなら簡単な話だが、実際には『挑戦するリスク』は軽視できないものがある。


 L&Cは、デスペナルティとして経験値や装備をロストする。経験値に関しては、1日あれば充分補填できる数値だが…………確率でロストしてしまう装備は問題だ。ボスとなれば汎用装備での誤魔化しは難しく、数か月単位の時間をつぎ込んで作った本気の装備を持ち出さなくてはならない。装備ロストと言っても、落とすだけなので身内に拾ってもらう手もあるが、もしその身内も含めて全滅してしまった場合の損失は計り知れないものになるだろう。


「そう言えば! お兄ちゃんって、"ガスター"はどうするつもりなんだろ?」


 ガスターとは、七賢者の一人にして団結と信頼を司る騎士の名だ。騎士とあるが、役割としては"軍師"であり、七賢者の纏め役でもあった。


「たしか、協力プレイが必要なダンジョンなんですよね?」

「それじゃあ、ソロ攻略出来ないじゃん」


 L&Cは七つの大罪と美徳をテーマにしているが、大罪はともかく、美徳に関しては解釈が曖昧で、ゲームとして表現するのに難しいものも多い。よって、本来の美徳には無いテーマが定められた賢者も存在する。


 ガスターの本来のポジションは謙譲けんじょうや忠義であり、傲慢の対となる存在だが…………Lルートでも上下関係を表現するのは難しく、代わりに"PTプレイ"をテーマにするダンジョン・"砂漠の墳墓"が与えられた。


 そうなるとソロ主体のCルートPCが攻略するのは難しい。一応、スキルによる眷属の召喚や、NPCの傭兵を雇う手もあるが、あくまで戦闘用なので『ギミックを操作させる』などの使い方は出来ない。


「お兄ちゃんやスバル君は、魔人化しているからPT、組めないもんね」

「ん~。確か、失敗しても強制ダメージや戦闘があるってパターンが多いから、ソロでもある程度ゴリ押し出来たはずだけど…………クリアまで行けるかは、ちょっと分からないかにゃ」

「まぁ、L&Cなら、その辺、裏の攻略法がありそうな気はしますけどね」

「「確かに」」


 L&Cのクエストには『条件を満たすと新たな選択肢が出現する』などの隠し要素がある。これは基本的にCルート向けの救済措置であり、流れからすれば何らかの回避方法があっても不思議は無い。


「あぁ、ココに居たか」

「「!!?」」


 場の空気が一瞬で張り詰める。何気なく顔を出したのはセインであり、本来、この時間に顔を出す事は無い人物であった。


 それぞれが挨拶を交わし、話は本題に向けられる。


「それで、さっき話していたんだけど…………お兄ちゃんって砂漠の墳墓をどうやって攻略するつもりなの?」

「あぁ、その事か。ガスターには自己犠牲の……。……」


 セインが、砂漠の墳墓の隠し要素を説明する。その内容は『特定のアイテムを持たせたPCやNPCを連れて居れば、PTを組んでいなくともギミックを起動できる』と言うもの。彼がギルドホームに立ち寄った目的は、そのアイテムにあった。


「ご主人様! どうか、ボクを使ってください」

「あ、それならアタシも!」

「ん~、じゃあ、アチシも行こうかにゃ?」

「「…………」」

「そ、それじゃあ、私も」

「それじゃあ、全員参加ですね」

「ちょっとまって! そこは、私に譲る流れだったでしょ!?」

「「??」」


 流れに乗ってネタに走ったユンユンが、見事に滑る。1人だけ、そのネタを理解する者も居たが、残念ながら彼女は、滑るのを悟って乗りはしなかった。


「えっと、私は動画の編集作業があるから、パスで」

「完全に同行する流れだな…………まぁ、いいけど」

「「よし!」」


 同行する面々に、[眷属の首輪]が配られる。これは[主人の指輪]とペアリングする機能があり、効果は『グループ内でPT会話のような専用通信が可能になる』と言うもの。それ以外に効果は無いので、アクセサリースロットを消費してしまうデメリットはあるが…………コレにより、本来PTを組めない魔人にも、システム的なPT判定を割り当てられる。


 セインは、雇ったNPCにコレを装備させ、ダンジョンのギミックを起動させる予定であった。もちろん、NPCにギミックの"操作"は出来ないが、失敗時のペナルティーを受ける事は出来る。つまり『NPCを犠牲にすればクリアできる』のだ。


「(フフフ、これで、ご主人様にご奉仕できる)」

「す、スバルにゃんが、燃えているのにゃ……」




 こうして面々は、久しぶりにセインとPTを組み、ダンジョン攻略へと向かう。

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