#432 狂乱の七賢者②
「そこだ!!」
「悪いな、そこは"罠"だ」
「「…………」」
鋭い突きをすくい上げ、挑んできたLルートPCが空中で切り刻まれる。
「やべぇ、マジであの人、次元が違うわ」
「挑まなくて、正解だったな」
地下墓地に入り、侵入してきたCルートPCに挑む上位プレイヤーを、デーモンは淡々とキルしていく。
確かに魔人の単体性能は俺たち人種を上回っているが、装備や連携に制限があり、基本的(環境補正で変化する)に『連携込みなら人種が有利』となっている。
では、何故あのデーモンは勝てるのか? それは純粋なPSの差。単純にリアルを犠牲にして"時間"の力でココまで来た者たちを、"腕"をもってねじ伏せる。これがランカー本来の戦い方であり…………正直、凄すぎてチョット何をやっているのか分からない部分も多々ある。
「しかし、本当に全部一人で倒してくれるから、サクサク進めるな」
「いや、進むだけで、経験値も何も入ってきてないんですけど?」
「しかし、なんであの人、ココに来たんだろ?」
「それは…………C値稼ぎ?」
C値の増加は相手のルートなどは問わないらしい。だから多くの者は、NPCや初心者を狩るのだが…………この人は、挑んできた人を返り討ちにしているだけで、自分からLルートPCを狩ろうとする素振りは無い。本当に『地下墓地を攻略しに来た』って感じだ。
しかし、Lルート的には『狂った賢者の魂を鎮めるイベント』であり、入手できるアイテムも魔人に有用なものは無かったはずだ。仮にあったとしても、買えば済むのでわざわざ敵陣で悠長なレベリング? をする必然性は無い。
「やっぱり、観光なんじゃね?」
「そもそもランカーは、もっと高難易度の狩場に籠っているはずだから…………気分転換程度のノリなんだろうな」
軽く調べた程度では、あのデーモンの情報は得られなかった。つまり、彼は基本的に『PKはやっていないPC』であり、普段は最高難易度のエリアをソロで巡回しているのだろう。
「つか、アレだけ強ければ、ボスもソロ攻略できそうだよな」
「だな」
MMOのボスの強さは、同エリアに出現するザコとは比べ物にならないほど強い。その強さときたら、HPはザコの100倍、攻撃は通常攻撃ですら即死級。素早さに全振りしても理不尽な当たり判定に殺され、防御に全振りしても理不尽な火力のスキル攻撃に殺される。そういう世界なのだ。
だから基本的に挑むリスクに見合わない存在であり、ボス攻略は『次の難易度のエリアが楽勝になってから戻って攻略する』みたいな立ち位置になっている。
「おい、アイツ、本当にボスに挑むみたいだぞ!?」
「マジか! これは録画してアップしなきゃな」
「いや、そんな事したら、絶対に俺たちキルされるぞ」
「どうなんだろ? あの人は、気にしてなさそうじゃね??」
七賢者イベントが始まる前なら、俺たちはキルされていただろうが…………ランキングが開始した今、目撃者を気にするプレイヤーは、上位なんて目指せない。これは、NPC兵士も含めた"目撃者"を全員キルする事は不可能であり、指名手配される事で紐づけられたアバターIDからランキングの順位が分かってしまうからだ。
ランキングで上位を目指すなら、目撃や指名手配など気にしないでポイントを稼ぎにいって、更には、賞金を釣り上げて"賞金稼ぎ"も狩るくらいでないとダメなのだ。
「来るぞ!」
「でた、"狂乱のエイダ"だ!」
「まだ狩られていなかったんだな」
ボス・狂乱のエイダ。賢者を狂わせていた魔人の魂が、エイダの魂と融合して生まれ出た第三の存在。倒すことで一時的に村への侵攻を止められるが…………封じていた伝説の魔人の魂を解放してしまう。出現は1日最高1体で、誰かが解放しても24時間後には無かった事になっている。
条件を満たしたLルートPCが対応した賢者を倒すと、賢者本体の試験を受けるイベントが発生して『賢者の魂を受け継ぐ』形で"勇者候補"になる。勇者の場合ならその後、解き放たれた魔人の魂を追い、新たに実体化した魔人を倒すと"真の勇者"となる。
因みに、同じPTに所属して同じ様にポイントを稼いでいても、勇者に成れる者が1人しか出ないのは、この様に条件指定のイベントがある為だ。(剣の試練なら、剣の熟練度が一定以上の者のみにポイントが加算される)
*
「さて、久しぶりだな……」
「…………」
返答は無いが、それでも一応、再会の挨拶はしておく。
魔王になるための条件の1つが、賢者の分体をすべて倒して『7つの欠片を集める』事だ。魔王は7人なのに、全部集めたら他の魔王が出現出来なくなってしまう気もするが…………そこはそれぞれ出現条件が異なり、謎も多いのでスルーする。そもそも、伝説の魔人と魔王は別人物なので"復活"では無いのだろう。
「眷属を召喚したぞ!」
「ちょま!? こっちにもタゲが!!」
エイダの本来のポジションはヒーラーであり、単体性能は7体の中では最弱。戦闘スタイルは、常時眷属を召喚して、軍隊を指揮するような戦術をとる。
「くそっ! 多すぎだろ!?」
「まずは眷属を減らさない事には…………って! アイツ、眷属を放置して直接本体に突っ込んでいくぞ!?」
エイダの眷属は、確かに倒せば一時的に総数を減らせる。しかし時間経過で再出現するので、いちいち相手にするのは無駄が多い。何より、体力低下と共に眷属がランクアップするので、わざと初期眷属を放置して入れ替えを制限するのも手だ。
「アイツ、眷属を踏み台にしながら戦っているぞ!?」
「どんなバランス感覚してるんだよ!?」
「つかアイツ、ランダム範囲攻撃を完全回避してない!?」
エイダの頭上に出現した漆黒の繭から、ランダムな方向に爆撃が次々と投下される。これは眷属を巻き込む小規模範囲攻撃であり、安地は無いが、軌道は放物線を描きながら落ちてくるだけなので繭だけ見ていれば回避可能。
この攻撃はあくまで、集団の連携を乱す技であり、ついでに眷属を入れ替えるための技なのだ。
「おい! エイダが本気モードに入ったぞ!!」
「はぇ!? どんな攻撃力してんだよ」
「アレは<ブラッドエッジ>だ! 相当な体力を消費しているはずだから、落ちる時はアッサリ落ちるぞ!!」
体力が減ってくると、エイダは眷属を取り込み、キメラ形態へと変化する。初期はケンタウレ(ケンタウロスのメス)だが、そこから徐々に下半身が盛られていき、最終的には昔のアニメやゲームに出てきそうなラスボスっぽい見た目になる。
「アイツ、正面から直接本体を狙っているぞ!」
「マジで、眷属とか攻撃は、全部無視なんだな」
しかし、どこまで強化されても、なぜかエイダの上半身は露出したまま。女性としての最後の抵抗なのか、乳房(乳首は描写されていない)と美しい容姿(なぜか若返っている)はそのままであり、弱点としてフルダメージが通るようになっている。
「おい、そろそろラストスキルが飛んでくるぞ!」
「エイダのラストスキルって何だっけ!?」
「え? たしかエイダのラストスキルって……」
「自爆だな」
「「…………」」
エイダは死の直前、召喚した眷属や自身の融合部分を次々に連鎖爆発させて"共倒れ"を狙ってくる。
「おい! アイツ、飛んだぞ!!」
俺はギリギリのタイミングで、飛行する眷属を足場にして空中へと退避する。もちろんコイツも自爆するが、地上の連鎖爆発に比べればダメージは微々たるもの。
「うぉぉ、危うく死ぬところだった」
「アイツ、ホントにソロでエイダを倒しちまったな」
「あぁ。アイツ、間違いなくCルートの上位争いに絡んでくるぞ」
最後に俺は、キーアイテム"魔人の魂の欠片"を手にして、その場を去る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます