#431 狂乱の七賢者①
終わらない夜の闇に包まれる沼地。この場所には、生者に群がる虚ろな亡者と…………地下墓地に封印された伝説の魔道具を求める冒険者たちの姿があった。
「まったく、面倒なマップだぜ。なんだよ、ランダム転送って」
「リアル志向が聞いてあきれるよな」
「いや、最近見なくなったけど、すこし前までは、結構あったんだぞ? 迷路系ダンジョン」
3人が訪れたのは"宵闇の沼地"と呼ばれる特殊エリア。この場は、無数の小さなマップに区切られており、それぞれは霧を模したゲートで繋げられている。
「よし! "導きのランタン"ゲット!!」
「やっと2個目か。流石に7つは足元見すぎだろ?」
「できれば、帰還用も確保しておきたいんだが」
「いや、そんな余裕は無いから」
エリア移動は一定法則に基づくランダムなのだが、出現する魔物がドロップする導きのランタンを使用する事で、主要な場所に確定移動できる。
「どうせ、中でも拾えるんだろ? さっさと"名も無き地下墓地"に入って攻略を進めないと、先を越されるぞ??」
「慌てる何とかは貰いが少ないぞ」
「よねすけ?」
「「??」」
「いや、今のは無しで」
宵闇の沼地の先にある、名も無き地下墓地には伝説の賢者の1柱"癒しのエイダ"が眠っている。彼の者を含む7人の賢者は…………旧王都を壊滅に追い込んだ魔人の魂を7つに砕き、それぞれが自身を代償にする形で、その欠片を封印した。
つまりこの場所には、伝説の魔人の"魂の欠片"も眠っており、今、その封印が弱まっているのだ。
「そういえばエイダって、もう戦えるんだよな?」
「そうなんじゃね? 勇者は、まだみたいだけど」
「いやさ、掲示板で見たんだけど…………実は、勇者になるのに"ランキングは直接関係ない"って説が出てるんだよな」
「あぁ、あるみたいだな、そんな話」
狂乱の七賢者イベント開始に合わせ、七賢者の魂が狂気に堕ち、訪れた生者を襲い、果ては眷属を近隣の村々に放ち、侵攻を開始したのだ。
「いや、流石に無いって事は無いだろ? 少なくとも、俺たちみたいに際どい所を浮き沈みしているザコに、チャンスは無いはずだ」
「いや、それはそうかもだけど…………俺たちこうやって(七賢者)イベントに絡めるところまでは来たわけじゃん? それなら、奇跡でも何でもいいからさ、挑戦してみてもイイんじゃね??」
「「…………」」
地下墓地は、いわゆる"ラスダン"では無い。ゆえに転生カンストしていないPCでも挑戦できる。そして何より、ボスのエイダは"分体"なら、同じく未カンストでも無理をすれば倒せるボスだ。
「気をつけろ! 誰か来たぞ」
「チッ! ライバルか……」
霧に浮かぶ人影に3人の視線が集まる。
「…………」
「何だ、デーモンか」
「CルートPCって事じゃないか。おいおい、ここはLルートの支配エリアだぞ?
「そのまま引き返すなら、今日は見逃してやる」
現れたのは、角が生えている以外に特徴らしい特徴の無い悪魔系PC。物見遊山で話題のイベントエリアを訪れた可能性も無いとは言い切れないが…………まず間違いなくPK、それも最前線と言える場所に単騎で乗り込むだけの実力を持つ者だ。
3人は、その危険性を察知し、距離を保ったまま応対する。
「なんだ、"手持ちのランタンを差し出すなら、見逃してやる!"くらい言えないのか?」
「それを言ったら、今度はお前が、"欲しいのなら力ずくで奪い取ってみろ!"って言うんだろ?」
対峙するCルートPCの種族は、レッサーデーモンの転生体である無印デーモン。最速攻略をしているなら最終転生先であるアークデーモンになっているはずだが…………アークデーモンにはデメリットもあるので、あえて扱いやすい無印で止めている可能性も否定しきれない。
「似たような事を言ったかもしれないが、俺はそこまで狂犬では無いからな」
落ち着いた口調で話しながらも…………背後から近寄ってきたゴーストを、絶妙な距離で振り返り様に両断する。
「ヒュ~。背中に目でも、つけているのかい?」
「それじゃあ、俺は先を行く。後を追いたければ、勝手にしろ」
「「…………」」
デーモンの男が、身構える3人の横を涼しい顔で通り過ぎる。
「よし、行こう!」
「いや、危険だろ!?」
「しかし、案内してくれるならランタンを節約できるんだぞ?」
エリア移動に必要な霧は、四方に1つずつ配置されており、ランタンを使用すると『1回だけ使用者に正規ルートが示される』仕様になっている。最奥である地下墓地に行くのに必要になるランタンは最高7つだが、ランタンの使用は必須では無いので、ランタンを集めているうちに目的地にたどり着いてしまう事もある。
つまり、正規ルートを知っている者の後を追えば、ランタンを消費せずに目的地にたどり着けるのだ。
「知っていると思うが、ゲートは一定時間でリセットされる。……それじゃあな」
「「…………」」
「よし、行こう! オケツに入らずんば尻子玉を得ずだ!!」
「「……………………」」
「ごめん、今の無しでお願いします」
「今度くだらない事言ったら、ビーストに挑戦してもらうからな」
「ほんと、すんませんでした」
こうして3人は、敵であるはずのCルートPCの後を追う。
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