#428 侵攻イベント④
「門が破壊されるぞ! みんな! 戦闘態勢に入れ!!」
「「おぉぉおお!!」」
侵攻イベント会場・二の村。前日は戦力が拮抗していた事もあり引き分けに終わったが…………本日は集まりが悪く、早々に最初の防壁が突破される展開となった。
「くそっ! 数が足らない! このままじゃ、ココも直ぐに突破されるぞ!!」
「ダメだ。中堅は、皆"街"の防衛に行ってる。もう、この村は諦めるしかない」
そう、ポイント目的で集まった中堅プレイヤーの殆どは『黄色名の襲撃』の報を受け、イベントを放棄して街に戻ってしまった。いくらイベントでルートポイントを稼いでも、主要イベントが進行不能に陥ってしまえばストーリーがこなせず足踏みをしてしまう。
「バカだな。村が堕ちようが、ポイントさえ稼げればソレでいいんだよ」
「街が落ちても、永久的に進行不能になる訳じゃない。対処は他の連中に任せておけばいい。俺たちはポイント稼ぎに専念するぞ!」
街は、陥落から即座に勢力が塗り替わるわけではない。街長が倒されると、街は紛争状態となり、王国勢力のNPCと魔人勢力のNPCが街を奪い合うイベントが発生する。この争いは、王国側が若干有利で、放置すると街の支配権は王国に戻る事が予想される。
つまり、CルートPCが魔人軍側につかない限り、重要イベントは復活するのだ。完全に魔人側に支配権が移った場合の処理は不明だが、それでも『何らかの救済がある』と考える者が多く、侵攻イベントが完全に放棄されるところまでは行かないのが現状だ。
「つかよ、L&Cを潰そうとしている信者たちの目的は"街の陥落"じゃない。こうやってイベントを台無しにする事だ」
「そうだ! 俺たちは黄色名の妨害に屈せず、ポイントを稼げばいいんだよ!!」
「まぁ、そう言う事だな」
「「あ、貴方は!!?」」
現れたのは赤い衣を纏う両手剣士にして元勇者のクレナイであった。
「おぉ! 勇者キタ! これで勝つる!!」
「魔人軍も、トップランカーは殆ど参加していない。諦めるには、まだ早いぞ!」
「おっしゃあ! 巻き返すぞ!!」
「「おぉぉおお!!」」
因みにクレナイのPTは、すでにビジョンのイベントを終わらせていた。
*
「いや~、乱世乱世。MMOは、やっぱこうでなくっちゃな」
「しかしどうするの? クレナイを相手にするのは、アナタでもリスキーよ」
前線の攻防を、距離をおいて傍観する2人の忍者。
「それなら、対峙しないまで。頃合いを見て、一気に攻めるのみですぞ」
「はぁ、結局"いつも通り"って事ね」
「下手な考え休むに似たりでござるヨ」
「言っておくけどソレ、微妙に使い方、間違っているからね」
それだけ言い残し、対魔物忍者の女性が音も無く歩みだす。
*
「クレナイか。相手にとって不足なしってヤツだな!」
「まったく、やる気を出してくれるのは助かるけど、コレ、完全に勇者に挑む流れよね?」
「そう言うお姉ちゃんだって、もう挑むつもりなんだよね?」
「いや、まぁ遅かれ早かれって可能性もあるし、ね?」
イベントに参加した3人の前に現れたのは、元勇者のクレナイ。
第一防衛ラインを突破した今、戦わずに迂回する選択肢もある。しかし、相手は曰くのある相手であり、迂回しても背後から襲われるリスクもあるため『戦わない』選択は無かった。
「いやぁ、待たせてしまったかな?」
「そうでもないわ。それに、待っていたのはコチラの都合だし」
漁夫の利を狙う事も無く、他のPCとの戦いが終わるのを律義に待っていた3人。その精神に敬意を表し、クレナイも紳士的に応対する。
「とは言え、どうしたものか……」
目を閉じ考えを巡らせるクレナイ。彼はギルドの仲間と参戦しており、3人が相手では到底"対等"とはいいがたい。
「それなら、私がお嬢ちゃんたちにつくってのは、どうかしら?」
「「!!?」」
「これはこれは、まさかこんな所で、"キミ"に会えるとは」
現れたのは、世界観にそぐわない近未来的なボディースーツを纏う女性PC。
「え? 痴女??」
「「ぷっ」」
「誰が痴女よ!!」
「やぁ、"峰子"君。今日は、他のみんなは一緒じゃないのかな?」
「さぁ、どうだったかしら? もしかしたら、貴方のPTの中に、紛れ込んでいるかもよ?」
クレナイと軽口を交わすのは峰子と呼ばれる、一部では知られたPCだ。彼女はあまり行動を共にしないものの、元魔王である"忍者マスター"の関係者であり、多くのトッププレイヤーが警戒する相手であった。
「えっと、出来れば私たちだけで戦いたいんですけど……」
「流石はナツキだぜ。わかってる~」
「あぁ、折角の加勢が……」
「あら、ツレないわね。それじゃあ、こう言うのはどう? 私は取り巻きを相手にするから、貴女たちはクレナイの相手をお願い」
「「…………」」
勇者ではないにせよ、ランカー相当の実力者たちを1人で相手取ると豪語する峰子。その発言に、思わず取り巻きは表情を強張らせる。
「なるほどね。キミの狙いは分かったよ。しかし、どうしたものか……」
「「…………」」
クレナイは、峰子の狙いが"時間稼ぎ"である事を見抜いていた。しかし、それで峰子をキルせず本陣に連れかえれば、更なる強者に仲間を合流させる結果に繋がってしまう。そこにどれだけの勝算と理があるのか。クレナイは考えた。
「よし、3人残ってくれ。残りは本陣で"ヤツ"を待ち構えてもらう」
「しかし!?」
本陣には王国軍のNPCも配置されている。しかしそれでも、相手が忍者マスターならクレナイが出向かない事には止められないだろう。
「全員で戻れば
冗談混じりにクレナイが、敗北を悟った発言をする。しかし、もとより戦況は劣勢であり、同格が現れた時点で"詰み"になる事は予想していた話なのだ。
こうして成り行きから、ナツキたちは元勇者・クレナイと再戦する事となった。
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