#427 侵攻イベント③

「まさか、勇者が直々に協力してくれるとはな」

「俺はあくまで、勇者同盟の使いっ走りさ。それより、戦力は足りているんだろうな? いくらカンストしているとは言え、街を落とすのは容易じゃないぞ」


 侵攻イベント本戦初日。多くのプレイヤーがイベント会場となる村に集まる中、NPCと放置された商人たちを遠巻きに見据える2つの影があった。


「心配無用。街が堕ちた時のシステム処理がどうなるか、今から楽しみだぜ」

「村はあるが、街が堕ちた記録は正式サービス以降、1度も無い。一応、"街長"を殺せば陥落扱いになるはずだが」


 場所はLルート系の街"ビジョン"。この街は後発で実装された場所であり、数多くの上位クエストで利用する他、追加実装された拡張職のギルドも点在しており、普段利用する機会は少ないが、イベント進行上は重要な場所となる。





「よし、そろそろ頃合いだな」

「あぁ、待ち遠しいぜ! 街を落とせば、重要イベントも詰みに出来る」

「ネスを垢BANした報いを、たっぷり味合わせてやるぜ!!」


 ビジョン、中央のエリア前。この場所は、設定上は貴族用のエリアと言う事で、普段は一般人の入場が制限されている。中には、貴族用住居と各種重要施設が配置されており、一部のクエスト以外でPCが入る事は無く、Lルートイベントを進めようがない黄色名には入る術がない。


 あくまで"正規の方法"では、存在しない。


「よし、合図が来た。それじゃあ…………突撃!!」

「「おぉぉぉぉおお!!」」


 武装した黄色名が、中央エリアを隔てる城門に突撃する。城門は四方に4か所あり、タイミングを合わせて、同時に仕掛ける形となった。


「止まれ! これより先は……」

「ザコはすっこんでろ!!」

「な!? 敵襲! 敵襲!!」


 最初の門番がキルされ、中央エリアは瞬時に防衛モードに切り替わる。


「矢が来るぞ! 距離をとって応戦しろ。弓兵を倒すまで、城門には取り付くな!!」


 城門に弓兵がスポーンして、中央エリアに近づくPCを無差別に攻撃する。加えて、城壁には無数の隙間が空いており、城壁に張り付くものに対して"熱した油"が降り注ぐ仕掛けが存在する。


「よし! 初期スポーンは処理した。クライム部隊! 突っ込め!!」

「「応ッ!!」」


 弓兵は、一掃しても一定間隔で無限にリスポーンする。しかし、リスポーンには若干のタイムラグがあり、その間を狙えば、登頂系装備で固めたPCで強引に城壁を登れる仕組みになっている。


 それでも、城壁上には槍兵や各種トラップもあるので油断はできないが、そこは人海戦術による"ゴリ押し"で突破可能だ。


「門を開けるぞ! サポートしてくれ!!」

「よし! 任せろ!!」


 登頂に成功したPCが、吊り下げ式の門を開ける。操作中のPCは強制的に戦闘不可状態になるので、次々に出現するNPCから守る必要がある。


「そろそろ門が開くぞ!」

「しかし、すげぇな。L&Cって」

「何がだよ?」

「いや、だって街が襲われる事も想定して、ちゃんとギミックが用意されているんだろ? 誰も挑戦していない部分まで」

「それはまぁ、そうかもな。ただ……」

「ん?」

「進んだ先が未実装だったら、笑うしかないな」

「「…………」」


 MMOではよくある事だけに、面々の表情が陰る。しかし、ここまで来たら後には引けない。その場に居合わせたPCは、全員強制指名手配状態となり、街内でのログアウトと、NPCサービスが全て使用禁止になっている。これを回避するには、街の外周を突破して外に出るか、中央エリアを陥落するしかない。


「おしゃべりは終わりだ! 行くぞ!!」

「「応ッ!!」」


 メッセージウインドに門が開いたことが通知され、侵入不可となっていた中央エリアに侵入可能となる。合わせて大量にスポーンした兵士が、盾と槍を構えて波状攻撃を仕掛けてくる。


「くそっ! コイツラ意外と強いぞ!!」

「連携が完璧すぎる! 魔法部隊! 周囲魔法で吹き飛ばしてくれ!!」


 横に広がってノックバック攻撃を仕掛けてくる盾持ちの波と、その間を埋めるようにロングスピアーが追加ダメージを、追加の弓兵が後衛の魔法使いを狙撃する。レベルこそ低いが、NPC兵士の勢いと連携は素人には脅威であり、ステータス的にも優位なはずの黄色名が一進一退の攻防を見せる。


「お前ら! 何やってんだ!!」

「まずい、騒ぎを聞きつけたPCが来たぞ!」

「PCは俺たちが引き受ける!」

「任せたぞ!!」


 挟撃の形になり、黄色名が苦戦する。それもそのはず、アタックを開始した時点で街中に緊急メッセージが送信され、黄色名全員が賞金首として通知されていたのだ。





「なかなか苦戦しているようだな」

「予想していたことだ。問題ない」

「確かに、駆け付けたPCとは、互角以上に戦えているようだな」

「兵士も、ある程度倒せばリスポーンは鈍くなる。脅威なのはあくまで"数"であって、上級兵士でも、少数なら敵じゃないさ」


 安全な場所から三つ巴の戦闘を傍観する2人。実際のところ、駆け付けたPCは中央エリアに入る事は出来ず『ここさえ乗り切れば』と言った状況なのだ。


「今はイベントの真っ最中。中央エリアに(イベントを進めて)入れるPCも、終わるまでは殆ど来ないだろう」

「そもそも、この街ならCルートPCは入る事さえ出来ない。あとはネームドのNPCを、倒せるかどうかだな」


 情報が少なすぎて、この先の攻略法は手さぐりとなるが、少なくともイベントで顔を出す将軍クラスのNPCが"ボス"として登場するのは容易に予測できるところであろう。


「しかし、アンタラも酷いよな。Lルートの重要施設を完全閉鎖しちまうなんて。どれだけのプレイヤーに迷惑がかかるか……」

「問題ない。同盟加入者は、すでにビジョンのクエストを終わらせている。足止めを喰らうのは、ランキング圏外のエンジョイ勢だけさ」

「ハハ! ほんと、攻略にしか興味が無いんだな」

「誉め言葉として、受け取っておくよ」


 目には見えなくとも、今回の一件で遅れていたCルートの進行度は急激に上昇するだろう。そうなればメインシナリオが早まり、勇者の選定がなされる。勇者にせよ魔王にせよ、玉座は防衛側が有利に設定されており、NPCと対戦する初回時が1番難易度が低い。


 よって勇者同盟は、ストーリーの進行を少しでも早め、大半の実力者が転生カンストする前に勇者・魔王誕生イベントを発生させようとしている。最大勢力の勇者同盟であっても、それ以外に実力者は多く、カンストを終えてしまった後では"実力の差"が大きく出てしまう。


 彼らが今と同等以上の勢力を維持するには、装備や資金を集中することで差をつけられる、今が最大の好機なのだ。





「おい、何人生き残っている? 死んだヤツは返事しろ」

「いや、死んでたら返事できないから」

「はは、まぁ、ココまで来たら、生き残ったヤツと、残ったアイテムで何とかするしかないさ」


 領主邸に侵入し、集まったのはパーティー用の部屋だろうか? 室内の大広間であり、そこには魔法障壁で守られる領主と、それを守る将軍とその直属の騎士たちの姿がある。


「まぁ、ネームドなら楽勝だろうな」

「だな!」


 セカンドアバターは、制限によりメインアバターより転生1回分、ステータスが低くなる。それはネームドNPCも同様で、つまり目の前のボスのステータスは"ほぼ同じ"なのだ。もちろんボスなら最大体力にボーナスは乗っているだろうが、邪魔さえ入らなければ人が操作するPCに、勝てない道理は無い。


「行くぜ! エデンズウォール!!」

「派手に行こう! オーバードライブ!!」

「再挑戦出来ないんだから、事故死は勘弁してくれよ? トリプルマジックブースト!!」


 最後になって生き生きと戦う黄色名たち。この状況は、仲間を招いてのマルチプレイと同様であり、トワキン勢としては慣れたスタイルの戦闘だ。


「ハハハ! やっぱり、PTでのボス戦は、燃えるよな!!」

「体力真っ赤で、よく言うぜ」

「なんだよ? 楽しくないってのか??」

「いや、もう、ネスの事とかどうでもいい。トワキンには実装されていないクエスト、実装されていないボス。それだけで、挑んだ価値が、あったってもんだ!!」

「だよな!!」


 ギリギリの攻防を繰り広げる中で、彼らは本来の"楽しさ"を思い出していた。




 結局、黄色名を止められるほどの有力者の加勢も無いまま、その日、Lルート系の街・ビジョンは陥落した。

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