#415 闘技場実装初日④

「それではマッチング待機中に、改めてサバイバルバトルのルールを説明します!」



①、1~3名のPTを集め、99名で同時対戦をおこなう。基本的にフルPTで挑む方が有利だが、入手できるアイテムには限りがあり、得られるレートも変動する為、あえてソロで参加する選択肢もある。


②、対戦ルールは3種類からランダムで選ばれる。制限時間に応じてダメージエリアが広がる"生残り戦"と、キーアイテムを探し・奪い合う"争奪戦"、そしてキル数などの得点を競う"殲滅戦"。基本的に対人戦は避けられないが、その重要性や戦略はルールに応じて変化する。


③、対戦の舞台は広大なフィールドからランダムで選ばれる。フィールドが決まったら、スポーン先を選択し、対戦が開始される。この際、PTを組んでいるとPTリーダーが選んだ場所がPTのスポーン先に設定される。


④、アバターのスキル構成はそのまま反映されるが、装備は性能が最低ランクに修正される。回復アイテムなどの消耗品は持ち込み不可。対戦中、経験値や熟練度は変動しない。


⑤、フィールドにはランダムで様々な専用アイテムが配置される。アイテムの種類は、HP回復・MP回復・状態回復・武器強化・防具強化・矢筒・投擲の7種類。アイテムにはそれぞれ、使用時の固定エフェクトと硬直時間が設定されている。


⑥、PCがキルされると、所持アイテムと装備は全てドロップする。ドロップしたアイテムはルートしたPCが自由に使える。対戦中の装備や所持アイテムの変動は対戦中のみに適応される。



「基本的に強化アイテムは直ぐに使ってしまった方がイイのですが、周囲に敵がいる状態で使うと硬直中を襲われる危険があります。PTで参加する際は、必ず仲間と声を掛け合ってカバーしましょう」

「壁などには確り防音効果も設定されているので、室内、それも密室で使うと更に安全ですね」


 待ち時間を利用して、有志の解説がルールやセオリーを説明していく。因みに、想定待ち時間が経過しても参加人数が揃わなかった場合は、レートに応じた強さのNPCが投入される。


「おっと、マッチングが終了したようです」

「気になるエリアは…………砂漠の廃墟。バトルルールは、何と言う事でしょう! 殲滅戦が選ばれてしまった!!」

「これはセイン選手に厳しい展開が予想されます」

「他の2つは隠密行動で、ある程度戦闘を回避できますからね」

「とは言え、セイン選手は一騎当千のランカーバケモノです。加えて、サバイバルはシンプルなリングでの戦闘と違い、独自の戦略や、アイテム運も求められます」

「いや~、これは目が離せませんね」

「まったくです」





「えっと……」


 とりあえず、アバターの動きや装備の挙動を確認する。スキルはそのまま反映されるが、装備には下方修正が入る関係で、一時的に追加効果やエンチャントが無効になってしまうからだ。


 スポーンしたのは、砂岩造りの民家の2階。スポーン先は、ブッキング対策で大まかな場所しか指定できない。そして、スポーンすると確定で、目の前に『基本+ランダムおまけ』のアイテムが配置されている。これに限らず、サバイバルはランダム要素が大きいのが特徴であり、醍醐味となっている…………らしい。


「さて、大見得も切ってしまったし、頑張りますか」


 目の前のアイテムを拾い、とりあえず建物内を流し見しながら1階へ向かう。配置されているアイテムは、基本的に意地悪な場所に隠される事は無い。一目見れば気づく場所に置いてあるので、サクサク進んで、効率よく回収していく。





『セインの場所が分かる前に、出来るだけ強化アイテムを集めておきたいな』

『だな。とりあえず、この家から調べよう』

『了解』


 PT会話とハンドサインを駆使して、3人組が探索を進める。サバイバルは、序盤・中盤・終盤とそれぞれに違った立ち回りが求められる。そして序盤のセオリーは、極力戦闘を回避し、物資を集める事だ。ここで功を焦って交戦を繰り返すと、回復アイテムなどの消耗品が終盤まで持たなくなってしまう。


『お、アイテムだ』

『ラッキ~』

『この家は、手つかずみたいだな』


 3人が、部屋の中央に置かれたアイテムに近づく。


「いらっしゃい」

「「!!?」」


 1人が背後から襲われ、首を切断される。


『警戒! 誰かいるぞ!!』

『今の声、かなり近かったはず……』


 1人が真下から襲われ、顎を貫かれる。


「上や下も、注意した方がいいぞ」

『後ろか!?』


 1人が振り返り様に、喉を一突きされる。


「あと、最序盤でも釣りアイテムエサには注意した方がいいぞ」


 室内には、身を隠せる場所が意外に多い。ドアの裏、天井、クローゼットなどなど。直接戦闘に貢献しない隠蔽スキルや索敵スキルは、この様な場所で効果を発揮する。





「上手い! セイン選手、鮮やかに3キルです!!」

「いや~、上手く死角を利用していますね。簡単そうに見えますが、正確に相手の行動を読むセンスがあってこその神業ですね」

「次にお前は、後ろか!? と言う!」

「え?」

「「…………」」


 控室が歓声に包まれる。セインのプレイングは既存ユーザーに限らずファンが多い。その理由を一言で言えば『大胆な立ち回り』であろう。数的不利をモノともせず立ち向かう姿、そして危なげない勝利。その体運びは、鮮やか過ぎて"簡単そう"に見えてしまうほどだ。


「えぇ…………気を取り直して、ここで各選手の動向を確認していきましょう」

「サバイバルバトルは、ただ単に会敵した相手をキルしていけばイイと言うものではありません。時には戦闘を回避したり、場合によっては共闘したりする事も求められます」





「セインの居場所が判明したぞ! 場所はE3からE4へ向かって移動している」

「ヨシッ! 協力して、この辺りのアイテムを回収しよ~」

「了解。安全に探索できるのは、助かるな」


 異なるPTが声を掛け合い、即興の同盟を結ぶ。彼らは同じトワキン組の同志であり『セインを討つ』と言う共通の目標を持っている。


「つっても、全員で探索に専念したらセインをフリーにしちまうぞ?」

「あぁ、確かに。……どうしよう?」


 とは言え、この戦いは急な話で、メンバーも偶然居合わせた者のみとなる。明確な作戦は定まっておらず、そもそも連絡手段すら交換していない者が殆どだ。


「それじゃあ、ちょっと知ってるヤツに声をかけて、E4の狙撃ポイントで仕掛けよう! キルできればそれでいいし、出来なくても逃げれば済む」

「そうだな。それじゃあ、アイテム回収班と妨害班に分かれて行動しよう!」

「ヨシッ! それじゃあ、矢筒をかき集めるぞ!!」

「「おぅ!!」」





「セインさんですよね!」

「?」


 スポーンエリア周辺を探索し終わり、次のポイントまで移動する途中、見知らぬ女性PCが声をかけてきた。


「その! 私、セインさんのファンなんです! それでそれで、出来れば協力出来たらなって!!」

「そうか。それじゃあ…………有難く、頂こう」

「え?」


 自然な歩みで近づき、そのまま首を掻き切る。


 サバイバルバトルでの"勝者"は1人だけ。しかしそれでは、レートを獲得できるのは1人だけになってしまう。よって、順位やキル数などの条件でもレートが加算されていく仕組みになっている。


「そろそろ、連中も仕掛けてくる頃合いか……」




 砂岩で出来た岩山を眺めながら、俺は歩みを進める。

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