#414 闘技場実装初日③

「強い! レベル差をものともしない、圧倒的な強さだ!!」

「いや~、一瞬でしたね。レベル差こそありましたが、急所破壊による即死判定の前では無意味です」


 闘技場・控室。そこには試合を観戦する機能があり、中継、および実況で盛り上がる光景があった。


「魔殺隊コスのトワキン組と、メイド服姿の無印組との刀対決でした、試合は開始10秒でのワンショットKOでメイドの勝ち。無印組、初戦はベテランの貫禄を見せつけての勝利となりました」


 転送ゲートより、試合を終えた2人が現れる。しかし、両者ともに晴れやかな表情とはほど遠いものがった。


「なにアッサリ負けてんだよ!」

「マジでありえねぇ! あんな近接特化、遠距離攻撃で完封できただろうが!!」

「いや、だって……」

「お前、もう明日からギルドに来なくていいから」

「ちょ! まってよ……。……!?」


 見苦しい争いに控室の空気が、濁り、重さを増す。


 ゲーム内で感情的になるのは無理のない話。しかし、それを置いても直情的で、なにより彼らはリアルの繋がりを持つ学友同士であった。


「うぅ、罪悪感が……」

「別に、気にする必要は無いわよ。あの手の輩は、変にフォローすると余計に拗れるだけなんだから!」

「まぁ、アレは仕方ない。切り替えていけ」

「はい」


 スバルにとっても、これは予想外の展開であった。それと言うのも、トワキン組の刀使いがあまりにも弱かったのだ。間合いに入ってきたので、反射的に喉元を突きにいった。しかし、相手はそのまま突っ込み、自滅。これでは仲間が憤慨するのも無理はない。


「ねぇ、トワキン組って、こんなにレベル低いの? あれでも(レートを)結構稼いでいるんでしょ??」

「アタシが言うのも何だけど、ゴリ押しが過ぎるよな。なんか、やる気失せてきた」

「いやいや、実際、スバルにゃんも簡単そうにやっているけど、凄い事やっているのにゃ」

「それは、そうだけどさ……」


 トワキン組の平均的なPSは小学生から中学生レベル。中にはマトモな奴もいるが、それでも高校生レベル止まり。そこまで行くと無印版経験者の割合が高くなる。


 対戦した刀使いは、完全なトワキン組であり、リアルは小学生であった。実際、ヘイト発言で問題となっているプレイヤー層は、この小・中学生なのだが…………レート戦を荒らしているのは、実は高校生組。彼らはその勢いに乗せられただけの"哀れな道化"であった。


「おい、どけよキッズども! 本当の戦いを、俺たちが見せてやる」

「ヘケケ、今度は俺たちの番だ。本当の殺し合いってやつを、今から教えてやるぜ!!」

「「…………」」


 別のPTが我が物顔で割って入る。彼らは2回戦・パーティーバトルの対戦相手であり、リアルは高校生であった。


 闘技場でレートを荒稼ぎしているのは、高校生や大学生を中心とした無印・トワキンの両経験者であった。無印版を経験してL&Cの知識を培い、それと同時にトワキンをプレイしてカンストアバターを手に入れた層。当然ながらアバターの前提条件が違うので、同じPS帯の無印組に対しては"負け無し"であった。


「はぁ、少しは自信があるようだけど……」

「なんか、オーラが無いよな」

「これは手加減しないと、2回戦で終わりなのにゃ」

「「なっ!?」」

「ナメてんじゃねぇぞゴラァ!」

「俺たちが、本当のL&Cを…………教えてやる、ぜ!」


 しかし、両経験組も何処か軽く、周囲も含めて当初の熱は冷めつつあった。


「まぁ、いいじゃないか。それじゃあニャン子、後は任せたぞ」

「うい……て! なんでアチシが!?」

「いや、むしろなんで、対戦するつもりも無しに煽りあいに参加してたんだよ? いいから行ってこい!」

「「はぁ~」」


 女性PC3人が、そろって深い溜め息をつく。それぞれ思いは違うが、違わない部分も、有ったり無かったり……。





「お前ら! 散々馬鹿にしておいて、やる気あるのか!?」

「いや、あまり……」

「フザけてるのか! なんだその構成は!!?」

「いや、だって即席だし」

「悪いが俺たちは無印版も極めている。キッズだと思って油断したのが運の尽きだな!」

「いや、私たちに喧嘩を売っている時点で、無印とか関係ないのにゃ」


 石畳の闘技場に転送された6人。試合はすでに始まっているが、その温度は、まだまだ温まり切ってはいなかった。


「つか、なんでアナタたち、まだ"アイアン"なのよ?」

「そ、それは、ほら、スタートが遅かったからな」


 本当に実力のある者は、すでに1つ上の"ブロンズ"に昇格している。そんな中で昇格していないと言う事は…………遅れて闘技場にやってきたか、昇格に見合う実力が無いかの2択になる。


「そもそも、本当に無印である程度のところまで行った経験があるのなら、不用意にランカーに喧嘩売ったりはしないのよ。それでも喧嘩を売るって事は…………レベル差が飾りだって事を、まだ理解していない"万年中堅止まりの素人"って事」

「くそっ! 言わせておけば……」

「お前らこそ、PVを舐めすぎだぜ。確かに実力はお前たちの方が上かもしれない。しかし! それでふざけた構成、だらけた意識で、本当に勝てると思っているのか!?」


 女性PTは、攻撃特化の鎌使い、同じく攻撃特化の拳闘士、唯一の魔法使いも短剣装備の中衛型となっている。


 対する男性PTは、盾持ち、槍使い、魔法使いと近・中・遠とバランスの良い構成。3名という制限から"近"の枠をアタッカーにするかタンカーにするか、"遠"の枠をヒーラーにするかアタッカーにするかで、構成に幅はあるが、比較的スタンダードな構成と言えよう。


「まぁ確かに、あまりダラけて居ると、あとでアニキに怒られちまうな」

「ぐっ! それは……」

「まぁ、お仕置きはさておき、早く終わらせるのは、賛成なのにゃ」


 改めて、戦いの幕が上がる。





「おっと、チーム・ラストブレイド! 徹底的な遠距離射撃! 汚い! まさかの逃げ撃ち戦法です!!」

「本人たちには聞こえていないでしょうが、ギャラリーのブーイングを聞かせてあげたいですね」

「とは言え、ルール上は問題ありません。対策をしてこなかった、チーム・炬燵猫の落ち度と言えるでしょう」


 ラストブレイドの戦法は、盾持ちが相手の攻撃を受け、残りの2人が遠距離攻撃に専念するものであった。この戦法は、彼らだけに限った話ではない。トワキンは基本的にクローズドのオープンワールドで戦う世界観の為、オンライン版では他PCへの配慮から敬遠される逃げながらの遠距離攻撃(逃げ撃ち)が主流となっている。故にトワキン組の基本構成は、セカンドスロットを弓などの遠距離武器に当てる形となっている。


「しかし、炬燵猫も意地を見せてくれます」

「当然のように、遠距離攻撃を回避、あるいはパリィしていますね。流石です」


 その影響で闘技場での戦いは遠距離攻撃対策が必須となっており、場合によってはL&Cの華とも言える近距離戦闘が見られないまま終わる試合も多いのが現状であった。


「正直なところ、闘技場システムには期待をしていたのですが…………思っていたのと違う、って言うのが素直な印象ですね」

「そうですね。剣を交えないで遠距離攻撃の削りあいで決着がつく試合も少なくありません。そのあたり、運営の調整が期待されます」


 しかし、逃げ撃ちで勝てるなら、闘技場に限らず主流の戦法として確立していても可笑しくないはず。そう、この戦法には致命的な弱点があった。


「おっと、ラスブレの槍使い、ここで矢が尽きたようです!!」

「魔法使いの方も、そろそろMPがキツくなってきている頃では無いでしょうか?」


 近距離戦主体でリアル志向のL&Cでは、他タイトルによくある『矢の所持数緩和』が存在しない。故に無駄撃ちをすれば直ぐに矢が尽きてしまう。魔法に関してはMPの自然回復があるので若干マシだが、それでも無駄撃ちでMPを枯渇させてしまえば、大きな隙を生むリスクを孕んでいる。


「やはり、重量のある槍と弓の組み合わせは問題があるようです」

「それもありますが、1番の問題は、スキルにシナジーが無い点でしょう」

「と、言いますと?」

「槍と弓では、刺突属性である事以外に共通点がありません。だからセットしたスキルの多くが無駄になっているんですよ」

「なるほど。そうなると今の状況は、レベル差の有利を一部無駄にしていると言えますね」


 画面の向こうでは、鎌が盾の防御を嘲笑い背中を斬りつける光景が、拳闘士が槍のリーチを嘲笑い張り付きざまに格闘コンボを決める光景が、広がっていた。


「格の違いでしょうか? 明らかに戦闘のレベルが違います」

「刀使いの勝負もそうでしたが、レベル差や戦法ばかりに気を取られ、肝心の各装備の"練度"が疎かになっている。PSと言ってしまえばそれまでですが、無印組、もっと言えば6以前からL&Cをやり込んでいる者たちが積み上げてきたモノの"重み"でしょうか? そういったものを感じる結果ですね」

「まったくです」


 L&Cは自由に動けるオープンアクション方式を採用している。そこで必要になるのはリアルと同等の戦闘術であり、ただ剣を"棒"の様に振っている者には辿り着けない場所が存在する。


「どうやら、決着が付いたようです。勝者はチーム・炬燵猫です!」

「いや~、セイン率いる無印組が、ストレート勝利を決めてくれましたね」

「予想通りの結果ですね。いくらアバターのレベルに差があろうとも、攻撃が当たらなければどうと言う事は無い」

「トワキン組の攻略法が、見えましたね」


 純粋な実力差を見せつけ、チーム・炬燵猫の3人が、喝采を浴びつつロビーに戻る。


「それで!」

「まさかセイン、ここまで来て勝ち逃げなんて、言わないわよね!?」

「え? あぁ、一応3回戦も戦うつもりだぞ? 相手に…………まだ戦意があれば、だけど」

「なんなら、アタシが相手になろうか!?」

「え、それなら、ボクもいいですか!?」

「いや、ダメに決まっているだろ。趣旨を忘れるな」

「「ぐっ……」」

「にしし、兄ちゃんは今日も大人気なのにゃ」

「いや、思いっきりクビを狙われているんだが……」




 こうして、緊張感こそ無いものの、シングルそしてパーティーと、2本ストレート先取でセインたちの勝ち越しが確定した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る