#413 闘技場実装初日②

「そう言えば闘技場ココって、旧都にあるって設定なんだよな?」

「ん~、その辺の詳細は、現段階では公開されてないっぽいのにゃ」


 ギルドから直接転送サービスを利用して闘技場の控室にやってきた。因みに、アイドルのユンユンは当然ながらお留守番。今頃、動画の編集でもしているのだろう。『録画データだけはちょうだい!』と言っていたので、謹んで聞かなかった事にした。


「闘技場と名のつく施設は旧都の廃墟だけ。ここが旧都の闘技場なのか、それともストーリーとは無関係の別空間なのか、謎なところだけど……」

「掲示板では、崩壊する前の旧都だと言われているのにゃ」


 過去にタイムスリップしているとか、なかなか飛躍した解釈だが…………実際にNPCの会話にはソレを臭わせる発言がある。ミスリードの可能性もあるが、実際、旧王都では何らかの実験が行われており、その触媒として大量の戦士の命が捧げられていたとか。


「おい! あれ、セインじゃないか!?」

「いや、ただの成りすましだろ?」

「でも、女性PCを連れているぞ?」

「ホントだ! セインだ! セインが現れたぞ!!」


 早速人だかりができる。俺の判断基準に不満はあるが…………実際の所、このアバターはデフォルト顔で装備も特別主張は無い。そうなると戦闘スタイルや仲間の構成で判断するしかないのも事実だ。


「セイン? 配信者か何かか??」

「テメー、さてはニワカだな。セインって言ったら、7実装直後に"対人最強"と言われた、伝説のPCだぞ!」

「まぁ、本当に最初だけだったらしいけど」

「へぇ~、つまり、ガチニートって事ね」

「ハハッ! うける」


 俺をめぐって、遠巻きに口論が起きる。どう見てもトワキン経由の新規ユーザーだ。


「「…………」」

「ニャンコロさん、確か指名対戦で、好きな人と戦えるのですよね?」

「あぁ、うん。戦えるけど、いちいち相手にしていたらキリがないから、やめるのにゃ」


 早速、ウチの狂犬メイドが対戦相手を物色する。



 闘技場では、レート帯に分かれて対戦できるが、基本ルールが3種類用意されている。


①、シングルバトル。1対1、障害物なし、純粋な闘技場での対戦。


②、パーティーバトル。最大3名のPT対戦、障害物なし、純粋な闘技場での対戦。


③、サバイバルバトル。99名の同時対戦で1~3人のPTで障害物ありの広大なフィールドで戦う。最後まで生き残ったPTが勝者となる。


 レート帯は、個別レートと総合レートに分かれており、4種類それぞれに報酬が用意されている。レート報酬は一ヵ月単位で集計される。加えて、レートに影響しないカスタムマッチも後日実装予定となる。


 現在はプレオープン中であり、正式スタートはシーズンが更新される来月からとなる。また、月ごとにテーマが用意されており、ある程度、有利不利に変化を持たせる方針となっている。



「は~ぃ、余裕~。マジで、パソコン版の連中はカモだな!」

「これからはドリッチの時代だな」

「つか、デフォルトスキンとか、キモくて見ていられないんですけど? マジで、俺たちの踏み台意外に存在価値が無いな」


 堂々とオープンでヘイト発言を垂れ流すPTが、転送ゲートから現れる。


 L&C7+は、オフライン版のトワキンとの連携にあたり、据え置き型ゲーム機でもプレイできるようになった。ここで問題となるのは、トワキンのレベル先行問題が代表的だが…………それ以外にもゲームの物理演算がハードごとに若干異なっている点も挙げられる。


 コンシューマ版(据え置き機版)は、現在3機種に対応しているが、一番命中補正が高いのがドリッチで、トワキン組の中でもドリッチとそれ以外のユーザー間で更に軋轢が生まれている。


「たしかコンシューマ版の課金って、直接強さには影響ないんですよね?」

「まぁ、そうなんだけど…………そういうトコでマウントとりたいお年頃なのにゃ。あまりその辺、関わらない方がイイのにゃ」

「まったく。見た目の変更程度でイキって、恥ずかしくないのかしら?」


 近年、ソーシャルゲームの過剰な課金戦略は規制され、据え置き機での無制限の課金要素は全面的に禁止された。トワキンもその流れに従い、ガチャやゲーム内通貨を購入する機能は存在しない。しかし、コンシューマ業界は横の繋がりが厳しく、購入特典の連携要素からは逃れられなかった。


 例えば『他のタイトルを購入してコードをトワキンに入力すると、そのタイトルのスキンと特殊デザインの武器が入手できる』などのサービスだ。どれも既存のモノと"同等"の性能であり、強さに直接影響しない。しかし、そこにはコレクター要素があり、精神的な優位性があるのも事実。特に流行りのアニメの影響は強く、それらの装備を集めることがある種の社会的地位ステータスになっている。


「それより! セインはどれに参加するの!? まぁどうしてもって言うのなら、特別に協力してあげてもイイわよ!!」

「そうだな。えっと…………とりあえず、1番待ち時間が少ないのは、シングルバトルか」

「ぐっ」


 システム画面で、それぞれのマッチの混雑状況が確認できる。回転が早いのはシングルで、手っ取り早くレートを稼ぎたい人向け。対してサバイバルは1回の報酬は良いものの、回転が悪く、現状では不人気の様だ。今はシングルに人気が集まっているが…………今後は低いレート帯ではランダム要素の強いサバイバル、高レートでは安定して稼げるシングルが主流になると予想される。


「おい、そこのデフォルト顔!」

「ん? 俺の事か??」


 既存ユーザーに距離を取られる中、何処かで見たようなアニメキャラに声をかけられる。


「お前、ニートの癖にイキっているらしいじゃないか」

「女性アバターを引き連れて、ハーレム気取りですか? キモー」

「デフォルトアバターで恥ずかしくないの? 俺たちに勝てたら、この限定版ラストブレイドのスキン、あげよっか?」

「「…………」」


 初手、煽り。トワキン組のマナーの悪さはココにある。現在、既存ユーザーのセカンドアバターはレベルカンストしていない。つまりトワキンのカンストアバターがあれば、既存ユーザーに指名対戦を挑むことで勝率を飛躍的に向上できるわけだ。


 あと、どうでもいいがウチは男2女3なのでハーレムではない。


「一応言っておくが、レートの計算方式は持ちレートで変化する。早くレート帯を上げたければ、勝ち点を稼いでいるヤツを狙う方が、効率がいいぞ?」

「はぁ? 聞いたかよ。コイツ負けるのが怖くて、挑戦を断ろうとしているぜ!」

「だっさ! 対人最強、だっさ!!」

「ご主人様、ここはボクが…………あれ?」

「ハウス!」

「うっす!」


 ウチの狂犬が早速剣を抜こうとするが、ロビーは戦闘不可エリアであり、剣が抜けずに無様に立往生してしまった。


「はぁ~、だっせ! 早く、ポイントだけ俺たちに渡してどうぞ!」

「「……………………」」


 下品な笑い声がロビーに響く。俺としては煽られなれているので何とも思わないが…………残念ながらウチにはキレやすい奴が揃っている。


「なぁアニキ。アタシにやらせてくれないか?」

「ちょっとSK、エモノを横取りするつもり?」

「にしし。おいおい死んだわアイツ、状態なのにゃ」


 見ればニャン子だけでなく、周囲の既存ユーザーも含み笑いを浮かべている。この程度の相手が放置されている事からも、やはりランキングを狙えるユーザーは闘技場には不参加。それよりも『レベル上げやアイテム収集を優先したい』という心情が強いようだ。


 運営は、このレベル格差を理解したうえで闘技場を企画している。もちろん、テーマで多少は調整する予定の様だが…………運営は"RPG"に並々ならぬ拘りを持っており、条件を完全な平等フラットにするつもりは無い様だ。


「まぁいい。折角だから挑戦を受けさせてもらおう。えっと、メンバーは……」




 こうして俺は、予定通りトワキン組に絡まれ、注目を集めながらも対戦する事となった。

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