#409 L&C6 ②

「はい、それでは引き続き実況してまいります。解説はわたくし、ハンサム阿部と……」

「プリプリプリズンでお送りします」

「「見とけよ見とけよ~」」


 歓声の代わりとばかりにエモートやチャットが流れていく。ココは、多目的VR空間・下北沢薔薇園。魔王の一柱であり人気配信者のビースト田所が運営する、中継を目的としたVRルームだ。


「見事な混戦となっておりますが…………今のところは傲慢が有利と言ったところでしょうか?」

「少なくとも、場の空気を支配しているのは傲慢で間違いないですね」

「やはり大きいのは<奈落の大釜>ですね。これにより、偏った装備で挑んでいるサポーター部隊が次々にキルされてしまっています。しかし、フェアプレイヤーの傲慢が後衛狩りスキルを行き成り使ってきたのには、ちょっと驚かされましたね。これはやはり、傲慢も勝ちに来ているって事でしょうか?」


 中継画面には、陣形が崩れ、実況困難な泥沼の戦いが映し出されている。


「それはちょっと違いますね」

「ほほう、と、言いますと?」

「傲慢はフェアな戦いを好むPCだと思われがちですが、そこはあくまでCルートPC。時には汚い手も使います。つまり"美学"なんですよ。勇者は無敗の魔王に勝つために、今回、ギルドの垣根をこえたDT(ドリームチーム)を結成しました。それ自体は傲慢も歓迎しています。しかし、サポーターによる"削り戦法"は美学に反してしまった」


 勇者がDTを結成して無敗の魔王に挑む事は、作戦の性質からも"公然の秘密"となっていた。しかし問題となったのは"戦法"だ。L&Cは味方の攻撃にも当たり判定があり、尚且つ一人称視点故に前衛(味方)の視界遮断も軽視できない。よって、"数的有利"が他のゲームに比べて機能しにくい設計なのだ。



 必然的に選ばれたのが4重の陣形を基本とした削り戦法だ。

①、前衛型の勇者が、追加ダメージを重視した構成で魔王をおさえる。


②、後衛型の勇者が、安定(防御)重視の装備で前衛の支援に徹する。


③、第一サポート部隊が、魔王の射程外より後衛の支援に徹する。


④、第二サポート部隊が、不測の事態に対して一時的に勇者と入れ替わり、立て直しの時間を稼ぐ。


 計画であった。しかし<奈落の大釜>の効果でフィールドと射程を大幅に制限されてしまった為、作戦は崩壊。サポートに徹する為に偏った装備で挑んでいたサポート部隊が早々にキルされていく結果に繋がった。



「L&Cは自由に動けるオープンアクション方式を採用しています。故に、ゲーマーよりもリアル武道経験者が有利と言われていますが…………そう言う所も含めて、傲慢は格闘家、DTはゲーマーの構図になっている様に見えますね」

「傲慢は、どちらかといえばスポーツマンですけどね。あるいはプロレススタイルですね」

「なるほど、師である色欲の影響も大きいのでしょう。…………おっと、ついにサポート側の魔法使いが全滅だ!」

「他の支援部隊も時間の問題でしょうね。彼らの大半はランカーであり、本来ならここまでアッサリって事は無いのですが…………残念ながら今回は、DTと言う事で、構成を大きく変更して挑んでいます」

「本来の力が発揮出来ていない訳ですね」

「最後の戦いで、このオチは辛いでしょう。変な遺恨が残らないといいのですが」

「おっと、ここで替え玉部隊も全滅。相変わらず、傲慢は背後からの攻撃に強いですね」

「背後からの攻撃は、音やリズムを掴んでいれば結構何とかなりますよ? 警戒する補助スキルもありますしね。問題は"見える事"ではなく、前後から同時に攻撃された場合の"返し"の正確さです」

「相変わらずランカーの世界は、変態空間ですね」

「汚い絵面の我々に言われるのは、心外でしょうけどね」

「まぁ、俺はハンサムだけど」

「それならワタシはエンジェルよ?」

「「……………………」」

「下北沢!」

「薔薇園!」

「「見とけよ見とけよ~」」


 チャット欄が高速で流れる。配信業界は美少女アバターが花形であり、男性、それもガチムチ系アバターで人気を博しているのは、実力に裏付けがなされているビースト田所一派に限られる。


「おっと、ここでついに、サポート部隊が全滅です。しかし、勇者も意地を見せて全員生き残っております。6時代最後の戦いは、勇者7人対魔王1人の構図になってしまいました」

「奈落の効果も終了しましたね。舞台がボス部屋に戻り、小休止と言う訳ではないですが"仕切り直し"の雰囲気になっています」

「やはり勇者"だけ"を残したのは、傲慢の配慮でしょうか? それこそ、傲慢の実力なら全員キルしていても不思議は無いですからね」

「どうでしょう? 傲慢はボクシングや柔道にある早期決着を嫌います。これは実力を隠している訳でも無ければ、露骨な人間アピールをしている訳でも無い。相手の全力を受けきることで、絶えず自分を成長させているんですよ」

「秘策を用意したけど、見せる前に終わってしまったって事はよくありますが…………傲慢はそう言った部分も見る事で、余すことなく経験値に変換している訳ですね」

「そう言う事です。傲慢は、まさに傲慢。武道によくある"自分との戦い"みたいな葛藤は一切なく、正面から相手を凌駕していく。最後のボスに相応しいスタイルですよね」


 チャット欄に"同意"ととれるメッセージが流れる。その中には、敵であるはずのLルートをプレイする者も含まれる。純粋な技量で頂点に君臨する傲慢の魔王には、ルートを超越した人気があった。


「おっと、どうやら戦いが再開する様です。気になる傲慢の第二リミットスキルは……」

「これは<ヴァルハラゲート>ですね」

「またしてもフィールドスキルですか。やはり傲慢は、手の内を出し切らせてからキルするつもりの様ですね」

「その様ですね。ヴァルハラはスタミナの限界を緩和するスキルですから、パッシブ主体の傲慢にはメリットが少ない」

「ですが、フィールドスキルが人外側に有利なのも事実ですよね?」


 敵味方問わずに効果が適用されるフィールドスキルは、一見すると平等に思える。しかし実際には、基本ステータスが高い人外側"有利"となる。これは、人側は人外のフルコンボをまともに受けた場合"即死"してしまうのに対して、人外側は最大体力が高いおかげでフルコンボを受けてもリカバリーが利く点などが挙げられる。


「逆に言えば、"有利"止まりですよね?」

「確かに。奈落と違って"致命的"では無いですね」

「おっと、黒崎がまともに貰ってしまったようですね」

「今の踏み込みは"甘え"でしたね」

「ん~、迂闊なのは確かですけど、ヴァルハラに振り回されている感じですね。回復量増加のせいで繊細なSP管理の感覚が狂ってしまった感じです」

「なるほど。意図せず増えてしまうのも考え物ですね」

「対してクレナイは、もとから<バーサーク>でSPが増減する感覚に慣れているので、上手く対応できていますね」

「DT側が勝つとすれば、MVPはクレナイで決まりですかね?」

「どうでしょう。そこは傲慢の魔法防御しだいだと思われますが」

「あぁ、相変わらず地味過ぎてすっかり忘れていました」


 派手に前に出て戦う勇者やその支援をするヒーラーに対し、この場で唯一の戦闘型魔法使いの戦法は地味で姑息。最後尾から目立たない冷気魔法を黙々と放って削るだけ。そしてその魔法は、地味であるが故に『効いているのか、いないのか』すら判断できない。


「FF(同士討ち)がある以上仕方の無い事ですが、やはりL&Cの"華"は前衛の肉弾戦なんだと再確認できますね」


 傲慢の魔王の戦闘スタイルはパッシブ重視の近接戦であり、無理に後衛を狙ってくる事も無いので、必然的に盾役や中衛の仕事が少なくなる。逆に重要になってくるのは前衛とそれを回復する回復支援だ。DT側もそれを理解しており、神器級装備を前衛に集めている。


「おっと! マルスが串刺しだ! 瀕死の様ですが蘇生は間に合うか!?」

「あぁ、逆サイドに投げ飛ばされてしまいました。これは射程的に蘇生は難しいでしょうね」


 黄金に輝く鎧を身に纏う商人が、傲慢の双剣に貫かれ、ヒーラーと逆の方向に投げ飛ばされる。周囲は"即死"を確信する状況だったが、その場で戦うDTたちにとっては『そうではない"はず"』の状況であった。


「おっと、どうしたDT! 反応遅いよ、何やってんのー!!」

「金色の栄光・マルスが、ついにキルされてしまいましたね」

「今のは明らかに動きが鈍かった様に思われましたが…………これは、マルスよりも安定行動をとったって事でしょうか?」

「いえ、他の面々も動揺しています。これは傲慢の頭脳プレー、秘薬を使うか迷うくらいまで体力を削り、そこから一気にキルまで持って行った感じですね」

「なるほど、皮肉にも商人がアイテム使用を惜しんでキルされてしまった訳ですね」


 マルスの装備はDTの中でも最高の防御力を誇っており、尚且つ秘薬の所持数も最多であった。しかし、それは見れば容易に予想がつく。故に傲慢は、マルスに対してはひたすらに浅い攻撃に留めていた。これにより、マルスは傲慢の攻撃力を見誤ったのだ。そして、倉庫役として予備の秘薬を持ったまま、マルスの戦いは終わった。


「ヴァルハラゲートの効果が終わったようですね。傲慢は最後のリミットスキルをまだ見せていません。はたしてDTは、何処まで傲慢の体力を削ったのでしょうか!?」




 白熱の戦いは続く。

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