#408 L&C6

「泣いても笑っても、この戦いで全てが決まる。装備やアイテムも含めて、全力を出し切るぞ!」

「「応ッ!!」」


 1人は盾に魔力を籠め正面へ、1人は脚に魔力を籠め背後に、一人は杖に魔力を籠め祈りを捧げる。それぞれが仲間を信じ、それぞれの役割に専念する。彼の者たちに立ちはだかる壁は、この世界の頂点であり、それぞれが全力を出し切る意外に越える術はない。


「最初から全力だ! バーサーク!!」

「ハハッ! 流石はクレナイ! 分かっているじゃないか!!」


 紅蓮の剣士が、紅いオーラを纏い早々に畳み掛ける。その覇気を真っ向から受け、最強が嬉々として受けに回る。荒れ狂う無数の斬撃が彼の敵を襲う。しかしそのことごとくくが軌道を変え、空を切り裂く。しかしそれでも、斬撃に纏われた炎は彼の敵に喰らいつき、彼の体を焦がしていた。


「背中が煤けてるぜ!」


 背後に回った緑の弓士が、光を纏う矢を放つ。


「無粋だな」

「「なぁ!!?」」


 背後から迫りくる瞬きを、頂点が後ろ手で掴み、そのまま紅蓮に突き立てる。荒れ狂う炎は霧散し、輝きを失う。


「時間切れだ! 頼む!!」

「「応ッ!!」」


 紅蓮がその場を退き、漆黒の剣士がその場に飛び込む。


「相変わらず、常識ってぇもんがねぇな!」

「こっちは1人なんだ。いちいち背後からの攻撃を受けていては、魔王は勤まらんだろ?」

「悪いが世間じゃ、それを"常識"とは、呼ばねぇんだよ!!」


 非常識が、漆黒の剣と光の矢を同時に捌く。その手は無刀であり、それでいてどんな刃よりも鋭く、どんな鋼よりも固かった。


「2人とも下がれ!」

「「よし来た!!」」


 無数の十字架が降り注ぎ、暴君を縛る。


「流石に、5人がかりの神聖結界はどうしようもないな」


 渦巻く冷気が氷柱と化し、続けて轟く雷鳴が氷柱を光で包む。最後に燃える岩弾が輝く氷柱を粉砕する。


「やったか!?」

「お見事。シビアな連携魔法を、上手く決めたな」

「「なに!?」」


 宿敵は手を掲げ、魔術師たちに称賛を送る。しかし、一同の顔には"驚き"の色が満ちていた。


 そう、この攻撃は本来、決まらない"はず"の攻撃であった。彼の奇才は近接主体であり、遠距離攻撃に対する対策は取っていて当然。それが決まったと言う事は…………別の何かがスロットにセットされていると言う事であり、攻略プランの立て直しが求められる。


「さて、ここからは第2ラウンドだ。たまには大技も、見せていかないとな!」

「「!!?」」


 悪魔の手から闇が零れ落ちる。その闇は世界に満ち、宇宙を思わせる空間を作り出す。


「不味い! 奈落だ!!」

「くそっ! 回避職は後衛のフォローに廻れ! 正面は俺たちが受け持つ!!」


 奈落の大釜:周囲の全ユニットを超重力結界に閉じ込める。逃走・移動・スタミナ消費・遠距離攻撃にペナルティーを課すボス専用のフィールドスキル。効果は敵味方問わず全ユニットに適応される。


「3割り削った記念は気に入ってもらえたかな? サプライズはまだ用意してあるから、頑張って俺の体力を削ってくれ」

「ここに来てリミットスキルを変えてくるとはな……」


 リミットスキル:体力が3・6・9割以下になると使用できる特殊スキル。スキルによって再使用などの条件は異なるが、どれも非常に強力。


「くそっ、移動スキルは使えない! 間合いの調整に注意しろ!!」

「「応ッ!」」

「それじゃあ俺も、ちょっと本気を出すかな」

「「!!?」」


 狂気の右手が、その胸に突き立てられる。やがて引き抜かれた手には、赤い一振りの短刀が握られていた。


「来たぞ! 血刀だ!!」

「まともに受けたら即死だ! 全員、気合で避けろ!!」

「「応ッ!!」」


 ブラッドエッジ:体力を消費して、消費した体力に応じた攻撃力を持つ武器を生成するスキル。耐久値が一定以下になると消滅するが、高い体力を持つボスが使用するとその攻撃力は神器級装備と同等の性能となる。


 衝撃が轟き、爆炎が舞う。閃光が駆け抜け、血の花が咲き乱れる。その光景は至高であり、華やかでありながら同時に泥臭くもあった。





 夜空を朝日が照らし、奈落の闇が晴れる。ただ1つ無粋なのは、この朝が"戦いの終わり"ではなく、単にスキルの効果時間の終了を告げている点であろう。


「くそっ! 結局、サポーターは全員持っていかれちまったか」

「PT構成を変えてドリームチームで挑んでいる俺たちが言えた義理は無いが…………準備段階で読み負けたのは認めざるを得ないな」

「そう、嘆くなよ。遠距離攻撃で削り切るオチは、時代の最後に"相応しくない"と思わないか?」

「確かに、L&Cは近距離主体のアクションだ。しかし……」


 剣が、斧が、槍が、盾が、杖が…………達人に向けられる。


「だからって、お前みたいに純粋な戦闘技能で成り上がったソロプレイヤーに"頂点"を乗っ取られたままじゃぁ、ゲーマーの立つ瀬が無い」

「そうだ! L&CはあくまでアクションRPG。達人だか神業だかで、魔法や連携を否定されちゃ、やってられないんだよ!!」

「フッ、これは手厳しいな。とは言え、戦闘における連携"だけが"MMOの醍醐味でないのも事実だ」

「チッ、ついに来たか」


 覇者の左手に、新たな血の剣が産声をあげる。選ばれし7人が、伝説の秘薬を惜しみなく飲み干す。


「さぁ、お喋りの時間は終わりだ」

「命賭けて削らせてもらうぜ! バーサーク!!」

「おっと、MVPは渡さないぜ! オーバードライブ!!」

「まぁ、やれるだけはやらせてもらおう! 裏・朧蓮華!!」

「まったく、熱くなりやがって。トリプル・マジックブースト!!」

「実は俺、世界樹の秘薬を使ったの初めてなんだよね。ウィンドライド!!」

「俺はタンクだからよく使い、よく破産しているけどな! エデンズウォール!!」

「意味もなく記念に使っているPCはコチラになります。ラストサンクチュアリー!!」


 それぞれが自分を奮い立たせる言葉と共に、アバターを輝きで包む。


「ハハッ! いいよ、来いよ! 逝かせてやる!!」


 1人で戦う魔王が、先達である魔王から受け継いだ言葉を口にする。そこにもまた、確かに継がれる何かがあった。


 そして世界は、天へと昇る。


「この期に及んでヴァルハラとはな」

「即死系じゃなくて、助かったぜ」


 ヴァルハラゲート:周囲の全ユニットを黄金に彩られた闘技場へと誘うボス専用フィールドスキル。体力・魔力・スタミナ回復速度の向上と、詠唱・スキルクールタイムの減少効果があり、本来は繋がらない技や魔法の連続詠唱が可能となる。


「さぁ、これから第3ラウンドだ。集まったギャラリーの為にも、出来るだけ多く生き残これるよう、頑張ってくれ」




 7対1。この場は魔王と、選ばれし勇者7人だけが存在を許された空間だ。しかし、その世界には外からの"目"があり、万を優に超える人の目が、その戦いを見守っていた。

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