#406(8週目日曜日・夜・セイン3)
「セインさん! お疲れさまです!!」
「ちぇ~、結局アニキ1人で倒しちゃうんだもんな~」
「ははは、SKお姉ちゃん、まだ戦い足りないんだね」
「いや、見てたらウズウズしちゃってさ!」
「「ハハハハァ~」」
駆け寄ってきたナツキたちと軽く言葉を交わし、俺は各所で待機している面々にメッセージを送る。
「さて、とりあえず移動しないか?」
「「はい!」」
「あぁ…、そういえば」
「「??」」
「いや、イベントはどうするんだ? まだ少し時間があるから、急げば間に合うと思うぞ?」
「「あぁ!!」」
3人は、試合やダブルリッパーの事でイベントどころでは無かった。しかし、それが解決した今、初回限定バージョンのイベントに参加しない理由はない。
「ユランには俺から話をつけておくから、急いで行ってこい」
「「はい!」」
「あ! そうだ…」
「ん?」
「えっと、コレ、ユランさんに返してもらっていいですか?」
そう言ってナツキが託してきたのは[グリードアックス]。これが事の発端であることは理解できるが…。
「いいのか? 一応、勝者であり、俺の知る限り"非"は無いと思うのだが…」
「えっと、それはそうなんですけど…。やっぱり、後腐れなく、やっていきたいじゃないですか」
そう言って3人は視線を絡め、頷き合う。どうやらこの事は、勝ち負けとは関係なく決めていたようだ。
「そうか、まぁ、俺が口を挟むことではないな。分かった。ユランには俺が責任をもって渡しておく」
「「お願いします!」」
「ん? 悪い、緊急メッセージだ。すまないが先に行っていてくれ」
『お忙しいところ失礼します! 申しわけないのですが、可能ならスバルさんを止めてもらえないでしょうか!?』
3人を見送りつつ、草餅にメッセージを返す。
『どうした慌てて』
『それが…、
草餅にしては歯切れが悪い。多分だが『恩を売るために余計なことをしようとして、スバルに咎められた』ってところだろう。
スバルには、決着が付いたことは伝えてあるが、未だに返信は無い。
『俺のところは、すでに片付いたから人を送っても無駄だ。自警団は、知らん。自己責任で好きにしろ』
『あ、ちょ…』
それだけ言ってメッセージを閉じてしまう。
勇者同盟としては『同盟の影響力』が第一なので、裏方として大団円を見守るポジションには問題があるようだ。
まぁ、知ったことではないが…。
『スバル! 撤収するぞ。同盟の連中は好きにさせておけ』
『あ、ご主人様! 了解です!!』
"終わった"ではなく"撤収"を指示すると、すぐさま二つ返事を返してくるスバル。
急いでいたので一悶着の内容は聞きそびれてしまったが…、後にそれとなく聞いたところ、男の子?がどうのと、何やら形容しがたい状況だったようだ。
*
『兄ちゃん、大変なのにゃ! アイにゃんが! とにかく止めてあげて!!』
今度はニャン子から緊急メッセージが届く。コチラも要領を得ない内容に、憂鬱な気持ちが湧いてくる。
『もうすぐ着くが、どうしたんだ?』
『あ! 兄ちゃん、アイにゃんとHiにゃんが!!』
なんでアイとHiが争う事になるんだ? 鬼畜道化師商会の幹部同士で争いになるのなら分かるのだが…。
「おい、とりあえず分かるように状況を説明しろ」
「兄ちゃん! 遅いのにゃ!!」
「ごめんなさいね~、ヒィちゃんが張り合っちゃって…」
現場に到着すると…、そこでは"酷い"としか言いようのない乱戦が繰り広げられていた。
Dと商人をはじめとする経営グループと、幹部や新人で構成された実行グループが、剣を交えて戦っており…、なぜかそこに両者を敵にまわしてアイが暴れ回っている。
そして、その乱戦を一歩引いた場所から見守るニャン子とLu。
「えっと…、いったい何をしたらあそこまでアイをブチギレさせられるんだ?」
「もとはと言えば兄ちゃんが!!」
「ごめんなさい。まさか"ジュエルナイフ"の事で、ここまで話が拗れるなんて…」
ジュエルナイフって、今回の依頼の報酬で渡した[レッドジュエルナイフ]の事だよな?
「ん~。まぁいいや。俺は先に帰るから、あとはヨロシク」
「ちょ! 止めないのにゃ!?」
「別に、本人たちが納得するまで戦わせてやればいいだろ? 俺は人様の戦いに水をさ…」
「そう言うの今はいらないのにゃ!!」
「お、おぅ…」
「あぁ~、これはヒィちゃん、苦労しそうね~」
「??」
よくわからないが、別に陰湿な感じはしないので『納得いくまで戦わせればいいじゃないか』と思ってしまう。
それより、俺はユランにアックスを渡して、サッサと転生したい。
「クソッ! この女、強すぎだろ!?」
「大人しく、そのナイフを渡しなさい。今なら、アカウントデリートだけで許してあげますから!」
「誰が渡すか!? つか、それは許すうちに入らないから!!」
鬼の形相で斧を振るうアイと、吹き飛ぶ道化師たち。そして逃げ惑うHi。しかし、各々の顔はどことなく楽しそうと言うか…、自警団やEDとの戦いに満ちていた雰囲気とは違い、清々しい印象を感じる。
「やはり、C√はこれくらいカオスで、後腐れなく殺し合える状況が望ましい。そう、思わないか?」
「いや、全然思わないのにゃ」
「ふふふふ、セインちゃんのそういうところ、キライじゃないわ」
「ちゃん付けは、出来れば止めて欲しいな…。あ、そう言えば」
「はにゃ?」
L&Cの転生システムは、他のゲームと違って特別なイベントは無く、条件さえ揃えばいつでもメニューから行える『ボーナス付きのリセット』だ。
故に、このまま転生するとギルドマスターが空席になってしまう。一応、サブマスターが繰り上がる形でギルドが崩壊しないようになっているのだが…、自動処理に全て任せてしまうと『権限の割り当て』の問題があるので、前もってマスターが権限を割り当てておくのがマナーとなっている。
「いや、ギルドの権限移譲をしていなかったと思ってな。まぁ、アイに任せておけばいいか?」
「はっ! それはダメなのにゃ! アイにゃんに任せたら!!」
「 …そっか。じゃあ、ニャン子、お前に任せた」
「ちょま!? いや、だからアチシはそう言うのは…」」
「今からお前がマスターだ。だから、俺やアイに気をつかわず、好きにすればいい。ギルドメンバーも含めてな」
「え?」
「それじゃあ、俺は急ぎの用事があるから、あとは任せた!」
「ちょっ、兄ちゃん!!」
ニャン子を無視して、俺はアックスを渡しに行く。そして、そのまま転生してしまう。
自警団や勇者同盟、EDに鬼畜道化師商会、そしてディスファンクションと便座カバー。思い返しても胸焼けしそうなくらいに面倒な連中に絡まれて散々だったが…、ニャン子にスバル、ナツキとコノハ、そしてSKやHiたち…。良い出会いもそれなりにあった事に、若干だが、俺も少しは丸くなってもいい気がしてしまった。
ニャン子がギルドをどうするのか? 自警団や勇者同盟はどうなるのか? そして便座カバーやディスファンクションはこのまま姿を消してしまうのか? 悩みは尽きないが…、
これにて俺の未転生時の物語は…、終わりとなる。
Law and Chaos online 7 ~俺は人生をかけて人類の敵、やってます~ 完
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