#404(8週目日曜日・夜・便座カバー)
「丸! 交代だ!!」
「すまない!」
「丸さん、今回復します」
「助かるぜ!」
「 ………。」
負傷した丸んことポジションを交代する。そのやり取りを見たセインは…、回復を妨害する素振りは見せない。
丸んこ程度は眼中にないと言わんばかりだが、実のところ、急所攻撃を貰いすぎて(回復制限があるので)回復は殆ど意味をなしていない。それを理解しているのもそうだが、なにより、俺が隙を伺っているのを理解しているのだろう。
「まぁいい。それなら正面から、ねじ伏せるだけだ!!」
「あぁ、そうか…」
俺の連続攻撃を、生返事と共にノラリクラリとイナしていくセイン。いまいち考えが読めないが、受けに回ってくれるのは好都合。
セインは圧倒的な才能から、他者を常に見下している。まぁ、俺も人のことは言えないが…、少なくとも俺は、セインを『最強クラスのPC』と認め、勝利のための幾重にも布石を打ってきた。
「丸さん、行けますか?」
「おうよ! このまま終わってたまるか!!」
「ブラウス、流れ弾に当たる可能性がある! お前は回復に専念しろ!!」
「了解です!」
丸んこが戦線復帰して、挟み撃ちの形を作る。そしてブラウスは、同士討ちの危険があるので支援にまわす。
推測するに、セインの装備は機動力と魔法防御に特化しており、魔法は無理に回避する必要は無いようだ。対してコチラは、魔法防御は完全に捨てているので(風精霊の祝福の効果で)それた魔法を受ける訳にはいかない。それなら、魔法での援護射撃は切り捨ててしまうのが正解だろう。
「クソっ! 俺にだって意地があるんだ!!」
「そうか」
「そうか、じゃねえ!!」
完全に丸んこを子ども扱いするセイン。しかし、これでいい。セインにトゥルスを見せたのもそうだが、全ては勝つための布石。
セインは、俺が元魔王である事に気づいている。もちろん、この名前で気づかない方がどうかしているが…、そのせいで俺を過剰に警戒し、当然のように『勝利へのシナリオ』を考えてしまう。それが罠とも知らずに…。
「ふ! トゥルスは、こんな使い方も、出来るんだぜ!!」
「そうだな」
「ぐはっ!?」
トゥルスの形状を利用して武器破壊を狙ったが、当然のように読まれてカウンターで蹴りを貰ってしまった。
「足技も、使えるんだな…」
「そうかもな」
相変わらず生返事。俺を元魔王と理解してもこの態度。この見下しっぷり、そして絶対的な強さは、傲慢の魔王に負けずとも劣らないものがある。セインが魔王経験者なのかは(頂点同士だと対峙する機会が巡ってこないので)判断しかねるが…、まぁ、そんな事はどうでもいい。今は、セインの"傲慢"を最大限利用させてもらうだけだ。
「つか、二刀流は使わないのかよ!?」
「別に、二刀流が上位互換と言う訳ではないだろう?」
丸んこの手首を、手刀で打ち払うセイン。見たところ丸んこにダメージは無いので、対応スキルはセットしていないようだ。これは『丸んこへの打点を削ってでもSPを温存する』作戦とみていいだろう。
「そこです!」
「あぁ、まだ居たのか」
「居ましたよ!」
ブラウスが隙をついて、杖でセインにダメージを与える。しかし、軽くカスメた程度なのでダメージは期待できない。むしろ、わざと当たってステータスや間合いを計っている様にも見える。
しかしセインは…、口ぶりのわりに立ち回りは堅実で、なにより慎重だ。セインの強さは、そういった二面性にもあるのだろう。話術で判断力を乱しつつ、自身は徹底的に相手の分析に専念する。セインが仕掛けるのは、相手のステータスや構成など、全てが判明して『勝利へのシナリオ』が完成した時。
「そこ!」
「 ………。」
「だから、背後からの攻撃を、当然のように紙一重で躱すの、やめてくれません?」
「別に、当てられるなら当ててもらっても構わないのだが?」
「出来たら! 苦労! していません、よ!!」
先ほどまでは浅く入っていた攻撃も、全て紙一重で回避されてしまう。今、セインの脳内には、俺たちのコピーが生成されており、高速で勝利へのシナリオが計算されている。
時は間違いなく迫っている。
「俺の攻撃はどうだ!? 簡単に見切れると、思うなよ!!」
「 ………。」
終わりが近づき、俺も積極的に攻撃を見せていく。セインが仕掛けてくるのは、俺の攻撃を完全に見切った、その時。そう、その時が…、セインの最後だ。
魔王・ベンザロックは、<眷属召喚>で作った囮を利用しつつも、自身も前に出て物理攻撃で奇襲する。それは知れわたった事実。しかし、セインは知らない。魔王としての立ち回りは分かっても、人として、PKとしての、俺本来のスタイルは!
セインが俺から視線を外す。しかし、そこには今までのように攻撃を誘う気配はない。これは2人を仕留めに行く気配。
来た!!
すかさず俺は、ショートカットにセットしておいた"もう1本"のトゥスクルに切り替える。そう、俺の本来の戦闘スタイルは、形状の違う同系武器を視界外で切り替えて戦う不意打ちだ。
武器を使い分けて戦う戦法は、対人ではそれほど珍しくはない。しかし俺のは、あくまで"奥の手"として最後の最後まで温存し、見せない事を徹底する。有利不利とかは関係ない。相手が俺の間合いを完全に把握して『安全だと確信した間合い』、その隙を突く事に全てを賭ける。
この戦法は、相手が強ければ強いほど有効で…、ここ1番の勝負で幾度となく勝利を、そしてEDへ、さらに魔王へと、俺を導いてくれた必勝の戦法だ。
俺は本来なら紙一重で届かない距離から、F型に湾曲したトゥスクルの刀身で…、セインの首を…。
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