#401(8週目日曜日・夜・ナツキ&バハム~チョ)

「っ!!」

「コノハ、お願い!」

「任せて」


 SKがダメージを負い、私がカバーしつつ、コノハが回復魔法を使う。


「ハハハ、これはキツいな。正直、キミたちを舐めていたよ」


 あの後、私たちは助っ人の2人をキルして、3対1の状況まで追い込んだ。


 ハッキリ言ってバハム~チョとの実力差は『3対1でやっと対等』だ。一応、二刀流を発動させるところまでは持ち込んだけど…、そこから先は本当に泥沼だった。


 しかし、泥沼になれば回復魔法があるコチラが有利。連続回復のペナルティーで最大体力は大きく減ってしまったが、幸いなことに、相手には大きな一撃はない。このまま小まめに回復していけば、消耗戦で勝利できるだろう。


「おかげさまで、何とかココまで来れたけど…、正直、全然嬉しくないわね」

「だよな~」

「ほう、それならどうする? コチラとしては、その盾を外してくれると助かるんだが…」

「「 ………。」」


 視線だけでSKと会話する。


 たしかに、バハム~チョにはハンデとして2人を落としてもらっているので(冗談なのは理解しているが)提案は"妥当"と言えるだろう。


「わかったわ。盾無しはスキルが無駄になるからダメだけど…、予備の[アームガード]に交換するのはどう? この際だから、回復魔法も"無し"でいいわ」

「さっっすがナツキ!」

「はぁ~、しょうがないなぁ…」


 予想通りの反応に、ちょっと安心してしまう。


 SKは当然、消耗戦での勝利は望んでいない。コノハは『勝てるなら何でもいい』って感じだけど、同時に『私たちが納得できるならソレでいい』とも思っている。


「おいおい、いいのかソレで? 俺としては助かるけど」

「これは私たちの意地だから。だから悪いけど…」

「あぁ、まぁいいだろう」


 そう言ってお互いに戦闘状態を解除する。


 L&Cの仕様で、近くに戦闘可能な味方以外のユニットがいる場合は、ショートカットや装備の変更は出来ない。もちろん、申し出に応じたフリをして攻撃されるリスクはあるが…、流石にそれを心配するのは失礼だろう。


 私は装備中の[ラウンドバックラー]を、アームガードに変更する。この盾は、その名の通り腕を守るだけの盾で、カテゴリーは当然"盾"となる。見た目は"腕防具"に属するガントレットと大差ないが、カテゴリーが違うので、スキルやエンチャントなどの対応も変化する。


 まぁ、一言で纏めると『一番小さい盾』だ。


「よかった。まだ終わっていなかったか」

「お! アニキ、遅いぜ~」

「いや、むしろ早すぎると思うんだけど…」

「 …。…?」

「 …。…!」


 装備の変更中に、セインさんが走って戻ってきた。


 戻ってきた方向は関所のある方角。つまり、EDの人たちを返り討ちにしたと言う事…、ではなく、どうやら関所に現れた自警団に丸投げしてきたようだ。本人は否定しているが、私としては『計画通り』だったようにしか思えない。


「まぁ、邪魔するつもりは無いから、頑張ってくれ」

「「はい!!」」




 仕切り直してのバハム~チョ戦。


「それじゃあ、早速行かせてもらうぜ!!」

「させない!!」


 回復魔法が無くなったとは言え、コノハ狙いを継続するバハム~チョ。遊撃が得意なスカウトの立ち回りとして、防御が一番薄い後衛を狙うのは、基本通りの立ち回りと言えよう。


「甘いな」

「ッ!!」


 しかし、二刀流相手にアームガードはやはり心もとない。早さこそ補えたが、それでも速度は相手が上で、なにより私が使うショートソードではガードの隙を補いきれない。速度を意識して下手に相手の土俵に上がった結果、自分の持ち味を殺してしまった形だ。


 と、思われるだろう。


「貰った!!」

「残念ながら見えている」

「くっ」


 すかさず背後からバハム~チョに斬りかかるSKだが、これも難なく躱されてしまう。ランカークラスになると、背後からの攻撃も当然のように察知してくる。


 しかし、いくら相手がランカーバケモノでも、体は1つ。常識的な限界は超えられても、システムの限界は超えられない。


「2人で行くわよ!!」

「よし来た!!」


 二刀流の手数に追いつけないなら、2人で一刀ずつ相手にするまで。剣もそうだが、左右から同時に仕掛ければ、足や視界、なにより判断力を半分に出来る。


「ぐっ、流石に、マトモに相手は出来ないか…」


 たまらず距離をとるバハム~チョ。


 何とか2発ほど浅く入ったが…、下手に追っても隙をつかれるだけ。ここは焦らず、フォローしあえる立ち位置を維持しながら、ジックリ詰める。


「さて、名残惜しいが、どうやら"タイムリミット"のようだ。次で決めさせてもらうとしよう」

「望むところよ!」


 少し発言の意味が気になるが…、一発勝負はコチラとしても有り難い。今回、私たちが用意した秘策は2つある。1つはSKのダブルリッパー。残念ながらバハム~チョを凌駕する事は叶わなかったが、それでも、今の拮抗した状態までもってこれた功績は大きいだろう。


 そしてもう1つが…。○○○○だ。正直に言って単なる奇策。一発ネタと言っても過言ではない策なので、使わずに済むなら使わないつもりだった。


 L&Cは、基本的にはリアル志向だが、ところどころでゲームらしいテイストを確り残している。その1つに『インベントリ内のアイテムの重量ペナルティーの段階的な緩和』がある。装備は、重量などの影響で行動に無段階のペナルティーが科せられるわけだが、インベントリ内に収納したアイテムに関しては段階的にペナルティーが免除される。分かりやすく大雑把に省略して言うと『50%まではアイテムを拾ってもデメリットは無い』って感じだ。


 盾を持ち替えたのもコレが目的。ラウンドバックラーは捨てたわけではないが、装備していないだけで私の重量ペナルティーは大きく緩和されている。これにより、仕込んでおいた"邪道スキル"を最大限、有効活用できるだろう。





 レイピア使いを守っていた盾持ちがカバーを解いて、3方向から俺を取り囲む。2人同時で詰め切れないなら、3人同時を狙う。実にシンプルな発想だ。


 それならば特に問題はない。俺はそのまま誘いに乗る。


 回復魔法が無くなったとは言え、唯一俺の足についてこられるレイピア使い狙いを継続する。鎌も盾も1対1なら脅威はない。2対1なら脅威はあるが、それは足を使えば何とでもなる。問題なのはその隙をカバーしてくるレイピア使いであり、そこさえ落とせば勝負は決まったも同然だ。


 セインに視界をやれば、相変わらず考えが読めそうで読めない、不敵な笑みを浮かべている。自分の愛弟子の試合に駆けつけておきながら、アドバイスを送るでもなく、応援するでもなく、ただただ駆け引きを俯瞰から眺めて楽しむ。結局、面白い試合になれば、勝ち負け何てどうでもいいのだろう。


 俺は不意に沸いた邪念を振りほどくように叫ぶ。


「いくぞ!!」

「「はい!!」」


 予定通りレイピア使いの懐へ飛び込む。


 最速最短…、ではなく、リーチの長い鎌を避けて回り込むように距離をつめる。盾持ちには背中を見せることになるが、確り距離を把握しておけば問題ない。


 極限の状況下で研ぎ澄まされた俺の精神が、スッと浮き上がり…、周囲の空間と一体化する。


「ここで決めます!」

「 ………。」


 逃げずに身構えるレイピア使い。そして横と後ろから近づく気配が2つ。後ろの気配が予想よりも早いが、それでも(盾を軽くした程度では)足の差は埋めきれないようだ。


 どうやら、レイピア使いは刺し違えてでも俺の足を止める作戦のようだ。しかし『逃げ足だけで攻めが全く出来ていない』事は既に看破している。それならば、このまま擦れ違い様に"足"を貰って距離をとるのが正解だろう。


 横の気配はまだ遠い。後ろの気配が大きく地を蹴る。一か八か、飛び込みざまに突きを放つつもりのようだ。それならば、右で足を貰い、左で盾使いの手首でも貰うとしよう。


 レイピアの切っ先が、俺の胸元へ、そして頭上へと流れていく。


 レイピアの突きをくぐり抜け、体を捻って視界を後方に向ける。そう、注意すべきは後方から仕掛けてくる盾持ちだ。これまでの動きを見るかぎり、まだ『見せていないスキルがある』事は予測できる。それがもし、突進系スキルだった場合は、対応が間に合わない可能性がでてくる。


 視界がゆっくりと回る。脳裏では、俺の右がレイピア使いの足を正確にとらえている。あとは左で盾持ちを対処するだけ。


 盾持ちが今まで隠していた"奥の手"を、俺は…。


「!!?」


 しかし、視界の先に盾持ちはいなかった。


 何が起こったか理解する間もなく、視界が突然回転して、俺の加速した"世界"は突然終わりを迎えた。




 この感覚は久しぶりだ。いや、そうでもないか? セインに敗れた時以来だから…、まぁいいや。どうやら俺は、負けたらしい。

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