#400(8週目日曜日・夜・セイン&清十郎)
「くそ、セインが逃げるぞ!」
「っ!! 誰か! 動けるヤツはいないか!?」
俺は抱えていた兵士を処理して、荒れに荒れる関所前を後に…。
「おいおい、天下のセイン様が、この期に及んで逃げるのかよ?」
「そんな事を言っている場合か? まぁアレだ。俺はこれでも他人の戦いに水を注すようなマネはしない。そういうことだ」
「ぬぁ!?」
槍の突きをイナし、そのままトドメも刺さずに背を向ける。本来なら危うい行動だが…、姿勢を崩した槍使いに自警団がすぐさま群がり、時を置かずに命が1つ光りになって消える。
本来、自警団の実力ではED幹部には敵わない。それは今も同じだが…、状況は"いい勝負"と言える程度には拮抗している。その理由は『EDが俺対策で片寄った装備にしている』点も大きいだろう。
とは言え、今散っていったヤツは(多分)EDの正規メンバーではない。所詮は作戦にあわせて集められた傭兵や同じ悪徳ギルドの協力者だ。幹部は…。
「「 ………。」」
少し離れたところから指示を飛ばしつつもコチラを睨むだけ。連中は、状況がすでに詰んでいる事を理解している。この場にHが来ているかで勝敗は分かれるが…、元より落ち目のEDが、作戦を看破されたうえで、ココまで追い詰められた時点で『悪徳ギルドのトップ』としてのメンツは完全に崩壊した。
今回集めた助っ人や幹部は、自警団の捨て身の特攻により何人か指名手配が成立しているはず。それにより、今まではEDのネームバリューに釣られていた助っ人やスパイは、一斉に手を返して縁を切る。それどころか、情報を自警団や掲示板に流すようになるだろう。そうなればお得意の裏工作も機能しなくなり、転生後も含めて勢力を回復するのは不可能となる。
「おい! セイン!!」
「ん?」
離れた場所から人目をはばかることなく声を上げるは自警団団長。
「去るのは勝手だが! これで勝手に"恩"を売ったと思われるのは心外だ!!」
団長は自己中で、なにより他者の力を借りる事を拒むプライドの高い性格だが…、バカではない。今回の、あまりにも出来過ぎた展開に、俺からお膳立てがあった事は気づいているのだろう。
それなら、返す言葉は決まっている。
「何のことだ?
「「!!」」
「まぁ、せいぜい頑張ってくれ。俺はちょっと野暮用があるので、ここでお暇させてもらう。もし、横取りに少しでも罪悪感があるのなら…、そうだな、この場は見逃してもらえれば充分だ」
「ふん! まぁいい。今回は見逃してやる。せいぜい、背後には気をつけるんだな!!」
「「 ………。」」
再度背を向け、この場を去る。
団長は、とにかく面倒な相手だが…、それゆえ分かりやすくもある。もし俺や勇者同盟がこの場で下手に加勢しようものなら、逆に機嫌を損ねて収拾がつかなくなっていただろう。
まぁ、加勢しなければ自警団は敗北するだろうが…、生憎俺は、戦う者としてのポリシーやプライドを理解している。この場で『自警団を助ける』という行為は、俺にとって"美談"では無い。自分本意な思想を掲げて相手のプライドを傷つける"浅はかな行為"だ。
「そうだ! これは独り言だが…、今回の一件で一番の功労者であるミーファ君には、あとで褒賞を授与しないとな…」
「 ………。」
やはり、バレていたか。
自警団は表向きは俺と敵対している。しかし、EDのような陰湿な妨害行為は今まで一度も無かった。もしかしたら、最初からこうなる事を予想していたのかも知れない。
そんな事を思いつつも、俺は泥沼の戦場を後にする。
*
「団長! 徐々に戦線が押し返されています。このままでは…」
「狼狽えるな! 秘策はある。今は指名手配と、数減らしに全力を尽くせ!!」
「はっ!!」
やはり、対人戦に特化した幹部クラスが相手だと、数と勢いで押し切る作戦は通じないようだ。しかし、見たところそのレベルにあるのは3人だけ。他のメンバーが1段階から2段階ほどPSが落ちる。
まずは、雇った傭兵と思われる2段階低い連中は、混乱に乗じて指名手配と合わせてキルする。
「くそ! やっぱり、近接戦では手も足もでないか」
「ダメージを負ったものは下がって回復しろ! とにかく間合いを外すことを意識して立ち回れ!!」
コロッケたちが何とか踏ん張ってくれているが…、セインが去り、一気に状況は不利になった。
もとよりセインは何の協力もしていなかったが、それでもセインに群がっていたNPC兵士が後退したことにより、EDの連中が遠距離攻撃を自由に使えるようになったのは大きい。
「デスペナルティーは幾らでも補償してやる! 今は1人でもいいから相手の数を減らせ!!」
「「はい!!」」
幹部と言わず、1段階低い連中になっただけで殆どの団員が役に立たなくなる。本音を言えば、セインにはもう少し居座ってほしかったが…、最後まで居座られて戦う、あるいは"わざと"逃がす流れになるよりはマシ。セインはあくまで『混乱に乗じて逃げられた』事にする。
それはともかく、今ある戦力では"この場"で勝利する事は叶わない。しかし、長い目で見ればEDをココまで追い込んだ時点で我々の勝利だ。あとはあの3人がどれだけ悪あがき出来るか。それに対して、我々が何処まで食い下がれるかの勝負になっている。
「貴様ら! もう、諦めたらどうだ? 今日でEDは終わる。これ以上の抵抗は無意味だと思うがな…」
「へけけ、だからって、ハイソウデスカって見逃してくれるのか?」
「今回は完全に裏をかかれましたが、戦力では、負ける気はしませんね!」
「だろうな」
ここまで来て、今さら無かったことに出来るほど人の頭はクールには出来ていない。しかし、まったく望みが無いわけでも無い。分の悪い賭けではあるが…、この場で、我々自警団が勝利する一手は、まだ残っている。
こうして、泥沼の激戦は大詰めを迎える。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます