#399(8週目日曜日・夜・ニャンコロ)

「おぉ~、ワラワラやって来たのにゃ」

「大した相手はいないようですね。猫、後は任せました」


 兄ちゃんの指示に従って、王国と魔人領の境界エリアで鬼畜道化師と対峙する私たち。


「アイにゃん、興味ないからってサボろうとしないの。ほら! 頑張って、兄ちゃんに褒めてもらお」

「うぅ…、仕方ないですね。EDの人たちに手柄をとられるのもシャクですし、もう少しだけ付き合ってあげましょうか…」

「えっと、俺たち、もうとっくにEDと縁が切れているんですけど…」

「??」

「あぁ、ごめんなのにゃ。この子、本気でその辺の違い、どうでもいいと思っているから」

「え、あぁ…、はい」


 こちらに向かってくる道化師の一団を、県太郎たちと一緒に、すこし冷めた空気で待ち構える。


 それと言うのも、すでに道化師のリーダーである"D"は倒した後であり、残った幹部も、何人かは兄ちゃん派。義理や建前で戦っているだけで、ココでの勝敗は、もう、意味の無いものになっている。


「やはり、にゃんころ仮面だ!」

「チッ! よくも(Dを)やってくれたな!!」

「にゃんころ仮面さん! お久しぶりで~す!!」

「「 ………。」」


 いや、むしろコチラに友好的なPCまでいる始末。これでは流石に空気が締まらない。


「お前にゃち!!」

「「!?」」


 皆の視線が私に集まる。


「 …えっと、お願いします」

「え!? 俺っすか? まぁ、いいですけど…」


 とりあえず(視線が)怖いので県太郎にこの場を譲る。


道化師お前たちがEDをかくまい、我々や自警団に妨害行為を仕掛けていたのは分かっている!」

「なっ!? だ、だからなんだ?」

「えっと…、まぁ、なんだ。それはセインさんも分かっていて放置していたみたいだが…、流石に目の前でブンブン羽音を立てて飛び回られては目障りになったらしい。今回の一件は、そう言うことだ」

「「??」」

「「??」」


 微妙に反応が噛み合わない。


 それもそのはず、道化師の中でその辺の裏事情や現在の状況を全て把握しているのはDだけ。今も『突然Dに呼び出されたからココを守っているだけ。EDの事も含めて、何となく知っているけど、詳しくは知らない』程度の認識しかない。


「待たせたな! 援軍を連れてきたぞ!!」

「「 ………。」」

「え? なに? この空気」


 そこに現れた(戻ってきた)のは赤いアフロの道化師・Dと、その仲間。


「D! いい加減、この状況を説明してくれよ!!」

「いや、それは…」

「EDの連中とつるんでいた事は知ってるし、お前なりにギルドを大きくしたかったのは分かっている。だが…。…。」

「 …。…!?」


 事情を説明して欲しい幹部とDが口論をはじめる。そのせいで、完全に戦う雰囲気ではなくなってしまったのは言うまでもないだろう。


「やってるわね…、え? なんでやってないの??」

「あら、なんだか変な空気ね」


 遅れてHiたちも合流する。


 アイちゃんじゃないけど…、これから更に拗れるであろう話に、私も帰りたい気持ちを抑える自信が無くなってきた。


『スバルにゃん、そっちは大丈夫かにゃ?』

『あ、はい。勇者同盟の人たちも協力してくれたので、問題なく片付きました』


 とりあえず、他の場所を抑えてくれていたスバルちゃんの状況を確認する。


『こっちは…、もう少しかかりそうだけど、とりあえず問題ないのにゃ』


 流石はスバルちゃん。勇者同盟も実力者を何人か貸してくれたので楽勝だったようだ。


 今回の戦いは、単純に『EDを返り討ちにすればいい』と言うものでは無い。鬼畜道化師は、派閥間で軋轢あつれきが生まれないように『指示に従って自警団を攻撃する形』でEDへの妨害をしてもらった。つまり、このままED派がEDを見限れば、道化師は分裂することなく元の鞘に納まれるのだ。


『えっと、同盟の人たちが加勢しにいかなくてもいいのかって、その…』


 狼狽えながらも問いかけるスバルちゃん。


 今回、スバルちゃんも含めてログアウトポイントを抑えに来た2班は、このまま"待機"がお仕事で、兄ちゃんや自警団に加勢する役割は存在しない。その事はスバルちゃんも知っているのだが…、どうやらその理由を同盟の助っ人は納得していない様子だ。


『自警団は加勢しても機嫌が悪くなるだけなのにゃ。まぁ、兄ちゃんの指示に従っておけば間違いはないってことで』

『そうですね! それじゃあ"無視"しておきます』

『お、おぅ…』


 スバルちゃんは基本的に人当たりのいい常識人なんだけど…、やっぱりどこかアイちゃんに似ている所がある。


 それはともかく今回の一件で、実は兄ちゃんは『自警団や勇者同盟に加勢を頼んではいない』。自警団には裏から情報を流してEDに仕返しするチャンスを作っただけ。本来ならゴブリン村に引きこもってCiNを迎え撃つはずだったところを、EDのスパイが内部情報を流している証拠を伝え、襲撃が仕組まれていた事を気付かせ、EDの幹部が表立って動く大規模な作戦の情報を掴ませた。


 勇者同盟に関しては、EDへの制裁と、自警団に恩を売っておきたい裏事情があった。組織的には同盟の方が格上なのだが、だからこそ、養殖システムを使うために格下に頭を下げるような構図は望ましくなかった。だから、自警団対EDの戦いで戦力を貸し出す形で恩を売りに来たのだが…、そこで問題になったのが団長だ。団長は、素直に助力を受け入れる性格ではない事や、同盟に対しても"上"からモノを言いたかったため頑なに戦力の支援を断っていた。


 今回の協力も、あくまで『主役は自警団』と言う事を前面に押し出す形で裏方に徹する事が条件となっており、下手に自警団本体の戦いに加勢すると機嫌を損ねられる可能性が高い。


『そういえば…』

『ん?』

『自警団って、EDに勝てるんですか?』

『EDの選択しだいだけど…、たぶん勝てないのにゃ』

『ですよね…』


 流石はスバルちゃん。多分だが、この戦いで兄ちゃんは自警団に加勢しない。加勢すれば間違いなく勝てるだろうが…、そこで物語の主人公みたく敵同士、手を取り合って、みたいな胸熱展開にならないのが"セイン流"だ。




 こうして、私たちはEDの退路を断つためにログアウトポイントを占拠しつつ、そのまま事が終わるのをのんびり(周囲は騒がしいけど)待つ事となった。

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