#398(8週目日曜日・夜・????)

「ちょっと、私にも回復アイテム分けてよ!?」

「もう、諦めて死んだ方が楽じゃないのか?」

「いやよ! どうせ戦わないつもりだったから、装備も所持金も、普通に持ってきちゃったんだもん!!」

「そういうとこ、ホント詰めが甘いよな…」

「知ってる!!」


 相変わらずの2人のやり取りに苛立ちを募らせつつも…、


 セインの暗殺作戦は順調に進んでいる。残念ながらキルできていないものの、少しずつ体力を削りながら、(セインにのみ敵対する)王国の兵士がいる関所の方へ追いやっている。


『なるほど、攻撃が当たらない"カラクリ"が分かったぞ!』

『おぉ、それで、そのカラクリとは!?』

『それは…。…。』




 セインが、ランダムな軌道変化を予測していたカラクリはこうだ。

①、ランダム軌道変化は自身に命中する遠距離攻撃に対して発動する。発動するタイミングは半径1メートルの有効範囲に入った瞬間で、最高で30度、円状にランダムで軌道を変化させ、変化後に再度軌道が変わることは無い。


②、ただし、軌道変化より限界射程のほうが優先度が高く、限界射程を超える軌道が選ばれた場合は強制的に射程が下方修正される。つまり、本来は円状に変化する軌道が、半円状、それも切り取られた部分に着弾が集中する形になる。


③、上記の仕様により、実際には射撃が高確率で集まるエリアが生まれ、尚且つ、通常通り射程外に下がれば100%回避可能となる。


 途中、攻撃が当たるようになったのは、どうやら気が早って知らず知らずのうちに距離をつめてしまっていたためのようだ。




『なるほど、それでは限界射程から2歩近づいて射撃するようにしましょう』

『まかせた』


 即座に陣形に微調整が加えられる。


「ん? やっと気が付いたか。弾道を観察すれば直ぐに分かるものを…」

「返す言葉もありません。ですが! これで終わりです!!」

「それは、どうかな!」

「ちょ、待ってよ!!」


 攻撃が当たるようになり、それまでは射程距離ギリギリを維持していたセインが、足を使ってひたすら後退していく。だからと言って考えなしに距離をつめれば、反転して一気に懐に入られる恐れがあるが…、この先は関所であり、その周囲は壁で囲まれている。俺たちは焦らず、慎重にセインを追い詰めていく。


『気に入らないな…』

『そうですか? カラクリも分かって、作戦通り、順調に進んでいますけど…』


 順調に進んでいる状況に、不信感を覚える便座カバー。


『あのセインが、コチラの誘導に気づいていないとは考えにくい。それに、この先は関所。その周囲には遠距離攻撃を遮るような遮蔽物は無いはずだ』

『確かに、不自然ですね…』

『!? そう言えば、関所に配置したのは何人だ?』

『えっと、確か2人だけだったはずですけど…』

『マズい! ログアウトポイントに配置した連中を…、そうだな、1人残して全員呼び戻せ! 応援が来るのは関所の方だ!!』

『は!? 直ちに!』


 たしかにセインは魔人陣営なので王国関連の施設は利用できない。しかし、にゃんころ仮面たちはその限りではない。


 関所は王国軍の施設であり、その場を転送先に指定するにはL√のクエストをある程度進めている必要がある。にゃんころ仮面は早い段階で√落ちしていたはずだが…、もしかすると、転生後のL√再走も視野に入れて、密かにL系イベントを進めていた可能性も否定はできない。


「つかさ、わざわざ付いてこなくても、その場に残っていれば巻き添えで攻撃されることは無かったんじゃないのか?」

「あっ…」

「まぁ、ここまで来たら関所に逃げ込む方が早いけどな。あそこなら、EDの連中は"攻撃できない"から」

「だから! そう言うことは、もっと早く言ってよ!!」


 もう、関所は視界に入る距離になった。もう少し進めば、関所に配置されているNPCの認識範囲にも入るだろう。


 そんなタイミングで…。


『こちら"D"、大変です! にゃんころ仮面"たち"が現れました!! 現在交戦中です!』

『『!?』』


 なんと今更、ログアウトポイントににゃんころ仮面が現れたのだ。登場が遅かったのは『たまたま転送サービスから遠い場所にいた』と言う事なのだろうか?


『にゃんころ仮面を関所こっちに近づけさせるな! 予定通り、足止めに徹するんだ!!』

『それが!? …っ。すいません。キルされました』

『なっ!?』

『県太郎たちです。ほかにも何人か援軍がいて、数と勢いで押し切られました』

『くっ! そういう事ですか!!』


 にゃんころ仮面の到着が遅かったのは、どうやら応援を掻き集めていたからだったようだ。セインがココまで仲間に頼るのは意外だが…。


『愚息蟲だ。すまない、やられた』

『誰にだ!?』

『刀使いだ。あと、見覚えのない連中がいた。L√っぽい見た目だったが、誰かまでは…』

『多分、自由連合の人たちでしょう。個々の戦力は知れていますが、足止め用の肉壁としては、充分かと』


 ここにきて刀使いまで現れた。状況は傾きつつあるが、やられた仲間は、連絡用に残しておいた1人×2のみ。まだ、最悪の状況とは言えないだろう。


『移動中の連中を直ぐに引き返させろ! セインは手駒を出し尽くした。あとは時間さえ稼げばどうとでもなる!!』

『『了解!!』』


『リーダー。ここはリスクを覚悟で俺たちも前に出た方がいいんじゃないか?』

『それは…、相手の出方次第だな』


 頑なに遠距離でセインを削るのには『安全確実にキルする』以外にも理由がある。それは『被害なしで完封した』事実を動画に残すためだ。時間に関しては、編集でいくらでも誤魔化せるが、近距離戦を仕掛けて人数を減らすのは動画的に望ましくない。


「敵襲! 総員戦闘態勢にはいれ!!」

「「おぉぉ!!」」

「よし! それじゃあ、あとは頑張ってね~」

「あぁ、まかせとけ」


 そうこうしている間に、兵士の索敵範囲に入り、兵士と入れ替わる形でユランが関所に逃げ込む。


「チッ! プランBだ!!」

「周囲攻撃は中止です! ここからは兵士を援護します!!」


 迷いなく兵士の中に飛び込むセイン。


 総戦力的には圧倒的に有利になったが…、大きな問題が発生して、次の作戦に切り替える。確かに兵士はセインにのみ敵対する。しかし、セインに張り付いた兵士を間違って攻撃すると、問答無用で俺たちも指名手配されてしまう。(王国兵士への攻撃はキルしていなくても1発アウト)


「なんだ、もう撃ってこないのか? さっきみたいに一網打尽にしてみろよ」

「そんな挑発にのるわけねぇだろ! 祝福はともかく、兵士の仕様くらい、知ってるっての!!」

「今さら、指名手配が怖いのか?」

「言ってろ!」

「まったく、どこまでも煽り倒してきますね。セインさんって」


 もちろん、指名手配覚悟で兵士もろとも攻撃するプランも存在する。しかし、それは本当に最後、にゃんころ仮面が足止めを突破してきた時の最終手段だ。


「そんな事を言っている余裕、無いだろうに…」

「「??」」


「本当に、EDの連中が勢ぞろいしているとはな…」

「「!!??」」

「な、なんでお前たちが!!」


 突然、関所から現れた一団を見て、頭の中が真っ白になる。にゃんころ仮面たちが応援にくる事は予想していたが…、流石にコイツラは予想外。


「くそっ! 完全にハメられた。セインは本気でED俺たちを潰す気だ!!」


 いや、予想外なんて一言で片づけていいレベルじゃない!!


「もう遅い! 総員、突撃!!」

「「おおぉぉぉ!!!」」


 一団を指揮するのは、無駄に豪華なローブを纏うオッサン。




 自警団・団長の清十郎だ。

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