#397(8週目日曜日・夜・????)
「遠距離部隊はセインさんとの距離に注意してください!」
「中距離部隊は焦らず、牽制に専念だ!!」
「 ………。」
瞬く間に部隊は展開していき…、その様子をセインが退屈そうに静観する。
「おいおい、予定と違うじゃないか」
「もう! なんなのよアンタ達!!」
「いや! だから誰か助けてって!! いや、ホント死んじゃうから、むしろ泣くよ!?」
どうでもいいが、意外や意外、ム~チョと妹グループの盾持ちがいい勝負をしている。確かに短剣は小回りがきいてダメージも通りにくい小型盾と相性が悪いが…、それでも初心者がム~チョと渡り合っているのは驚きだ。
あと、更にどうでもいいが、助っ人がさっきから泣き言を言っているのに、全員示し合わせたようにスルーしている光景がシュールだ。
「時間切れだ! 出来るだけ巻き込まないようにしてやるから、せいぜい頑張れや」
「フッ、まぁいい。できればジックリ観戦したかったが…、戦いながら待つとしよう」
相変わらず、掴みどころのない反応のム~チョ。
何となくだがム~チョは、この作戦は"失敗する"と思っているように見える。それはム~チョが裏切るとか、妹グループがどうとかでは無く…、武人としての勘と言うか、『セインは小賢しい策略では倒せない』という漠然とした確信があるようだ。
「まったく、せっかく心置きなく戦えるように再戦の場を整えたって言うのに…、いや、イレギュラーがある方が、実戦的か?」
「あの、なんか私も囲まれてるんですけど? もしかして、私も一緒にキルされる流れなの?」
「そうなんじゃないのか? 依頼内容に、自分の護衛を追加しておくべきだったな」
「いや、それ、言っても無視されるから、絶対」
「だろうな」
ユランの愚痴を聞き流すセイン。ム~チョもそうだが、実力者は独特の余裕があり、考えが読めない。常識的に考えれば"詰み"の状況なのだが…、諦めているのか、はたまた打開策があるのか…。
「くそ! 余裕ブッこきやがって! だが、もう逃げられないぜ!!」
「皆さん、作戦通り、周囲魔法の隙を弓で埋める形で、断続的に攻撃してください!」
「ちょっと、
「ん~、弱い者イジメはしない主義なんだが…、相手がやる気なら、仕方ないか…」
「ヘケケ、どこまでもムカつく野郎だ。しかし! その減らず口もこれまでだぜ!!」
部隊の展開も終わり、セインへの砲撃が始まる。
陣形は、丸んこ率いる中距離部隊が2人1組でセインを"コ"の字型に取り囲み…、ブラウス率いる遠距離部隊が(中距離部隊の背後に隠れる形で)扇型に展開して順番に砲撃する。全方位を囲まないのは、同士討ち対策と、遠距離職の人数不足を補うためだ。
「ちょ!? 私まで巻き込まないでよ!!」
「おいおい、俺はともかく、この娘をキルしたら指名手配されるぞ?」
「心配ご無用、目撃者は全員、キルさせてもらうからな!」
カエルを思わせる動きで無様に逃げ惑うユランと、まるでダンスでも踊るかのように華麗に砲撃を回避するセイン。依頼者であるユランをキルしてしまうのは鬼畜道化師的にはマズいのだが…、ここは巻き込む形でキルしてしまう。なにせ相手はセインだ。僅かな隙でも命取りになりかねない。
2人の実力差はともかく、相変わらずバケモノじみた回避能力を見せるセイン。周囲魔法以外はまったく当たる気配がない。それでも当たっているのだから時間をかければ倒せると思うが…、実のところ、集めたメンバーの中に強力な周囲魔法が使える者(火力極振り型)はいない。
そこは(フルPTで行動する機会が少ない)C√PCなので仕方ないのだが…、問題は、装備次第ではセインの回復量を上回れない可能性がある点だ。というか、殆どの物理攻撃を回避してしまうセインの装備が、魔法防御を重視していないはずが無い。
「流石はセインさんですね。やはり単一対象の攻撃は、カスリもしませんか」
「弓隊、弾幕薄いよ! なにやってんの!!」
しかし、ここまで回避されるのは予想外を通り越して"不自然"だ。予想では、セインのアクセサリーは[風精霊の祝福]。これは自身に向けた遠距離攻撃の軌道をランダムに変化させるので、予想外の動きをした攻撃が当たっても良さそうなもの。
しかし、それが無いと言うことは…、ランダムであっても、なんらかの"条件"があり、それをセインが知っていると言うことなのだろう。『そんな秘密仕様が都合よくあるのか?』と思わなくもないが、実際、攻略サイトの情報は結構アテにならない。特にレアなマイナー装備は検証が面倒なので、誰かが書いたいい加減な情報がそのまま放置されることもしばしばだ。
「しぬ、マジで死んじゃうから!?」
「安心しろ、
「いや! マジで勝つつもりなら、私がキルされる前に
話はそれるが、強い癖に女性PCと接点が多く、今もユランとイチャイチャしているセインは…、やっぱり見ていてムカつく。
つか、早く死ね。ついでにリアルでハゲろ。
「おっと」
「「!?」」
「仕方ない、距離をとるぞ! 遠距離攻撃は射程外にいれば"絶対に"あたらない。射程距離ギリギリから撃たせて避ける動きを意識しろ」
「簡単に、言わないでよね!」
ついに矢がヒットして、後退をはじめるセイン。今まで回避できていたのは"運"がよかっただけなのか? それとも、秘密の条件が満たされない状況になったのか…。それはともかく、ここからが正念場だ。
『分かっていると思うが、陣形を乱すなよ。逃げられる場合は、出来るだけ関所の方に追いこめ』
『『了解!!』』
『ログアウトポイントの方は異常ないか!? にゃんころ仮面は間違いなく応援にくる。気をぬくなよ!!』
『まかせとけって』
『無理にキルする必要はない。例の刀使いもそうだが、今回はセインをキルする事を最優先に考えろ』
『『了解!』』
すかさず各所に指示を出す便座カバー。基本的に連絡や調整はブラウスの仕事だが、こういう部分はリーダーとして確りしている。パッと見はおフザケ半分で頼りなく見えるが…、それは演技でフザケテいるだけ。戦闘能力はム~チョより上で、尚且つ変な武人気取りもない。(口には出さないが)ム~チョも含むEDのメンバーは、そんな便座カバーに一目置いていたりする。
「おいおい、天下のセインさんが逃げの一手か? さっきまでの威勢はどうしたよ!?」
「悪いな。華麗に全員返り討ちにしてやりたいんだが…、ッ! 生憎、俺はチートの使えない、一般プレイヤーだから」
「露骨な人間アピールやめ~や! 本当は全員確実にキルするために、ゲートから遠ざけようとしている癖に!!」
「さぁ、どうだろうな」
たしかにセインを確実にキルできるだけの条件は揃えた。しかし、俺たちもセイン相手に死者無しで勝てるとは思っていないし…、なにより、セインが大人しく逃げに徹するとは思っていない。
最終的にセインは、遠距離戦法の弱点である『懐に潜り込んでの乱戦』を狙ってくるだろう。しかし、障害物が殆どない荒野でソレを狙うのは困難。そうなると選択肢は『ログアウトポイントで応援と合流して戦う』か『障害物の多いエリアに誘導する』かの二択になる。
このままジワジワと遠距離攻撃で体力を削りきるか…、
はたまたセインが思い描いているシナリオに誘い込まれて敗北するか。
この戦いは、そういう戦いなのだ。
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