#395(8週目日曜日・夜・SK&ナツキ)
「そこ!」
「おっと。本当に器用だな」
「くっ…」
試合も始まり、幾度となくバハム~チョと討ち合ったが…、そのことごとくが綺麗にイナされてしまう。幸いなのはリーチの関係で懐に潜り込まれていない点だ。
大鎌から持ち替えたことにより、単発のダメージ量こそ落ちたが…、ダブルリッパーは両端に刃がついているので二の太刀が早く、短剣の間合いである懐に潜り込まれるリスクが最小限に抑えられている。
しかし、そこから先が続かない。結果として細かいダメージでアタシが一方的に削られる。
「これなら!!」
上段から鎌を振り下ろし、引き寄せる形で相手の背中を攻撃する。正面にいる敵から背後を攻撃される。しかもこの攻撃、手首を捻れば刃も回転するので、より対処は困難となる。
「フッ! どうやら、回転には欠点もあるようだな」
「っ!!」
背後からの攻撃をあっさり避け、肉薄してくるバハム~チョに、姿勢を崩しながらも鎌を回転させて牽制する。
実のところ、背後からの攻撃は手首での調整は殆どできない。本来なら手を離さないので少しは自由がきくのだが…、手を放して回転させるとどうしても軸がブレやすくなり、手首を返すにも握って返す時間が殆ど作れない。
「SK! 相手のペースに飲まれているわよ!!」
「ハハ、確かに…、ね!!」
加えて、相手は無理に攻めて来ることはしない。ナツキにはレイピア使いを、コノハには盾持ちを当て、1対1で各個撃破していく作戦のようだ。
*
「遠くからチクチクと…。そういうの、嫌われない?」
「痛いところをついてくるな。実際、嫌われるな。そっちの
レイピアの攻撃は軽いので、盾持ちの私からすれば対処は容易だ。しかし、厄介なのはリーチの方で…、いくら相手の攻撃を捌いても、すぐにコチラの間合いを外されてしまう。しかも、無視してSKの援護にまわろうとすれば、挟み撃ちの形を作ってくるので、余計に不利となる。
2人はサポート特化、つまり"引き立て役"なので打点が無いのは救いだが…、SKが押されている状況では、時間経過とともに状況は悪くなる一方だ。
「コノハ! ちょっと試したいんだけど!!」
「わかった! やってみる!!」
「「!?」」
オープンで意味深な発言をしても、意味が通じるのは姉妹の強み。私たちは身構えた2人の隙をつき、立ち位置を入れ替える。
「何をするかと思えば、今度はキミが相手をしてくれるのかな?」
「できれば、2対2にしたかったんだけど、ね!!」
相手は私たちの連携を封じるために、大きく距離をあけて1対1を3組作る形に持ち込んでくる。そんな相手に2対2や3対3の状況を作るのは不可能。それなら、相手を入れ替えて膠着した状況を打破できないか、試すのみだ。
「悪い判断ではないと思うが…」
「っ!! まだまだ!!」
「いいのかな? あっちの子は、足が自慢の、ようだけど!」
「!? それは…」
「お姉ちゃん! 出来るだけ粘ってみるから! 私の事は! 気にしないで!!」
いきなりの裏目。確かにコノハは回避主体で、時間稼ぎなら殆ど相手を選ばない。しかし相手は、高レベルのレイピア使い。つまり上位互換であり、何をするにも相手が有利になってしまう。
それに、私も相性がイイとはとても言えない。一撃が重い鈍器の攻撃は、盾で受けてもダメージが貫通して、尚且つ耐久値も削られてしまう。それなら避ければいい話だが…、逆にコチラの攻撃は軽くて相手の防御を貫通できない。
「仕方ない。できればこの手は使いたくなかったけど…」
「ん? 何か奥の手でもあるのか??」
「もちろん!!」
私は盾持ちの攻撃を強引に弾き…。
*
「なっ!?」
「SK! 悪いけど、選手交代よ!!」
「なるほど。強引だが、賢明な判断だな」
突然間に割って入るナツキ。
アタシがこう言うのを嫌うのは理解しているだろうが…、それでもナツキの目は『今は我慢して』と言っている。
「わかった! 盾持ちを始末するまで、ナツキも負けるなよ!!」
「わかってる!!」
回転攻撃で手数こそ補えているが、大ぶりの攻撃が(小回りの利く)短剣に相性が悪いのは、アニキとの戦いで充分に理解している。
バハム~チョに負けを認める、それも負けるのではなく、味方に勝負を委ねるのはアタシのポリシーに反するが…、ここは素直に従っておく。もう少しで何か見えてきそうな気もするが、それ以上にまた意地を張って失敗したくない。
「まいったな。メインアタッカーの相手は、契約に反するんだが…」
「それなら、距離をつめて3対3にするか?」
「それはそれで、契約違反だな」
「だろう…、な!!」
入れ替わって、今度の相手は盾持ち。時間をかけては2人が持たないので(不本意だが)相性の優位を活かして速攻で決めさせてもらう。
「くそっ! 流石に相性が悪いな」
「悪いね、相性差でゴリ押す形になって」
盾持ちからすれば、防御を平然と迂回して攻撃してくる鎌や鞭は天敵と言えるほど相性の悪い武器だ。
「おい! 鎌使いの相手を代わってくれ!?」
「こっちは押しているから、お気遣いなく」
「気遣って欲しいのは、コッチなんだって!!」
「まぁ、時間稼ぎだけなら、何とでもなるだろ?」
「それも、そうだな」
「ちょ! 逃げるな!!」
バックステップで逃げ回る盾使い。いくら相性的に有利でも、こうなると近距離武器はなすすべがない。
ん? あ、そういえば遠距離攻撃、あったわ。
「なっ!? なんで魔法なんてセットしてるんだよ!!?」
「そう言えばアタシ、魔法、使えるんだった」
「くっそ!!」
なぜか防御魔法を使わず、被弾しながらも逃げる盾使い。見た目は僧侶っぽいのに、もしかして装備だけでジョブは戦士なのか?
「SKお姉ちゃん! チャンスだよ!!」
「あいよ!!」
これはいわゆるメタ構築と言うやつだろう。相手の盾持ちは、本来魔法防御を担当しているはず。しかし、私たちは普段攻撃魔法を一切使わないから『魔法は使ってこない』とヤマをはってスロットを別のスキルにまわしていたのだ。
「ちょ!? バハム~チョさんよ、遊んでないで、早く片付けてくれないか!!?」
たまらず
「まだ頑張れるだろ? この
「ちょ、そ、それほどでも…」
「 ………。」
ニヤニヤしているナツキは置いておいて、どうやらバハム~チョは、アニキのように相手が手の内を出し尽くすまで待つタイプのようだ。
しかし、返せばそれは余裕があると言う事。それこそ『相手が弱すぎるから、助っ人がキルされてから本気出す』くらいの考えなのかもしれない。
こうして、死中にカツを見いだしつつも…、まだまだピンチは続くようだ。
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