#392(8週目日曜日・午後・K1)

『どう見てもPKだな。キルするまで、絶対に見つかるなよ』

『わかってるって。そっちも周囲警戒を任せたぜ』

『今日はCiNの襲撃があるから、夜は稼げない。チャンスは1つずつ、確実にモノにしていくぞ』

『『応ッ!!』』


 午後、俺たちはいつものようにPKKに勤しんでいた。


『しかし、なかなか仕掛けないな。相手は初心者1人。速攻でキルすればいいのに』

俺たちを警戒しているんだろ? 察してやれよ』

『思いっきり、見つかっているのですがそれは?』


 PTメッセージに笑い声がこだまする。


 何を隠そう、俺たちは6時代からPKメインでL&Cをプレイしていた根っからのPKであり、当然、PKの手口や情報に精通している。よって、PKに詳しくない元L√の中堅プレイヤーで構成されている他のKに後れをとるわけもなく、余裕でK"1"の称号を維持している。


 まぁ本音を言えば、面倒な縛りの多い自警団より、C√で好き勝手に暴れて覇道を極めたかったのだが…、それはリアルの事情で実現不可能となった。そんな時、俺たちに声をかけてくれたのが前々から交流があったEDの連中だ。


 結果として俺たちは、自警団の養殖システムを活用しながら、裏でEDやCiNに協力するスパイのような立場となった。


『よし! PKが初心者をキルしたぞ!!』

『それじゃあ、俺は通報してくるから、ザコの掃除は任せたぞ!』

『『了解!』』


 通報役と入れ替わる形で、少し離れた場所で待機していた俺たちが突撃する。


 対人戦は(作戦や装備相性など)難しく考えるヤツも多いが…、しょせん相手は人間。それらを軽視するつもりは無いが、結局、数と勢いで強引に押し切るのが1番確実で、なにより時間効率がいい戦法なのだ。


「ちょ!? なんだお前ら!!」

「ぐっ! 問答無用かよ!?」

「クソッ! 負けてたまるか!!」


 相手は3人。勢い任せな突撃が仇となり、接近中に気づかれてしまったが…、元より俺たちは時間効率重視なので気にしない。このまま、数と実力差で押し切るのみだ。


「よし! まずは1人」

「くそ! 折角1人キルしたのに…」

「今は耐えろ! すぐに"仲間"が来る!!」

「「!?」」


 早速1人キルしたところで、相手の意味深な発言。この手のセリフはハッタリである場合が多いが…、PK初心者は、仲間内でつるんでローラー作戦をする場合もあるので過信は禁物だ。


「ぐっ、腕をやられた。コイツラ強いぞ!?」

「知ってる。だから早く死ね!」

「まだだ! まだ終わらんよ!!」


 ねばっている方だと思うが…、やはり相手は初心者に毛が生えた程度の実力しかない。ここは気持ちを切り替えさせないためにも、このままの勢いで押し切るのが正解だろう。


「待たせたな!!」

「「!!?」」


 今一歩のところで、PKの応援が駆けつける。数は…、6、いや!? まだ何人か遅れて走ってくる。


「チッ! 本当に居やがったか」

「数が多いな…」

「惑わされるな! 立ち位置を意識して、確実に1人ずつ潰していくぞ!!」

「「応ッ!!」」


 L&Cにおいて、数的有利は絶対ではない。俺たちも6時代はイイところまでいった実力者の端くれ。社会人になってプレイ時間が減ったとは言え、勢いと数だけの初心者には負けていられない。


「お前たち! お前たちがあの"K1"なんだってな」

「「!!?」」


 動揺が体を駆け巡る。


『わるい、途中で何者かにキルされた。通報は失敗だ』

『『なっ!!?』』


 追い討ちをかけるように、通報役から指名手配失敗の知らせが届く。


 俺たちは確かにK1だが、表向きは漁夫の利を狙うPKK。自警団の集まりに直接顔を出すこともなく、PKKであることは気づかれても、Kであることは気づかれるはずは無い…、はずだ。


『くそ! どうなってやがる!?』

『狼狽えるな! ハッタリだ! 通報が妨害されたのも、たまたま応援の連中と鉢合わせになっただけ。今は上手く取り繕って、煙に巻くんだ!!』

『あ、あぁ、すまない。そうだよな…』


「ハッタリだと思っている顔だな。残念でした。タレコミがあったんだよ。被害者からのな!」

「な、なんのことかな? 確かに俺たちはPKKもしているが…、普段はPK。√だってCだし…」

「そうそう、PKKとして目の敵にされるのは仕方ないが…、自警団呼ばわりされるいわれはないぞ!」


 俺たちは勢いを失い、気づけば必死に言い訳を重ねていた。キルもそうだが…、なにより、俺たちがKだと"認識"されっぱなしになるのは困る。


「俺たちCiNの情報網を甘く見られては困る。PKKで派手に稼げば被害者だって増えるんだ。隠し通せるわけ、ないだろ?」

「「 ………。」」


 マズい事になった。よりにもよって相手がCiN、それも裏事情を知らない自由参加の連中だ。


『どうする? 正体を明かして戦闘を避けるか??』

『バカ言え、こんな下っ端に正体を明かしたら、瞬く間に噂が広がる。ここは知らぬ存ぜぬでキルするしかないだろ!?』

『だな。誤解(ではないが)は解いておきたいが、変に取り繕ってボロがでても困る。ここは普通にキルしてしまおう』

『『了解』』


 流石に焦ったが、方針が決まればやる事はシンプル。数こそ多いが、イキった初心者PKにお灸をすえてやるだけの簡単なお仕事だ。


「ぐはっ!?」

「流石はK1だ。俺たちじゃ、手も足も出ないってか?」

「だから、Kじゃない…、って! 言ってるだ…、ろ!!」

「ははっ! まぁ、どっちでもいい。さっきお前たちがキルしたPCは…」

「「??」」

「まだ、√落ちしていない立派なL√PCだったんだ」

「「しまっ!!?」」

「マズい! ミルミロ砦だ!!」


 最悪だ。いつもの調子で何人かキルしてしまった。


 通常、間違えてL√PCをキルしても、通報されなければ問題はない。つまり、当事者を囲んで普通にキルしてしまえばいいわけだ。


 しかし、今回は違う。実力はコチラが勝ってはいるものの、囲まれているのはコチラ。最初のキルは流石に視界外だったはずだが…、そのあとのキルは、時間効率重視で見張りも立てていなかった。


「くそ! どけ!!」

「通してたまるかよ! それに、いいのかな~? 俺たちをキルして」

「そうそう、正当防衛判定は、お済みですか~?」

「「チッ!!」」


『もう、こうなったら俺たちがスパイだってバラして通報をやめさせるしか無いんじゃないか!?』

『待てって! そんな事言っても、苦し紛れの言い訳だって思われるだけだ』

『だからって!!?』


 ぶっちゃけ、状況は既に詰んでいる。流石に、綺麗に全員指名手配されることはないが…、もう、PTを維持するのは困難だろう。


「アンタ達、結構残っているじゃない」

「応援に来たわよ~」

「「あ、姐さん!!」」

「姐さん言うなし!」

「もぉ~、私もいるわよ~」

「「!!?」」


 そこに現れたのは赤と黄色の道化師。コイツは知っている! 鬼畜道化師の幹部、HiとLuだ!!


『おい! これ、掲示板で言ってたヤツだろ!?』

『チャンスだ! 直ぐにEDに連絡して通報を止めさせろ!!』


 昨日掲示板で話していた自警団への妨害の話が、まさか俺たちKを狙うものだったとは。具体的な作戦を聞いていなかった俺たちも悪いが…、なるほど、これならまだチャンスは残っている!


 俺たちはイザとなったら切り捨てられる使い捨ての捨て駒だが…、それでも大きな作戦を前に、手駒を減らしたくは無いだろう。




 こうして、俺たちは慌ててEDに連絡をとった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る