#391(8週目日曜日・午後・Hi)

「姐さん! 総員配置につきました!!」

「ちょ!? アンタラが姐さん姐さん言うから! CiNの連中まで言い出しちゃったじゃないの!!」

「まぁまぁヒィちゃん、CiNの皆とも仲良くなれて、良かったじゃない」

「うっさい、元凶!!」


 笑いに包まれながらも、私は予定通り、新規メンバーやCiNを連れて自警団狩りに来ていた。


 場所はミルミロ砦の東。一応、それなりにドロップの美味しい魔物が出現するエリアなのだが…、それ以上に湧きが悪く、時間効率が悪すぎて不人気(PCが殆ど来ない)なエリアとなっている。


「それじゃあ悪いけど、囮役はお願いね」

「「うっす!!」」

「返事は、いいのよね…」


 半分悪ノリでも、上手くいっているのは確かに有り難い。Luのムードメーカーとしての才能もそうだが…、一応今回は、セインから貰った前金から"協力費"を前払いしている点も上げられるだろう。


 今回の合同作戦は、一応『行きずりの合同作戦』の名目になっており、本来は(格上である)私たちが報酬を払う必要は無いのだが、CiNには特別な役割を任せているので、協力費はその報酬となる。




 それはさて置き、CiNから選抜した囮部隊4人に目標地点を巡回してもらう。その作戦はこうだ。


①、1人(囮1)に『見るからに初心者』な装備で先行してエリアを巡回してもらい、残りの3人(囮2)は距離を取りながら囮1を追う。


②、囮1がターゲットとすれ違ったところで、囮2がターゲットの視界に入りながらも囮1に接触する。


③、囮2が程よいタイミングで囮1をキルして、ターゲットに犯行現場を見せる。


④、ターゲットは通報役をNPCのところに走らせるので、それを私たち道化師がキルして、残ったPKK担当をCiNの残りメンバーで取り囲む。




「姐さん! 囮1がターゲットとすれ違いました!!」

「だから姐さん言うな。ターゲットに不審な素振りが無ければ作戦通り仕掛けるように伝えて」

「うっす!!」


 しばらくして、囮がターゲットの"K1"とすれ違う。


 そう、私たちが狙う自警団とは、自警団の覆面パトロール、アルバ警邏隊。それも、トップを意味するK1の称号を持つチームだ。


「囮2がターゲットとすれ違いました。これから囮1に絡みます!」

「直ぐに仕掛けちゃダメよ。ターゲットが配置につくまで、上手く間を持たせてね」

「うっす!」

「なんだか、ワクワクしてきちゃうわね」

「 …まぁ、ちょっとはね」

「ふふふふ…」


 相変わらずLuの視線が鬱陶しいが…、それはともかく、作戦自体は完全に分担しているので、私は私で自分の仕事をまっとうするだけ。それで、余裕があったらCiNを助ける。無かったら見捨てる。


 最初は(1度喧嘩を売った事もあり)CiNと上手くいくか心配だったが…、なんだかんだ言ってもCiNは根っからのC√PC。基本的にノリがよく、尚且つ、意外にサバサバしている。あとはまぁ、コイツラがCiNであってCiNでないのも大きいのだろう。コイツラはCiNの理念に賛同して集まった"自称"CiNであり、本体ギルドと直接繋がりのない自由参加枠のメンバーなのだ。


「しかし、K1の情報なんて、どこから仕入れてきたんスか?」

「ん? まぁPKKで派手に稼げば、覆面でも顔は割れちゃうものよ」

「なるほど…」


 新規の質問を、適当な返しで煙にまく。


 何を隠そう、情報元は他ならぬセインだ。なぜ彼が自警団の詳しい内部情報を知っているのかは謎だが…、そこはお仕事なので詮索はしない。プロ意識と言っていいのか微妙なところだけど、あれだけの大金を貰ったんだ。仕事はキチンとやり遂げてみせる。


 それで依頼内容は、半日かけてK1から順番にターゲットをキルしていくこと。何組かいるターゲットの中でK1を優先する理由は、出現が予測できないHや見回りをしていないコロッケ以外のメンバーで『1番脅威度が高いから』と言うのは表向きの理由で…、本当の理由は『K1がEDのスパイ』だから。そしてその理由を知っているのは、直接セインから依頼を受けた私とLuだけとなる。


「それより、通報しにくるとしたらミルミロ砦こっちしかないとは言え、油断していると突破されるわよ。今は作戦に集中しなさい」

「うっす!」


 3人ずつ組を作り、V字を幾つも並べる形で配置につく。


 これは囲い込みようの配置で、視界を確保しつつ、すれ違う相手に断続的に攻撃を仕掛けるための陣形だ。


「今、囮1をキルしました! 俺たちも配置につきます」

「任せたわよ」

「「うっす!!」」


 K1が仕掛けるまで察知されないよう私たちのところで待機していたCiNの追撃部隊が一斉に走り出す。


 囮役の人たちには悪いが、彼らはまず間違いなくキルされるだろう。しかし、それも作戦のうち。それも含めての協力費だ。囮役の4人や、追撃部隊の何人かは"まだ"√落ちしていない。つまり、システム的にはまだL√PCなのだ。囮1のキルも、実は合意がなされており、システム的には非犯罪の殺人となる。よって、通報は意味がないどころか、PKKをしたK1の方が指名手配の対象になる。


 正直なところ、この様な指名手配のやり方はPK界隈では非常に嫌われる『悪質なPK』とされている。PKを美化するつもりは無いが…、対人戦が目的のPKと、永続的な妨害が目的の指名手配は別モノ。CiNにはあとで改めてそのあたりのルールは確り言い聞かせておく事にする。


「姐さん、ターゲットが来ました!」

「まったく。アンタたち、ヌカるんじゃないよ!!」

「「おぉぉおお!!」」


 一見、何の変哲もない軽装のPCがこちらに向けて一目散に走ってくる。私たちはソレを、隠しもせずに真っすぐ突撃する。


「ちょ!? なんだお前たち!!」

「もらった!!」


 先行した1人がこれ見よがしに足を狙って飛び掛かる。それで相手が止まるなら良し。


「なんの!」

「「甘い!!」」

「ちょま!!?」


 跳んで回避しても後続が着地狩りを狙う。あとは体勢を崩したところを一方的にボコるだけ。ほかのゲームだと、ダウン中は無敵になるそうだが…、リアル志向のL&Cにそんな甘え仕様は存在しない。戦場では『転ぶ=死』だ。


 ほどなくして新規が通報役を勢い任せにキルして、報告に戻ってくる。


「「やりました姐さん!!」」

「よし、姐さんて言った奴、全員お仕置きしてやるから順番に並べ」

「「あっざーす!!」」

「(なんだこれ)」


 っと、心の中で呟きつつも、ひとまず最低限の役割は全うした。


 本来なら、K1のPKK担当と直接対峙するのは格上である私たちの仕事なのだが…、それはとある事情で出来ない。まぁ、遅れて加勢するくらいならセーフなので、通報役を瞬殺したことは秘密にして、少しタイミングを計る事にする。




 こうして、私たちはセインの依頼を受ける形で…、Dたちを裏切り、EDに妨害工作を仕掛けていく。

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