#388(8週目土曜日・夜・ニャンコロ2)

「なぁ!? オkアヌスが負けただと??」

「にしし、やっぱり敵じゃなかったのにゃ」


 週末と何度か拳を交わしていると、突然相手が狼狽えだした。


 どうやら、スバルちゃんが早速1人倒したようだ。これは私も負けてはいられない。


「チッ! アイツ、また悪い癖を出したな…」

「どうだかにゃ~」


 相手の言動から察するに、週末の仲間の1人は、やはり元ランカーのオkアヌスで間違いないようだ。しかし、それでは足りない。私の知る限り、スバルちゃんは兄ちゃんに次ぐ実力者。半端なランカー2人程度ではとても止められない。


 週末的には『兄ちゃんすらキルできる面子を用意した』みたいな口ぶりだったのでソレ以上、それこそ勇者クラスが出てくるのを警戒したが…、どうやら杞憂だったようだ。


「まぁいい。まだ最終ウエーブが残っている。手早く、決めさせてもらうぞ!!」

「っ!!」


 相変わらず、得意なレンジを上手く使って攻めてくる週末。


「甘い!」

「ぐっ…、でも、だいたい掴めてきたのにゃ」

「ふっ、ハッタリだな」

「 ………。」


 何度かダメージは喰らっているものの、実のところ私の体力はそれほど消耗していない。


 それもそのはず、週末の使う八極拳はリアル志向の"理"であり、ゲーム志向の理ではない。彼は私の択ゲー戦術をバカにするが、ゲームの戦術にゲームとしての理があるのも事実。どちらが上かは状況次第だろうが…、少なくとも、片方が単純な上位互換とはなっていない。


「そこ!!」

「にゃんの!」


 週末の突進を、ジャンプして上を飛び越える形で回避する。格闘ゲームではよく見る光景だが、リアルでは絶対にありえない回避方法だ。


 L&Cがリアル系のオープンアクションゲームと言っても、それがゲームであることは変わりない。レベルやスキルの概念があり、ゲームのように簡単に人の背丈を飛び越えるジャンプは可能で、ダメージ計算もリアル志向であるだけで、リアル"そのもの"ではない。


「っ、外したか。だが、相変わらず無駄な動き。それで俺に勝てると、本気で思っているのか?」

「ふん。勝算が無かったら、最初から戦っていないのにゃ~」

「たく、イラつく語尾だぜ」


 距離をつめる私に対して、週末は更に距離をつめてゼロ距離から打撃を放つ。


 ノックバックの勢いを使って距離をとると、今度は週末も距離を取り私の拳の間合いを頑なに外してくる。


「やっぱり、大体分かってきたのにゃ」

「ふん! 言ってろ」


 週末の弱点は、打点の低さにある。


 彼の戦い方を麻雀に例えるなら『安手での早上がり戦法』だ。相手の得意レンジを避けて戦うのはいいが、それでは自分の打点も落ちてしまう。


 例えば、密着状態から強力な打撃を放つ寸勁すんけいという技1つを取ってもそうだ。確かにリアル志向のL&Cには(掴み技などは別として)予備動作の無い状態から放てる強力な打撃スキルは存在しない。しかし、寸勁は実在する技なのでL&C内でも通常攻撃扱いで発動可能だ。


 しかしその威力は、あくまで密着状態から"にしては"強いだけで、威力だけ見れば、正しい姿勢でインパクトに全てを注ぐ空手の正拳突きの方が遥かに強力だ。まぁ、もしかしたらバトル漫画でよくある『密着状態から予備動作無しで放つ技の方が強力』理論がリアルでも再現出来る可能性が微粒子レベルで存在しているかもしれないが…、少なくともL&Cの物理演算的には寸勁はそれほど痛い技ではない。


 ついでに言えば、武器に頼っていないのも大きなマイナスだ。そのあたり、体術スキルである程度補っているのだろうが…、それでも強力な武器をフルに活用できる私と、ヒジ技や体当たり技が多い週末の八極拳では、1つ1つの攻撃のダメージ量がまるで違う。


 それなら、私の対応こたえは…。


「これにゃ!」

「なっ! ふざけるな!!」


 私がとった選択は、いわゆる『しゃがみ待ち』。切り株みたいな頭の軍人さんが得意そうな、アレだ。


「アチシは至って真面目だにゃ。さぁ、どこからでもかかってくるのにゃ~」


 週末の八極拳がリアルな対拳闘士戦、それも中距離とゼロ距離に特化していると言うのなら、返せば格闘技のセオリーが通じない展開には対応できないと言う事。それなら、強制的にコチラの格ゲー戦術舞台に立ってもらうまで。


 結局のところ、週末の八極拳は、ルールにのっとった試合形式のバトルでしか役に立たない専用スタイルなのだ。もちろん、サブの戦術は用意しているだろうが…、それが私やスバルちゃんに通用しないのは、週末も理解しているだろう。


「くっ、小賢しいマネを…」


 距離を保ったまま、攻めあぐねる週末。まぁこのスタイルは有名なので当然と言えば当然だ。


 しかし、幸いなことに今はスバルちゃんが1人落としてくれているので、時間は私の味方。罠だと分かっていても、結局週末には挑戦に応じる以外の選択肢は存在しない。


「来ないのかにゃ? なら、コッチから行くのにゃ。よいしょ! よいしょ!」

「くそ! バカにしやがって!!」


 しゃがんだまま、少しずつジャンプして距離をつめる。しかし、その歩みはあまりにも遅く、とても役には立たない。だが問題はない。ただ、"挑発"のためにやっているだけだから。


「へいへ~ぃ、ピッチャーびびってる~」

「誰がピッチャーだ!!」


 余談だが、週末がリアリティーや合理性に拘るのは…、格闘ゲームなどのゲームゲームしているバトルに苦手意識があるからなんだと思う。その証拠に、週末は私の前進にあわせて後ずさっている。


「でも、逃げていては、詰みなのにゃ~」

「チッ! 上等だ!!」


 腰を深く落とし、呼吸を整える週末。


 これはまず間違いなく、奥義でワンコンボキルを狙っている雰囲気だ。


「かもんかも~ん」


 やはり週末は、私以上にメンタルが弱い。択ゲーと言わず、ギャンブル全般が苦手なのだろう。それなら好都合。


 ギャンブルとは"運"で勝つものでは無い。その本質は心理戦。攻め際に引き際、ブラフに欲望、全てを用いて相手を破滅に誘い込む。それがギャンブルの極意であり、格闘ゲームの極意だ。


「スー…、ハッ! フッ! ッ!!」


 中段攻撃からの流れるような連続攻撃。これぞまさに八極拳! 打ち込んだ拳を引かず、体のバネを使ってもう1撃、更にバネを使ってヒジへと繋げる。


 私は構わず拳を受け止め、週末よりも更に深く腰を落とし、スキルを発動させる。


「スーパーにゃんこモード!!」

「なぁっ!?」


 その瞬間、体は金色の光を放ち、週末が真上に吹き飛ぶ。


「ぶっ飛べ!!」

「!!!!?」


 落下してきた週末がぶっ飛ぶ…、こと無く光になって消える。


 いやまぁ、ただ<闘気拳>を発動させて週末を真上に突き上げて…、更に落下してきたところを力まかせにぶん殴っただけなんだけどね。


 ちなみにこれは、単純なオーバーダメージによるキル。ぶっちゃけ、ただ強い武器と強いスキルでゴリ押しして勝っただけ。


 それだけの話だ。




 ほどなくして、残りの1人もスバルちゃんが難なくキルして…、波乱の第二ウエーブは無事勝利。最終ウエーブで更なる強敵が!


 出てくる訳も無く、サクッとクリアして、2人の桃姫帰国イベントは完勝に終わった。

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