#387(8週目土曜日・夜・オkアヌス)
「くそっ! イロモノだと思ったら…」
「結局、コイツもセインファミリーってことか」
桃姫帰国イベント、上級護衛側を順調に周回していたところ…、俺たちはついに、セインの関係者に遭遇してしまった。
「もう終わりですか? それではボクからも1つ」
「「っ!?」」
相手はメイド姿の男の娘。パッと見は小柄な少女のようだが…、平らな胸、小さなお尻。それは間違いなく男性アバターの骨格であり、サイハイソックスとミニスカートが織り成す絶対領域は、見る者の心を惑わす。
「おい! 頼むぜオk」
「くそっ! 分かってる、集中! 今は集中だ!!」
自分の頬を叩き、雑念を振り払う。
最初は気が付かなかったが、剣を交えて直ぐにピンと来た。コイツが噂になっていた『平日の昼間限定で出現する恐ろしく強い刀使い』だ。何度かセインと行動している所が目撃されており、要注意人物に指定されているPCなのだが…、警戒度と言うか、様々な理由で今まであまり注目されることは無かった。
その注目されない理由として大きいものに『土日はセインと別行動』と言うものがある。つまり、触らぬ神にナントヤラ。間違いなく強者ではあるものの、(プレイ時間の問題で)ランキングやイベント、何よりセインの行動に絡まない、害のない強者として見られていた。
「クソっ! 例の刀使いがココまで強いなんて、聞いてねぇぞ!?」
「いえいえ、ボクなんてまだまだ…」
「おまけに、ボクっ子とか、反則だろ!!?」
「「 ………。」」
刀使いの動きは、決して派手なものでは無い。むしろ、ゆっくり動いているように感じられるほどだ。しかし、それはそんな簡単な話ではない。俺たちの動きを先読みして、必要最低限の動きでソレを対処する。だからSP消費も節約できるし、何より始終優位に事を運べる。
「えっと、一人称はともかく、時間やNPCの体力が勿体ないので、あまり逃げ回らないで欲しいのですが…」
「だったら! 俺たちの代わりにキルされてくれない?」
「ん~、そうですね…。ごめんなさい。今日はニャンコロさんと一緒なので、勝ちを譲るわけにはいかないんです」
苦戦している理由は、刀使いが予想以上に強かったからなのだが…、そこには状況的な不利も大きい。
PC人数だけ見れば2対1で、コチラが優位なのだが…、実際には嫌がらせ役のNPCが遠くからチクチクと援護射撃をしてくる。つまりこれは多対多であり、1人に集中できないのが現状だ。
まぁ、それでも普通の相手ならなんとか出来るだけの腕は持っている。出来ない相手で、堂々とイベントに顔を出しそうなC√PCはセインかビーストくらいだと予測していた。
「そうだ! それなら皆でアッチに移動して、3対2で勝負しないか? NPCは無しって事で」
そもそも、勇者同盟からは『セインとの戦闘は避けるよう』釘をさされており、俺も当初はそのつもりでいた。唯一の魔人陣営PCがこのイベントでどういう扱いになるのかハッキリしない部分はあるものの…、エントリーの仕様上、セインはソロか、そもそも参加資格すら無い可能性が極めて高いと予測していた。
よって、ソロとマッチングしない3人PT以上(仲間の都合次第で人数は変動する)で周回していたわけで…、セインを警戒していたのは、あくまで念のため。最悪、マッチングしてしまった場合は、勇者同盟のメンバーである俺が直接話をつけて、(わざと負けると機嫌を悪くするらしいので)正々堂々、PC同士で決着をつけるつもりでいた。
「ん~、それは少し考えてしまいますが…、やっぱり無しですね」
「そりゃそうか。せっかく優位に進んでいるんだ。しかし、いいのかな?」
「?」
「今、にゃんころ仮面が相手をしているのはコウコク。対拳闘士戦に特化した拳闘士キラーだ」
「なるほど。それならなおの事、水は刺せないですね。それに…」
「「??」」
「勝つのは多分、ニャンコロさんですよ?」
コウコクは確かにランカーでは無いものの…、実力は確かで、俺も一目置いている。実力もそうだが、何より慎重で、格下相手でも気を抜かない性格は安心して役割を任せられる。
連絡が無いので決着はまだのようだが…、それはつまり負けても居ないという事。それならいつものように、時間をかけて確実に相手を追い込んでいる最中なのだろう。
刀使いがにゃんころ仮面の"勝ち"を信じる根拠は定かではないが…、少なくとも俺には、コウコクの勝ちを信じる根拠はある。
「ぐっ! たく、隙が無さすぎだっての!!」
「でも、時間制限もあるので、なかなか戦略性がありますね」
「っ!!」
余裕の表情で淡々と攻めてくる刀使い。
何がキツイって、特別奇抜な策などは無く、単純に基礎が出来ていて隙が無い所だ。そのせいで、攻めても守っても、戦いの主導権が常に相手に握られてしまう。
これを切り崩すには…、やはり盤外戦術しかないだろう。
「しかし、強いな。話には聞いていたが、予想以上だ」
「それは、どうも」
「つか、セインよりも強いんじゃないのか? そこのとこ、実際どうなんだよ」
「 ………。」
無言で返す刀使い。これは、指摘が的を射貫いた証拠と見ていいだろう。
「セインの動きは何度か動画で見たけど…、やっぱりお前の方が強いんじゃないのか?」
「そうだな。武器の相性的にも有利だし、これはセインの時代が終わる日も近いな!」
「ボクを侮辱するのは構いません。むしろ、歓迎なのですが…」
「「ん?」」
「しかし…、ご主人様への侮辱は万死に値します」
「「!!?」」
その瞬間、俺は確かに空気が凍り付く感覚を覚えた。VRの世界で、これほど濃厚な殺気を感じたのは初めてだ。
「来るぞ!!」
「おぅ!!」
基本に忠実だった刀使いが、今まで見せなかった構えを見せる。上段の構えを顔のところまで下ろして、脇を固める。これは"八相の構え"というやつだろうか?
まず間違いなく、奥の手。本気で俺たちを仕留めに来ていると見ていいだろう。問題は、俺たちがソレを初見で対処できるかだ。
「「!!?」」
浅い上段から振り下ろされる一撃を躱し、カウンターの一撃をお見舞いする。
相手に切っ先が当たる、その寸前。『決まった!』と思ったその瞬間、首筋から頭に向けて"薄ら寒いもの"が走ってくる感覚を覚えた。
気がつけば世界は暗転しており、システムメッセージがキルされた事実を俺に伝えてくれる。どうやら俺は、頭部破壊でワンショットキルされてしまったようだ。
こうして俺の周回プレイは、驚くほど呆気なく終わった。勇者同盟のメンバーにして、PTメンバーを引っ張るリーダーが真っ先に落ちるのは申しわけなくて仕方ないが…、個人的には、
可愛い男の娘に負けて、晴れやかな気持ちで胸がいっぱいであった。
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