#380(8週目金曜日・夜・Hi)

「それで、キミたちは何故ここに呼び出されたのか、理解しているかね?」

「いえ、全然」


 夜、引き続き妹グループを探すフリをしながらレベル上げをしていると…、突然、鬼畜道化師の主要メンバーに招集がかけられた。


「えっと、ごめんなさい。私たちが何かやっちゃったって雰囲気なのは分かるけど、もうちょっと状況を、説明してもらえると、助かるんだけど~」


 まず問題なのは、内容よりも目の前の2人だ。大きなローブに身を包み、仮面で顔も隠している謎の男たちだ。ただ怒られるだけなら、私たちも古株なのでココまで物々しい雰囲気にはならないのだが…、察するに、コイツラは例のアドバイザー、つまりEDの残党なのだろう。


 EDの連中は基本的に指示だけ出して顔を見せないのだが…、今回は、それだけお怒りってことなんだろう。


「「 ………。」」

「よかろう。それでは、説明してくれ」


 お前が説明するんじゃないのかよ! と、心の中でツッコミを入れる。


 しかし、どうやら私とLuは、現在お叱りを受けているようだ。偉そうに踏ん反り返っている黒ずくめの2人に代わり"D"が説明する。


「え?」

「「 ………。」」

「あ、はい。えっと、2人は今日の昼過ぎ、妹グループの捜索に参加していたよな?」

「はい」


 残念ながら見当たらなかったので予定外のエリアも捜索して、成り行きでPKをしたが…、その間も妹グループが居ないか"気にかけていた"ので(グレーではあるが)嘘はついていない。


「なるほど。しかし報告では、任務を放棄して、別の場所でPKをしていたとあるが?」


 なぜそれを知っているのか? まぁ新規の2人か、あるいは連れて行ってもらえなかった連中が口を滑らせたのだろう。


「放棄はしていません。予定の場所をまわり、発見できなかったので他の心当たりを捜索したまでです」

「そそ、そうね。それに、ちゃんと新規ちゃんも何人か連れて行ったわ」

「そんな報告、こちらは受けていないのだが?」

「そんな報告の義務、聞いた覚え"ないのだが"?」


 私の挑発的な返しに、周囲がどよめく。


 私の言い方がキツイのはいつもの事だが、残念ながらそのノリはEDには通用しない。


 ほんと、残念だな~。


「はぁ? お前バカなの? ホウレンソウって知ってる? そもそも、そんな苦しい言い訳、通用すると思っているのか??」

「鬼畜道化師商会は変わった。女だからって、いつまでも勝手が許されると思ったら、大間違いだぞ!」

「はぁ…」


 我慢できずに私を罵倒する2人。


 たしかにサボっていたのは事実なので、グレーを黒と受け取られても仕方ない部分はある。しかし、それでなぜそこまで怒られなければいけないのか? どうにも温度差についていけない。


 そんなことを考えていると、Luが目配せをしてきた。残念ながら周囲の目もあるのでメッセージは送れないが…、あの目は『我慢しておきましょ』と言っている目だ。


「まぁまぁ、もちろん今回のお叱りは、我々道化師一堂に活を入れる意味もある。2人も感じているだろう? 最近の活動は、結束力と言うか、どうにもダラケてしまっている事に」

「はぁ…」

「そ、そうですね~。組織が変化して、まだ馴染んでない感じ」

「そうだな。だから、多少の事は俺も目をつむるつもりだった。しかし…」

「「??」」

「指示を無視した上に、自警団の"味方"をしていたとなれば、裏切りととられてもおかしくは無いよな?」

「「あぁ~」」


 やっと話が見えてきた。どうやら、自警団ではなくCiNをキルした事を『自警団に味方した』と解釈されたようだ。


「たしかに、今日は自警団を見かけたので流れでPKをしようとしましたが、同じく自警団を狙うCiNのヤツラとバッタリ出くわして交戦になりました。結果的に自警団に逃げられてしまったので、助けたみたいになりましたが…、私たちにその意図はありません。というか、BLが無い今、自警団なんて、どうでもよくないですか?」


 たしかに自警団は宿敵と言えば宿敵だ。気が乗らなかったことも大きいが、それを見逃したとあっては"裏切り行為"と思われても仕方ない。


 多分、妹グループの捜索が上手くいかない理由も『幹部の中に内通者がいるのでは?』と勘ぐっている部分があるのだろう。だからこうして、幹部の前で私たちを晒し者にすることで、内通者にプレッシャーをかけているのだ。


「ほんと、ここに脳みそ入ってる? バカなの? 死ぬの??」

「CiNの活動は、あくまで打倒自警団だ。本当に自警団を狙っていたなら、CiNは手出しはしない。むしろ協力するくらいだ」

「へぇ~、詳しいんですね」

「ふん! このくらいの情報収集、怠るわけがないだろ!!」

「「 ………。」」


 正直、もうどうでもよくなってきた。


 しかし、やはり気になるのは、この温度差だ。もしかしたら、情報元は新規メンバーではなく、CiNなどの外部から来たものなのかもしれない。例えば『鬼畜道化師はセインと裏でつるんでいる! 実は悪徳プレイ否定派なんだ!!』みたいな、根も葉もない言いがかりを鵜呑みにしてしまったとか。


 実際、試合の調整でセインたちと何度かやり取りがあったのは事実で、それを目撃した者もいるだろう。敵対しているのは変わらない事実だが、そんな相手と普通に話をしていたのを傍から見れば『実は仲が良い』と勘違いするのも分からなくはない。


「一応言っておきますけど…、妹グループの行動は、本当に何も知らないです」

「「!!?」」


 この反応よ。


「疑うなら、私たちを作戦から外してください。どうせ私たち、すでに試合から外されてますし」

「え? いいの、ヒィちゃん」

「いいのよ。どうも妹グループのPKが上手くいかないのも含めて、私たちが疑われているみたいだから…。それなら、私たちが作戦から外れれば潔白は証明できる。そうでしょ?」


 EDは確かに6時代は最強だった。それは個人戦力だけでなく、組織としてもだ。しかし、現状は全くの別モノ。組織が分裂して、頭の悪い戦闘員"だけ"がウチに流れてきた。一応、6時代の記憶を頼りにそれらしくやってはいるが…、捨て駒発言の一件も含め、どうにもボロが目立つ。


「わかった、いいだろう…。お前たちは来週までギルド員との接触を禁ずる! この際だ、不穏な動きをしていたメンバーも含め、全員謹慎処分とする!!」

「「!!?」」


 バカなの!?


 思いもよらないトバッチリにDも含めた幹部全員が驚愕する。いや、もうマジでコイツらバカなんだろう。私が言うのもなんだけど、やっぱり家に引きこもってゲームに人生を捧げているヤツは、どこか性格に問題がある。




 こうして、我らが鬼畜道化師商会の…、本格的な分裂が始まった。

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