#379(8週目金曜日・夜・????)
「はぁ~ぃ、はじめましての方ははじめまして、そうじゃない方はいつもありがとう! "ミーファちゃんねる"の時間だよ~」
夜、王都の広場に物々しい空気を引き裂く、能天気な声が響き渡る。
「今日は~、予定を変更して、なんと! プレイマナーについての討論会を司会&中継、しちゃいたいと思いま~す」
本来なら盛り上がって然るべきところだが、集まったギャラリー、そして壇上に上がったゲストの気迫が、それを許さなかった。
「それじゃあ早速、ゲストを紹介しま~す。最初は、アルバ自警団・団長の清十郎さんで~す。はくしゅ~」
「 ………。」
たどたどしい拍手が上がる。この討論会、王都で開かれたこともあり集まったギャラリーには偏りがある。
「えっと、団長。段取り通り、簡単な自己紹介をお願いします」
「ん? あぁ、清十郎だ」
「「 ………。」」
「えっと…、続きまして、C√プレイヤーを代表して、CiNの天狗さん(仮)で~す。は~ぃ、はくしゅ~」
ブーイングと共に、[天狗の仮面]を装備したPCが、1歩前に出て言葉を発する。
「えぇ~、ご紹介に預かりました天狗です。一応言っておくと僕はギルドマスターではないんですけど、無犯罪者の僕が代理ってことで、今回はCiNの主張や、今後のL&Cの在り方について、議論出来たらと思っています」
「はぁ~ぃ。続きまして~、L√のトッププレイヤーを代表して、元勇者! ヘアーズのクレナイさんです。はくしゅ!」
黄色い声が混じる拍手を受けて、赤を基調としたPCが片手をあげながら前に出る。元勇者の彼は、紛れもなくL√を代表するプレイヤーの1人であり、本来この様な個人企画に参加することは無い人物だ。
「皆さんこんにちは、クレナイです。今回はヘアーズではなく、L√の代表と言う事で参加させてもらいました。まぁ、俺が代表として出てくることに文句がある人も要るとは思うけど…、仕方ないよね? 他の元勇者や元上位ランカーは、みんな参加を断っちゃったみたいだから」
会場から笑いが沸き上がる。
「えっと、クレナイさんは、なぜ参加してくれたんですか?」
「あぁ、そうですね。俺も最初は断ろうと思っていたんですけど、転生をイベント後に回したこともあって、ちょっと余裕が出来たので今回はお邪魔させてもらいました」
「なるほど。もう転生条件はクリアしているとは、流石はトッププレイヤーですね。はい、それでは…」
「ところで、C√のトップは今日は来ていないの?」
「あぁ、セイ…、あ、はい。えっと、流石にC√のトッププレイヤーは王都に呼べなかったので、今回は匿名希望"S"さんからメッセージをいただいています。そちらは後ほど紹介します」
「ははっ、それは楽しみだな」
集まったギャラリーが口々に匿名プレイヤーの名前を漏らす。その名前はクレナイとも因縁のある名前だけに、会場からは笑いに混じって戸惑う声も聞こえてくる。
「はい! まず御三方の主張を順番に確認していきたいと思います。実際の議論は後ほどと言うことで…、それでは清十郎さん。最初に、会場の皆さんが気にかけている事だと思いますが…、現在自警団が提供している補助ツール、通称BLのアバター判別が機能していない状態です。そのあたりについて、ズバリお願いします!」
「ん? そんなもの、逸早く機能を回復させて、すぐにでも迷惑プレイヤーの検挙を再開させる予定だ」
「「 ………。」」
「あ~、はい。詳細は極秘と言う事で。では、気を取り直して…、お次は天狗さん、CiNの活動はPKやイベントNPC狩りを推奨しているそうですが、自警団の活動とは真逆ですよね? それで、すでに衝突もしていますが、CiNとしてはそのあたりをどうお考えで?」
ギャラリーが静まり返り、注目が天狗に集まる。
「まず、誤解されているようなので補足しておきますと…、我々CiNは、悪徳ギルドではありません」
「なぁ! ふざけるな!!」
「団長、今は主張を確認し合う段階なので、反論は後ほどでお願いします」
「…ふん!」
「えっと、我々CiNは、悪徳行為を容認していますが、組織としては悪徳行為を"指揮"はしていません。ついでに言えばL√プレイに関しても"応援しています"ってスタンスですね」
「お言葉ですが、CiNの皆さんは、実際に自警団を名指しで襲撃していますよね?」
「それは結果論と言うか、CiNはあくまでL&Cを"PKあり"のゲームとして、誰でも楽しめる環境を作りたいと言う同志の集まりにすぎません。よって、ギルドとしての具体的な活動も存在しません。そのあたりはチーム単位で動くヘアーズさんと同じですね。それで、結果としてC√プレイを根本的に否定する自警団と意見が対立し、おまけに狩場を独占している養殖行為を粛清しようと言う話が上がりました。しかし、そもそもCiNにリーダーは存在せず、誰もゴブリン村の襲撃を命令してはいないんですよ」
実際の所、ギルドとしてのCiNは、知名度に反して規模は驚くほど小さく、ギルド員だけで大きな事件を起こすのは不可能だ。
自警団襲撃事件は、掲示板の呼びかけで集まった不特定多数の同志が起こした事件であり、CiNはその主張をゲーム内で伝えるために作られた広報用のギルドの意味合いが強い。
「え~、司会の私から補足しますと、CiNが出来たのは襲撃事件の後で、実際に自警団を襲撃したのは、考えに賛同した同志が自発的にやった事、だそうです」
「そんなものは詭弁だ!」
「まぁまぁ。反論は後ほどで。それでは次にクレナイさん、これまでトッププレイヤーは、隠しステータスであるイベント進行度を上げるために自警団の活動には非協力的でしたが、BLが一時使用不能になった今、トップの人たちは今のLとCの対立を、どうお考えでしょうか?」
団長も含め、その場にいる者がクレナイの発言に注視する。結局のところ、L&CはRPGゲームであり、先行している者が絶対的に有利だ。よって、市場や組織間のパワーバランスはトップの行動に大きく左右される。
「まず、BLの影響でC値が伸び悩んで、その影響で重要イベントの発生が遅れそうなのは、間違いなく事実だろう」
「その様ですね」
「実際、最速攻略を目指すプレイヤーの中には、L√でありながら自警団の活動を支持しない者が少なからずいる」
「「 ………。」」
「しかし、イベントの遅れは全プレイヤーが共有するものであり、そこに有利も不利もない。実際、俺はどちらの活動も指示しない"中立"で、その…、C√トップの代表も、そのスタンスなんだろ?」
「あ、はい。Sさんも中立のようです」
「だとさ。そのSとか言う"短剣使い"が誰かは知らないけど…、基本的に上位プレイヤーは、自分を更なる高みに持ち上げることしか考えておらず、実はそれほど他者に対してアレコレしてほしいってのは、あまり考えていない」
「そうなんですか?」
「もちろん、考えているヤツもいるだろうけど、全体の割合としては…、"他の連中が足を引っ張り合っているうちに、いかに自分が出し抜くか!"ってのを考えている感じかな?」
「なるほど…」
司会も含め、ギャラリーが一様に頷く。
クレナイの言葉には、実のところ全く根拠は存在しない。しかし、それが『トッププレイヤーの発言』と言うだけで充分すぎる意味が生まれる。
「まぁ、俺の方はそんな感じかな? それで、Sさんのメッセージはどうなんだい?」
「あ、はい。司会は私なので仕切らないでください」
「あ、はい。すんません…」
「それでは、Sさんのメッセージを発表します。え~っと…、同じC√でも攻略勢と悪徳勢で大きく意見が分かれるだろうが、俺も基本的には自由が1番だと思っている。よって、L&Cの今後の在り方として相応しいスタンスの組織は…、CiNではなく、自由連合だと思っている。そのあたりの話は、どうせ会場に来ている"レイ"に任せる」
「ふぁ!?」
突然の指名に、会場の視線がギャラリーの1人に集まる。
「はぁ~ぃ、Sさん代理のレイ君。ご使命なので壇上に上がってくださ~ぃ」
「ちょ、俺、何も聞いてないんですけど!?」
「はい、メッセージの続きですけど…」
「え? スルーなの??」
「一介のプレイヤーにすぎない俺が、他人の行動をとやかく言うつもりは無い。しかし、こうしている間にも、俺は攻略を進めている。あと、俺にPKを挑むのは歓迎するが…、個人なら個人を、組織なら組織を、返り討ちにするつもりなので、その覚悟をもって挑んできてほしい。…だそうです」
その後は、団長と天狗が不毛な言い争いを繰り広げ、その板挟みにあって畏縮するレイ、そしてその姿を面白がるクレナイの構図が、予定時間まで続き…、結局何も決まらないまま討論会は御開きとなった。
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