#377(8週目金曜日・午後・Hi)

「ちょっ!? 待ってくれ、だから言ってるだろ? 俺たちは味方だって!」

「ほら、敵の敵は味方って言うだろ? ここは仲良く、自警団を潰すために同盟関係をだな…」


 私はCiNに剣を向ける。別に仲間のフリをして背後から斬りかかっても良かったのだが…、新規2人も居るので、ここはハッキリ言っておく。と言うか、言ってやりたい気分になった。


「寝言は寝てから言うべきね。仲間内で協力し合うのは勝手だけど、そんなヌルい考えで、この先どうやってやっていくつもり?」

「ふふふ、やっぱりそうよね~。確かに初心者狩りだとL√PCを狙う事になるけど、やり合う回数で言えば、圧倒的にC√、それも同業者の方が多いものね~」

「「あぁ、確かに…」」


 結局のところ、Lだの自警団だのの話は初心者しか狩れない半端な連中のワガママでしかない。本当に強いPKは、そもそも√を問わず戦う。何故なら…、安全な狩場で確実な相手だけ狩る狩りでは、どう足掻いても効率や利益は見込めない。結局そんなものは、愉悦感を得るためだけの自己満足でしかないのだ。


 まぁ…、6時代は私たちも、わりとそんなノリだったけど。


「チッ! 下手に出てやればイイ気になりやがって」

「ベテランづらしてるところ悪いけど、俺たち、別に(自警団に)勝てないからお前らを誘ったわけじゃないんだよね。ぶっちゃけ、俺たちだけでも余裕。これでも6時代は、かなりのところまでいったんだからな!」

「あっそ。2人とも下がってなさい。ここは2人で充分だから」

「「うっす!」」

「ふふふ、面白くなってきたわね~」




 成り行きでCiNと事を構える展開になってしまったが…、考えてみれば、ザコの自警団を狩るよりはいくらか楽しめそうだ。


 相手は、最初に話しかけてきた2人と、近くに待機していた仲間を加えた計4人。もしかしたらまだ増援がいるかもしれないが、そこは新規2人もいるので素直に周囲警戒を任せる。


「イキッて俺たちに喧嘩を売った事、リスポーン先で後悔するんだな!」

「へへへ、気の強い女は嫌いじゃない。その強気な態度が、いつ折れるか楽しみだぜ」


 どうでもいいけど、Luってどっちだと思われているのだろう? アバターは男だけど、口調は女、リアルは…、知らないけど、Luの性別はギルド内でもオカマ説と女説で意見が分かれる。まぁ、面白がってオカマ説を推す人の方が多いけど…。


「あら奇遇ね。私も~、気の強い坊やは、キライじゃない…、わ!」


 Luの鞭を合図に戦いの幕が上がる。


 私たち2人が背中合わせで囲まれ、そこに相手が2・2で分かれて挟撃の形を作る。新規は更に距離をとって、審判のように左右から試合を見届ける形だ。


「せっかく4対4だったのに、バカなヤツラだぜ」

「わざわざ自分から不利を背負い込むなんて、素人はどっちだよ?」

「「 ………。」」


 返す言葉もない。


 少し前の私なら絶対に選ばなかった選択だ。しかし、今の私は知っている。本当に大切なものは勝利回数ではない。それよりも重要なのは…、戦いの質。それは、余裕ぶって縛りプレイに興じるのではなく、限られた戦闘機会をいかに自分の糧にするか。アバターではなく、PSを上げるための経験値をいかに稼ぐか、そこが重要なのだ。


「相変わらずの無駄口。威勢のわりに相手の実力が分からなくて踏ん切りがつかないようね」

「なぁ!?」

「そうよね~、元々4対4なのに、そこをあえて2人落として挑んでくるんだから、警戒するのは、当然よね~」

「くそ、言わせておけば…」

「それじゃあ、私も挨拶よ!」

「「なっ!?」」


 短剣装備の私が魔法を使った事に驚く4人。短剣使いは、大雑把に機動力重視の片手型と、手数重視の両手型に分かれるが、例外として空いた片手に外見で悟られにくい[マジックリング]を装備した魔法型も存在する。


「おい!」

「わかってる!」


 すぐさまポジションを交代する4人。


 Luは鞭なので得意レンジは中距離、もともとはショートソード装備の盾持ちと遠距離の魔法使いが相手で、盾で攻撃を防ぎながら魔法で削る作戦だったようだ。対して私は短剣のみだと思われていたので、中距離の槍使いと遠距離の弓使いで距離を取りながら戦う作戦だったようだ。


 しかし、私の魔法を見て後衛を入れ替え、Luの削りは弓で、私には魔法防御を重視して魔法使いをあてがった。


「ふふふ、まぁ、無難な策ね」

「読み易くて助かるわ」


 相手の出方を伺いながら、Luの背中に肘で合図を送り、タイミングを合わせる。


「なにを!?」

「調子ぶっこいてんじゃねぇぞ!!」


 盾が鞭に備えてガードを堅め、槍が中距離から鋭い突きを放つ。後衛2人は同士討ちの危険があるのでフォローに徹する。教科書通りの行動に心の中で安堵する。


「もらっ…「なに!?」」


 槍使いが距離を詰めたタイミングで私とLuが同時に後ろに飛ぶ。しかし、背中合わせで戦っているので当然のようにぶつかってしまう。だが、それが狙い。お互いの左肩が強くぶつかり合い、体が反転する。


「(盾を)構えるタイミングが早すぎね」

「槍の軌道が、見え見えね~」

「「くそ!!?」」


 盾持ちには私の魔法が、槍使いには鞭の一撃がクリーンヒットする。盾持ちに関しては盾越しだが、PT内に魔法使いがいたこともあり魔法防御は捨てた装備だった。よって、魔法使いと離れてしまった今は、盾の物理防御は全くの無駄となっている。


「おぉ、流石"漢女おとめ"コンビ!」

「完璧なタイミングだったぜ!!」


 ギャラリーから賞賛の声が上がる。大丈夫だと思うけど、私もそんなに余裕は無いので、周囲警戒だけは怠らないでと願うばかりだ。


「くそっ!」

「1発入れたぐらいで調子に乗るなよ! 俺たちの戦いは、これからだ!!」


 流れを持っていかれて、苦し紛れに反論する4人。


 しかし、実のところ勝負は最初のポジションチェンジの時点でついていた。4人的には、有利なレンジを潰して『相性のいい組み合わせ』にすれば勝てると考えていたようだが…、それは素人の典型的な失敗パターンだ。


 結局のところ、レンジの有利はあくまで基本の戦術であり、常に理想的な状態を維持できるわけではない。にもかかわらずソレに固執すると、かえって対処がしやすくなる。私たちとしては、レンジばかりを気にしている相手を揺さぶり、翻弄する流れができるわけだ。


 逆に嫌だったのは、大きく距離を取ってのチクチク削ってくる戦法か、逆に個人技を重視した乱戦に持ち込む戦法。つまり、相手に主導権を握られるパターンだ。こうなると人数の不利が大きくのしかかるし、何より臨機応変な対応が"常に"求められ、結果として精神への負担が大きくなってミスが増える。




 結局この後は、私たちが主導権を握ったまま淡々と削っていく形となり…、CiNとの勝負は、私たちの勝利に終わった。

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