#376(8週目金曜日・午後・Hi)
「 …。…ワクワクするよな!」
「だな。ベテランPKの戦いぶり、それを準備段階から間近で見られるんだからな!」
サーラムの鬱蒼とした森を進んでいく。
この場所は、簡単なお遣い系クエストの中継地点となっており、NPC狩りや、空いた時間にクエストを消化しようとするソロPCがよく出没する。
因みに、今は
「フフフ。お喋りもいいけど、そろそろ目的地だから~、2人も周囲を警戒してね~」
「「うっす!」」
あと、粋がるつもりは無いが…、2人の尊敬のまなざしが、ちょっと小気味いい。最近は初心者狩りを封印したこともあり、負けがこみ、仲間に冷めた目で見られる事が多かったからだ。
そう、私たちはこれでも結構強い。セインや他のランカー経験者は無理としても、ベテラン勢相手なら互角以上の勝負が出来るし、当然、ベテラン予備軍の新規メンバーに後れをとることは無い。
「とは言っても~、あまり警戒しすぎるのも逆に不自然だから、肩の力はぬいて、人影を見逃さないようにだけ、しておけばいいわ~」
「目だけで探す感じっすね」
「そうそう」
つか、SKやナツキの強さ(成長速度)が異常なだけなのだ。L&Cは元よりリアルの運動神経が重要で、そのあたりが大きいのだろう。特にSKはその典型で、ゲーム的な戦略に関しては素人丸出しだが、動きや反射速度が根本的に違う。対してナツキは、努力家で、地味ながら確実に一歩一歩前進している。
いや、むしろ全部セインのせい。何かにつけて裏で一枚噛んでいて…、そう! まさに"元凶"って感じだ。
「あ~、もう!!」
「「!!?」」
「どうしたのヒィちゃん、突然叫んで」
「あっ、いや、何でもないから…」
「「??」」
いけない、今はPKに集中しなくては。特に今日は、ギルドの指示を反した上に、
…………。
えっと、そう言えば2人の名前、なんだったっけ? まぁいいか。興味ないし。
「あら。あそこ、今、丁度(ザコと)戦っているわね」
「おっ、早速居ましたね!」
「ペアみたいですけど、仕掛けますか?」
そこに現れたのは、見るからに"初心者"な装備のペアPT。たまに、わざと初心者っぽい装備でPKを誘うヤツもいるが…、立ち回りを見るかぎり、本当に初心者で間違いないだろう。
「あれはパスね」
「え? いけそうですけど、仕掛けないんですか??」
「あんな見るからに初心者、狩っても腕が鈍るだけよ」
「「おぉ! 流石姐さん、カッケー!!」」
「姐さん言うな」
「ふふふふふ」
賞賛の眼差しを向ける2人と、その姿を見てニヤニヤするLu。その目は『ちょっと前のヒィちゃんなら、仕掛けていたわよね~』と語っている。
「ヒィちゃん言うな」
「え~、"まだ"言ってないのに~」
図星だったようだ。
「しかし、L&CのPKって、本当に奥が深いですよね」
「つか、難しすぎるんだよな。基本的に、仕掛ける側が不利だし」
「転生すると、また状況も違うんだけど~、転生前は、確かにそうね~」
「それでも運営は"禁止"にはしないんですよね? 不利ってだけで」
「でも、わざわざ指名手配なんて面倒なシステムを作って戦略性を演出しているんだから、むしろPK推奨派なんじゃね? 運営の心情的には」
「それは、あるかもね~」
PK談議に花を咲かせる3人。
どうでもいいが、どうにも私はお喋りに入って行くのが苦手だ。そのせいで本当に女性プレイヤーなのか疑われたこともあるが…、中には私みたいに輪に入るのが苦手なタイプも普通にいる。まぁ、少数派なのは認めるけど。
「あっ…」
「お、早速次ですか!?」
「あら、出会っちゃったわね~」
「「あっ!!」」
次に出てきたのは、白い縁取りで彩った装備を纏う3人PT。あのデザインは間違いなく自警団だ。
「飛んで火にいるナントヤラ」
「宿敵キタコレ。アイツラは、流石に見逃さないっスよね?」
「どうするの、ヒィちゃん」
悩ましい相手が出てきてしまった。
と言うのも、現在、この手の見回りをしている自警団団員は漏れなく初心者だ。実力があるなら正体を隠して普通にPKKをするわけで、それをしないのは"抑止"で巡回しているだけの連中となる。
もちろん、アレは囮で、近くに"K"が潜んでいる可能性もあるが…、だったらなおの事、仕掛ける理由はない。
「ヒィちゃん言うな。ちょっと、周囲を確認しましょ。もしかしたら、アレが囮の可能性もあるわ」
「おぉ、確かに!」
「なるほど、やっぱりベテランの人たちは違うな~」
「 ………。」
問題はここからだ。過疎エリアと言っても、探せばそれなりに人はいる。それがKか見分ける手段がコチラには無い。
周囲を確認したところ、ペアPTを1組発見した。話によると、Kは1つのPTを分割して挟み撃ちにする作戦を好むようなので…、それっぽいと言えば確かにそれっぽい相手だ。
「まだ、気づかれていないみたいだけど、どうしますか?」
「いっそ、普通に話かけちゃいますか? 俺たち2人が声をかけている隙に、2人が狩る、みたいな?」
「なるほど、それはいい考えね~」
たしかに、それは"アリ"だ。
ただし…、相手の方から、私たち4人に話しかけて来なかった場合に限るけど。
「こんにちは~」
「皆さん、ココに何を狩りに来たんですか?」
「「え、いや、えっと…」」
Luも含めて、皆の視線が私に集まる。
Luは基本的には頼れるヤツだが、残念ながら主体性は無いので物事の決断に関しては私に丸投げしてくる。
「見て分からないの? 身内で"のんびり"やっているトコだから、悪いけど構わないでちょうだい」
質問に真面目に答えるのはNG。何とでもとれる解答や、それこそ無視してしまうのが正解だ。例えそれで悪い印象を持たれても、ボロを出したり、そこから話を広げられたりするよりは遥かにマシだからだ。
「へへへ、そう邪険にするなよ」
「目を見れば分かる。あんたら、PKだろ? 俺たちと同じ目だ」
「え!? 分かるんですか」
「まぁ、経験をつむと分か…」
「ブラフよ。まんまと引っかかって…」
同業者に気が緩んだのか、1人があっさりボロをだす。
「あっ! すんません、姐さん」
「姐さん言うな」
「まぁまぁ、まだ気づかれていないみたいだけど、皆、目立たないようにね」
今のところ、自警団がこちらに気づいた様子はない。
まぁ、視界には入っただろうが…、こんな大勢でバタついていれば、普通は気を使って距離をとる。なにより、相手は抑止目的で巡回しているだけ。よって、能動的に何かする力や知識は持ち合わせていない。
「まぁ、そう警戒するなって。俺たちはアンタラとやり合うつもりは無いから」
「そうそう、アンタラもPKなら、名前くらい知っているだろ? 俺たちはCiN。打倒自警団をかかげているギルド…、というか、意識共同体だな」
「あぁ、この前自警団に襲撃をかけたグループか…」
「そう! それ。だから、自警団の敵は、もれなく俺たちCiNの"同士"なんだ。だから仲良く…」
「自警団をキルしましょう、とでも言いたいわけ?」
「そう、そのとぉ~り!」
コイツラが話しかけてきた理由が理解できた。
つまり『エモノを取り合う』のではなく『一緒に自警団を叩いて、肉体的にも精神的にも凹ませましょう』って話だ。
「そう、それなら答えは1つよ」
「へへへ、それじゃあ、見失う前に早速…、ちょ!? なんで構えてるんだよ!??」
私は迷わず、CiNのバカたちに剣を向ける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます