#375(8週目金曜日・午後・????)

「そっちは居たか?」

「ダメだ。ほかのグループも接触出来ていないようだし、今日はログインしてないんじゃないか?」


 昼過ぎ、仮面を装備したPCたちが忙しなく誰かを探す姿があった。


「いや、でも確かに"毎日、昼過ぎからログインして、夕方までソロで狩りをしている"って…」

「その毎日って、本当に毎日なのか? 毎日と、"ほぼ"毎日では意味が全然違うぞ?」

「まぁ、インできない日もあれば、気分転換に普段行かない狩場に行くこともあるよな」

「おいおい、何を悠長なこと言ってんだ。このまま帰って、何の成果も得られませんでした~って報告するつもりか?」


 彼らは鬼畜道化師商会の新規メンバー。彼らは現在、妹グループにペナルティーを科すべく、全員強制参加で捜索にあたっていた。しかし、成果は今のところ"ゼロ"。それどころか、WSサイトで呼びかけたフリー参加者も含めて、素人であるはずの妹グループをキルしたと言う報告は上がってこない。


「いや、そもそも期限短すぎだろ?」

「だよな~。日曜までに特定の誰かをキルして、装備を剥ぎ取ってこいとか、無理ゲーすぎ」

「まぁ、試合はこれでも限界まで引き伸ばしてって話だから仕方ないけど、それにしたって、もっと早く言ってほしいよな」

「たく、いいトバッチリだぜ…」


 指揮系統の甘さに愚痴がこぼれる。


 それもそのはず。鬼畜道化師は現在、EDを支持するかで意見がわかれ、古参の幹部メンバーも含めて分裂が加速していた。


 もちろん、新規メンバーは新たに加入したアドバイザーが、6時代に悪徳ギルドのトップと謳われたEDの残党だとは知らない。しかし、だからこそ顔も出さずに雑用ばかり押し付けてくる謎の"お偉いさん"に不満は募るばかりであった。


「それで、これからどうする? ギルドに帰っても、もう一回探してこいって追い返されそうだけど」

「もう、探してるフリして、普通にレベル上げしねぇ?」

「バレたら、クビだろうけどな」

「それならそれで、どんとこ~い!」

「「ははははは~」」


 もはや、おフザケで辞める辞めないの話が出る始末だ。


「みんな~。調子はどうぉ~」

「 ………。」

「あ! お疲れさまです!!」


 そこに現れたのは、幹部のLuとHi。2人は本来、新人の指導は担当していないものの、今回はお目付け役として駆りだされていた。


「 …。…。」

「だから、多分今日はもう来ないんじゃないかって」

「なるほどね~。試合に向けて装備関係を揃えに行ってる可能性もあるし、こまったわね~」


 軽い口調で状況報告がなされる。


 本来、幹部と新規メンバーには明確な上下関係があり、軽口厳禁なのだが…、2人に関しては例外。接点はあまりないが、逆にそれがよかったのか、Luの人柄もあり、2人を頼れる先輩のように慕うものは少なくない。


「それで、ここはもう引き上げようかって話ていたんですよ」


 すると、新規の1人が、あえて曖昧な言葉で2人の顔色を伺う。


 これには、『この場での捜索を止めて、次の場所へ行く』と、『探索を打ち切ってしまう』の2つの解釈が出来る。


「「 ………。」」

「まぁ、いいんじゃない? 何だったら、コイツラも連れていく??」

「いいの? ヒィちゃん」

「ヒィちゃん言うな。まぁ、言い訳にも使えるし」

「「??」」


 意味深な発言に困惑する新規メンバー。2人が探索を続行する気がないのは理解できるが、はたして…。


「えっと、何かやるんですか?」

「何かってほど大したことでもないんだけど~、これから2人で対人戦の練習に行こうかって、話していたのよ~」

「つまり、SKを探すフリして、PKでもしようって話」

「「!?」」

「さっすが、姐さん! お供します!!」

「姐さん言うな。まぁ、大勢で行っても目立つから、2人までかな?」

「えっと、俺はちょっと…」

「よっし! それなら1人は俺で決まりだな」

「この俺を忘れてもらっては困るぜ!」

「いやいや、俺が居なくちゃ始まらないだろ?」

「「 ………。」」

「 ………。」

「いや、のってこいよ!!」

「え? えぇ??」


 余談だが、MMOプレイヤーの年齢は思いのほか開きがある。


「バカなことしてると、置いてくよ」

「ちょま!?」

「ふふふ、ごめんなさいね。今回は、ジャンケンでパパッと決めちゃって」


 結局ジャンケンで決めることになり、散っていた仲間も含めて大ジャンケン大会が開かれる。


「ねぇ、Lu」

「なぁに?」

「全然決まらないんだけど」

「人数が多いと、どうしてもね~」




 そんなこんなで、HiとLuは新規を2人連れてPKへと出かけた。

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