#374(8週目金曜日・午後・セイン2)
「ん~、なかなか集まらないな…」
昼過ぎ、俺は皆と別れ、1人で雑多な素材集めに勤しんでいた。
因みに、ニャン子とスバルには経験値重視で効率狩りをやらせている。足並みを合わせる意味は無いが、それでも(プレイ時間的にも)俺のレベルが極端に先行しているので、そちらを優先させた。
まぁ、他に理由がないわけでも無いんだが…。
「おい、そこのデフォルト顔! お前、もしかして本物のセインか?」
「人違いです」
「そうか。こんな高難易度のエリアをソロっているから、まさかと思ったが…」
現れたのは中途半端な価格帯の装備で身を固めた3人PT。雰囲気からして、中堅が金策も兼ねてレベル上げに来たってところだろうか?
「そうだ、アンタ、よかったら俺たちのギルドに入らないか?」
「ちょ、なに行き成り勧誘してるんだよ!」
「いいじゃないか別に。強いなら、ダメもとでも誘ってみるべきだろ?」
「いや、だからって…」
7世代からの新規スタート組か、L√からの転向組だろうか? L√ならともかく、C√でこの手の勧誘はタブーなのだが…。
「話している所悪いが、既にギルドに入っているので誘いには乗れない。お節介だと思うが、ギルド倉庫を荒らされる危険もあるから、行きずりでの勧誘は控えた方がいいぞ。じゃ…」
「ちょま!」
時間も惜しいのでキッパリ断って立ち去ろうとするも、何故か慌てて呼び止められる。
余談だが、C√とは関係なく、行きずりの勧誘で"格上"に声をかけるのは非常に稀だ。常識的に考えれば即戦力になりそうな人を誘うのは合理的なのだが…、それ以上に(ギルドなどの仲間内での)『主役の立場を奪われたくない』と言う心理が働く。よって、声をかけるのは基本的に異性か、不足している職業の初心者となる。
「別に、直接じゃなくてもいいんだ。ギルドがあるなら、"同盟"を結ぶだけでもいいから!」
しかし、積極的に格上を勧誘するギルドが無いわけでも無い。例えば鬼畜道化師商会のように、テコ入れで戦力を増強しようと考えているギルドが上げられるだろう。この場合、新人用に姉妹ギルドを用意して、そこに新規を送り込み、見込みのあるPCを選別する形になる。
3人が言う同盟とは『有事の際には人材を融通しあいましょう』的な意味合いが強いのだろう。
「ウチは身内ギルドなんで…」
「まぁまぁ、そういわず。特に縛りとか無いフリーな集まりだから」
「アンタも、自警団の横暴には迷惑してきたんだろ? 俺たちはプレイヤーの権限を逸脱した行為を規制し、L&Cを本来あるべき姿に戻したいと考えているんだ」
普段ならこれ以上話に付き合う事はしないのだが…、どうやら、コイツラが探していた連中のようだ。
「まぁ、確かに自警団とは色々ありましたけど…」
「だろ!?」
「俺たちは…、まだ仮なんだが、Chaos is nature、略して"
CiNとは、自警団を襲った例の一団の名だ。まだ仮決定のようだが、襲撃後、ようやく名前が付けられるまでの纏まりが出来たようだ。
「今、時間はあるか? よかったら、話だけでも聞いていかないか?」
「なんだったら、俺たちのPTに入って、狩りをしながら説明する形でもいいだが…」
「まぁ、少しだけなら…」
あまり気のりはしないが、CiNの活動や雰囲気は把握しておきたいと考えている。と言うのも、今までは掲示板でオープンに情報共有をしていた組織なのだが、今後はクローズド化が進み、本格的に自警団を攻撃し、更にはPKなどの悪徳行為に及ぶ可能性があるからだ。
もちろん、俺もC√なので悪徳行為自体を否定するつもりは無い。一応俺は『元L√PCで、自警団やEDとの一件で√落ちして、仕方なくC√を攻略している、善良プレイヤー』って事になっているが…、個人的には"節度を守った範囲"なら悪徳プレイはOKだと考えている。
「 …。…!」
「それでさ、自警団のヤツラ、マジでムカつくんだぜ!?」
そんなこんなでCiNについて話を聞く流れになったが…、どうにもコイツラ、無駄口が多いと言うか、カジュアルなノリが強いと感じてしまう。
まぁ、俺を勧誘するためにわざとラフな雰囲気を演出しているのかもしれないが、やはり中堅止まり。大した努力もしないで、上手くいかない(行き詰まっている)理由を自警団のせいにしている、取るに足らない連中のように見える。
「えっと、それで、襲撃のタイミングとか、具体的な活動は…」
「あぁ、なんて説明したらいいかな~」
「結局俺たちはさ、スタンドアローンなんだよ!」
「そうそう、理念とか大雑把な行動目標はあるんだけど、それに制約とか、細かい作戦を加えちゃうと…、ほら、そこから失敗とか、面倒な上下関係が生まれちゃうじゃない?」
「はぁ…」
言いたいことは理解できるが、いくら言葉を取り繕っても、そんなものは『行き当たりばったり』や『踊らされている人形』でしかない。もう少し何かあると警戒していたが…、少なくともコイツラからは警戒するものは感じない。CiNのメンバーが全員こんな調子なら、近い将来、自警団に敵わず、自然消滅するだろう。
「でも、一応メインの作戦は、いつも同じヤツが決めてるよな? 設立者だと思うけど」
「あぁ、匿名だから証拠はないけど、間違いなくそうだろうな」
「だよな。複数のアカウントを使って、多数決で決まったみたいに演じているけど…、アレは同一人物か、同じギルドで示し合わせて結論を操作している動きだよな」
「まぁ、設立者が居て、ソイツに意向があるのは当たり前。結局、その指示に賛同できるか、参加するか、それだけの話だよな」
「「そうそう」」
「 ………。」
バカそうに見えたが、どうやらそこまで酷いものでは無かったようだ。だからと言って付き合いたい相手ではないが…。
「えっと…、俺、目標は達成したので。話はギルドに通しておきますから、何かあったら連絡します」
「あ、ちょっとまって。一応、連絡を取り合えるようにフレンド登録をしておこうぜ!」
嫌です。
「すいません。俺のギルド、リアルの身内ギルドなのでフレ登録は今日は無しで。一応、知り合いにも興味が無いか、声はかけておきますんで」
「そうか。アンタ、普通に上手いから、出来ればCiN抜きでも協力出来たらと思っていたんだが…」
「えっと、ぶっちゃけ、レベル帯が、あわないかと」
「ぐはっ!?」
「ぷっ。確かに、今のままじゃ俺たちが寄生する形に、なっちまうよな」
コイツラ、もしかしたら俺が本物のセインだと気づいているかもしれない。しかし、それを詮索しても、この場で得られる益は無い。プレイヤーとして、人柄や腕前は信用に足らないが…、それだけで人の価値は決まらない。
そんな事を考えながら、俺は何事もなくその場を立ち去った。
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