#373(8週目金曜日・午後・セイン)

「ま、そういうことだ。で、その仕様を利用して考案されたのが、これだ」


 そういって、まずはペン回しの要領で鎌を回す。


「「おぉ~」」

「それならアタシもできるぞ!」

「じゃあ、これはどうだ?」


 次は体全体を使って、右から左、左から右へと鎌を回す。


「「おおぉぉ~」」


 難しそうに見えるが、落ちることは無いので実は結構簡単で、感覚としてはヌンチャクが近い。


「それはやったことないな。ちょっとやらせてくれ!」

「本題はこれからだから、ちょっと待ってろ」

「うっ、わかった…」


 更にそこから、腕を勢いよく前に突き出す。すると、リアルなら明後日な方向に飛んでいくはずの鎌が、体を伝って突き出された手に吸い寄せられる。


「よっと。この瞬間、インパクトにあわせて柄を握ればダメージが出るわけだ」

「「おぉ!!」」

「なにそれ!? 普通に面白そうな技じゃない。画的にも映えそうだし、そう言うのはもっと早く言ってよね!!」


 1番の食いつきを見せたのはユンユン。回転する杖が手の動きに合わせて軌道を変えるのは、確かにインパクトがある。加えて、ユンユンは杖を使うので御あつらえ向きに思える。しかし…。


「残念ながらこのテクは2つの理由で"実戦では使えない"とされている」

「「えぇ…」」

「言われてみれば確かに使われたこと無いのにゃ。まぁ物理系の杖術使い自体、滅多にいにゃいけど」

「へぇ~」


 ランカー経験者のニャン子が知らないのも当然。L&Cは、RPGによくある都合のいい(武器攻撃力の)バランス調整が殆どない。杖に利点が無いわけではないが、それでも槍をあえて使わず、殺傷能力の低い長杖を使うのはナメプでしかない。


 よって、杖術はあくまで魔法使いが『間合い調整用』に使う位置づけで、純粋な杖術でランカーまで登りつめた者は存在しない。


「まず、杖で薙ぎ、剣で言えばスラッシュ攻撃だな。これは基本的に使わない。なぜなら、軽い棒で叩いても大したダメージがでないからだ」

「あぁ確かに、基本は槍と同じで突きが主体よね」

「そういうこと。だから普通のロッドでやっても同じくダメージは出ない。その点、ダブルリッパーは両端にオモリとなる鎌がついているので、鎖鎌の回転攻撃と同じ要領で、そこそこのダメージが出る」


 因みに、同じ理由でトンファーもL&Cでは人気のわりに『使えない武器』認定されていたりする。確かに攻守に優れた動きは面白いものの…、攻撃力はバットにすら劣るので話にならない。ぶっちゃけ、盾どころかガントレット相手に詰むレベルだ。


「なるほどね。それで、もう1つは?」

「あぁ、これは変態流派全般に言えることだが…、動きが奇抜過ぎて、アシストが適応されず、ミスしやすい点だな」

「「あぁ…」」


 L&Cでは、レベルやステータス、特に熟練度の効果で、動きに"補正"が加わり、素人でも達人のような動きが再現できる。


 この補正は弓をイメージすると分かりやすいのだが…、例えば的の中心を狙っても、実際にはある程度の"ブレ"が生まれる。このブレは風などの外的要因も含まれるが、大きな要因は『脳内イメージの正確さ』と『筋肉に送られる信号の出力の安定性』の2つとなるのだが、(他のゲームは外的に軌道を変化させるのに対して)L&Cの補正は、体に送られる信号に対して補正がかかる仕様になっている。よって、放たれた矢の軌道が曲がるとか、手が的に向けて吸い寄せられる、なんて事は起こらない。


 使用感としては、補正がかかっていること自体体感しづらく、『絶好調の状態に固定してくれる』ような印象だ。まぁ、その補正システムの開発に小さなゲーム会社ならダース単位で買収できるくらいの開発費がかけられていたりするのだが…、それは守秘義務があるので秘密だ。


「つまり、熟練度やステータスの補正なしで同じ動きを"リアルでも"出来るくらい練習しないと決まらないって事だな。まぁ、落とすことは無いので、ちょっとパフォーマンスをする分にはいいが…、実戦となると、流石に俺も100%決める自信はないな」


 せめて補正が全ての行動に適応される仕様ならよかったのだが、流石にそれはシステムの負担が大きすぎるし、なによりオープンアクションの意味が薄れてしまう。そのあたりのアシスト機能は、医療目的で開発された経緯もあって、適応具合は非常にシビアだ。


 よって、弓なら射撃、槍なら刺突に関する動作のみにしか適応されず、新体操やサーカスじみた動きは適応範囲外となる。


「なるほどね~」

「アチシは、そこでサラッと100%とか言ってしまう、兄ちゃんの感覚に驚きを禁じえないのにゃ」

「??」

「まぁ、そこはご主人様ですから」

「だよな、アニキだし」

「そうよね、お兄ちゃんだし」

「「はぁ~~」」

「いや、俺だって面白そうだから"ちょっと"研究してみたわけで…、おい! 俺を何でもできる完璧超人みたいな目で見るのは止めろ!!」

「「はぁぁ~~」」

「なんでそこで溜め息がデカくなるんだよ!」

「「ははははは~」」

「それより! SK、ダブルリッパーこれは参考になりそうか?」

「ん~、とりあえず今は、すっげぇ~、使ってみたい!」

「言うと思った」

「ニシシ、読まれていたか」

「それじゃあ明日まで貸しとくから、気に入ったら買い取ってくれ」

「おう! ところで…、お値段は?」

「3M(300万)」

「ぐはっ!?」


 盛大に悶絶するSK。どうやら使う前から買う気満々だったようだが…、このリアクションでは手持ちは期待できないだろう。


 しかし、SKにはむしろ、お金の大切さを痛感し、ナツキたちに泣きつくくらいが丁度いい。まぁ、ナツキならPTの戦力強化のためにも出し惜しみはしないだろうけど。




 こうして、俺はダブルリッパーをSKに貸し出し、盛り上がるギルドをよそ目に、今日も今日とて狩りに出かける。

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