#370(8週目木曜日・夜・ナツキ)

「あのさ!」

「「??」」

「いや、何て言うか、アタシたち…、もっとアノ武器に対しては、こう! とか、あの戦術の相手にはこうする、みたいなの? を、研究した方がいいんじゃないかなって…」


 夜、いつものように3人で集まったのだが…、どうやらSKが何か悪いものを食べたようだ。


「え? どうしたのSK。大丈夫? 熱は計った??」

「お姉ちゃん、それは流石に失礼だよ…」

「いや、だって…」

「ははは。ナツキの言うことはもっともなんだけどさ」


 失礼なのは理解しているが、それでも言わずにはいられない。なぜなら、相性どうのの話は、私たちが何度も言ってきたことであり、それを拒絶してきたのはSK本人なのだから。


「そうよね。例の商人との再戦も近いし、何より、メタゲームだっけ? 相手は相性のいい編成にしてくるだろうから、苦手対策はした方がいいわね」

「でも、どうしたの急に?」

「いや、まぁ…。…。」


 話によると、SKは今日PKに襲われたらしく、そこで苦手な戦法の対処で苦労したそうだ。もちろん、似たような事は今まで幾度もあっただろうが…、最近のゴタゴタでSKの心境に変化が生まれたようだ。


「そうね…。それじゃあ、ちょっとレベル上げは控えて、その辺の対策を考えましょうか」

「ん? レベル上げはしなくてもいいのか??」

「レベルは今更、1や2くらい上げても大きな変化は期待できないからね」

「あぁ…」


 メタゲーム、相性の問題だけではないが、試合が延期している事もありコチラはすでに準備万端。今までは底上げにコツコツとレベル上げをしていたが…、それは相手も同じ、いや、相手はコチラ以上に準備を整えているだろう。


 それに対して地道な底上げは効果が薄い。やるなら、そう! 相手の作戦を根底から破たんさせるような"一手"を用意する事。あまり奇抜なことをして基礎が疎かになっても仕方ないが、奥の手や無理のない範囲でビルドを変更するのは"あり"だろう。


「いいんじゃないかな? どうせ、今フィールドに出てもWSや、それこそ手の内を暴こうとする監視がいないとも限らないし。それならいっそ、引き篭もって秘密特訓をするのも」

「秘密特訓か…。いいな、なんだかワクワクしてきた!」

「「ははははぁ」」


 SKは、確かに才能に溢れ、なにより向上心が高いが…、その半面ムラがあり、自分のスタイルを曲げない、それで負けても受け入れてしまう潔さが悪い方向に働いていた。しかし、その考え方が変化したのはチャンスだ。


「よし! そうと決まれば…、場所は、とりあえず酒場でいいかな?」

「いっそ、ギルドを作っちゃう手もあるよね」

「ん~、それは、もう少し考えたいかな?」


 そんなこんなで酒場に移動する。酒場の個室はギルドホームのように細かな設定は出来ないものの、それでもプライベート空間として自由に利用できる。




「とまぁ意気込んできたはいいものの…」

「何をしたらいいのか、サッパリだな」

「「はははぁ…」」


 思わず苦笑がもれる。当たり前だが、素人の浅知恵でアッサリ解決できるなら世話わない。


「ん~、やっぱりアニキに聞くのが1番だよな」

「 ………。」

「ん? 何か変な事言ったか??」


 早速セインさんを頼ろうとするSK。前々から苦手なことは丸投げするタイプだったが…、なんと言うか、セインさんに頼る口実を探しているように見えなくもない。


「いや、別に…。それは当然聞くとして、今はとりあえず私たちで考えてみましょ」

「そうだね。お兄さんに任せっきりってわけにもいかないし」

「お、そうだな」

「「 ………。」」

「えっと、コノハ。メタゲームについて、改めて纏めてもらってもいい?」


 不本意だが、ここは状況を整理する意味で妹を頼る。コノハはゲームに詳しいので、こういった時の基本的なものは私やSKよりも詳しいはずだ。


「あ、うん。えっと…、まず、私たち3人は一応バランスがとれているって言うか、相性補完が出来ている形なの」

「「 ………。」」

「じゃんけんで言うと、防御特化の"グー"がお姉ちゃんで、攻撃特化のSKお姉ちゃんが"パー"かな」

「ははは、アタシはバカパーか!」

「「 ………。」」

「いや、ちょっとはツッコむとかフォローしてくれよ」

「えっと、私は防御特化だから、防御を貫通する攻撃特化には弱いって事ね」

「 ………。」

「そ、そう。だけどパーは小回りがきかないから、速度特化の私、"チョキ"が苦手」

「だけど、チョキは決定打が無いから防御特化の私が苦手っと…」


 実際には魔法などの要素もあるので三竦みにはなっていないが、今まで3人でやってきた事もあり、PTのバランスはとれている。一応は。


「じゃあ、相手はそんな私たちを"どう攻略するか?"を考えて、それに対して相性のいい"何か"を用意するのが、いいと思う」

「「なるほど…」」


「それで、相手はアタシたち対策に、何を用意してくるんだ?」

「普通に考えたら、エースのSKを潰す"何か"よね。私も含めて、残りは肝心の打点が低いからグダっても何とかなるし」

「そうだね。考えられるのは2つかな? まず、SKお姉ちゃんと同じスタイルでSKお姉ちゃんよりも強い人を用意して封殺する"上位互換戦術"と、的確に有利なタイプを並べる"弱点補完戦術"かな?」

「数で押し切るパターンは?」

「ん~、それはルール的に、無いかな?」

「でしょうね」


 試合は基本的に"ノールール"なのだが、それでも体裁を保つためにセインさんが条件のようなものを提示した。それは『相手の人数に応じてコチラも見合った人数を追加する』と言うもの。具体的には、相手が3人までなら私たち3人で相手をする。3人以上ならスバルさんや、それこそセインさんが参戦するわけだ。


 まぁセインさんが出るってのは、性格的にただの警告だと思うが…、ようは『最低限の節度は守りましょう』と言う事。極端な話、初心者でも1000人が列をなして突進してきたら、私たちの技量や殲滅力ではどうにもならない。


「そうか。まぁ、スバルや、それこそアニキが出てきたら人数のゴリ押しは通じなくなるもんな」

「そういうこと」


 そしてこの条件のキモは、具体的な追加の条件が明記されていない点。セインさんなら『力量にあわせて適切な人員を追加する』とは思うけど、相手からしてみれば『セインさんだけは絶対に参加させたくない』はず。加えて、スバルさんの実力を把握しているなら、そこも加えて回避したがるはずだ。そうなると、最適解はおのずと"少数精鋭"となる。


「まぁ、最初は少数で戦って、ギリギリのところでギャラリーを介入させてトドメだけってのも、考えられるけどね」

「あぁ、それもあるわね」

「ははは、まぁ、そんなの意識していれば何とかなるだろうけどな」


 考えてみれば、射程距離や戦闘状態(システム的に攻撃可能状態のPCは判断できる)の問題があるので、そんな相手が近づいた時点で気がつくし、なんならスバルさんたちに『不用意にリングに近づいた人の相手を任せる』形にしておけば、ルール的にも万事解決だ。




 そんなこんなで、その日は殆ど『試合のおさらい』になってしまったが、改めて色々な話し合いができて、非常に有意義な時が過ごせた。

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