#369(8週目木曜日・夜・セイン)
「そいえば兄ちゃん」
「ん?」
「兄ちゃんはやっぱり、自警団狩り祭りには不参加なのかにゃ?」
夜、いつものように3人で集まり、いつものようにレベル上げに出かける。
「猫、私たちに気を使う必要はありません。さぁ、1人で参加してきてください」
「ちょまっ、押されても、アチシは行かないから!」
「チッ!」
「それ、俺が"行く"って言ったら、どうするんだ?」
「その時は…、陰ながら応援します」
「アチシも~」
「いや、行かないけどさ」
この2人、仲が悪そうに見えて本当に仲が良い。いや、馬が合うと言うべきか? 腐れ縁の幼馴染みのように、悪態をつきながらも息はピッタリ。そんな感じだ。
「でも、大きなことになりそうで、ちょっと心配にゃ」
「ですから、遠慮なく…」
「兄ちゃんが何とかしてくれたら、安心できるのににゃ~。チラチラ」
わざとらしい演技で俺に視線を送るニャン子。
自警団狩りに関しては、前々からC√系の掲示板で上がっていたものの、なかなか成立しなかった企画なのだが…、それがとうとう、本日実現するようだ。これに関わるPCは、言ってしまえば『行き詰まった原因を他者に押し付けている自称達人様』だ。
ハイリスクなイベントなので初心者は殆ど不参加。では、ランカークラスの実力者は参加するのかと聞かれれば、そんなことはなく、無視されているのが現状だ。これはつまり、初心者から中級者の問題であり、俺たちには無関係なのだが…、環境が大きく変われば、L&C全体の雰囲気も変わってくる。
ニャン子が気にしているのはそう言うところなのだろう。まぁ、俺としてもL&C全体の雰囲気は良くなって欲しいところ。BLはBLでC√プレイを否定する問題児だったが…、自警団狩りも自警団狩りで初心者の逆風になるので…、どちらが"正しい"と言うよりは、パワーバランスの問題なのだ。
「まぁ、仕掛ける側は特に隠してもいないし、自警団の対応は容易に予測できる」
「ほむほむ」
「まずは… 」
*
「なぁ、本当に来ると思うか?」
「オフ会ゼロ人でしたってオチなら、それはそれで助かるけどな」
「だな」
場所は、養殖行為にメインで使っているゴブリン村。そこには、自警団のメンバーが集結しており、予告された襲撃を迎え撃つべく待ち構えていた。
『まずあの団長なら、巡回や検問は一時中止して1ヶ所で迎え撃つ作戦にでるはずだ』
『団長は、プライドが高いそうですからね』
「うへぇ~、ホントにいたよ。ザコの癖に群れて、ほんと気色悪いやつらだな」
「いや、今回群れているのは俺たちもなんだが…」
「あの数からしたら、充分少数だろ?」
「まぁ、そうかもな」
そこに現れたのは仮面を装備したPCが4人。言動にはユルさがあるが装備はまさに対人仕様であり、それが本気のカチコミであることを雄弁に語っていた。
「お前たちが掲示板で
「悪いがココから先は一方通行だ。生きて帰れると、思うなよ!」
ゴブリン村は3つのエリアに分かれており、自警団の本隊は"最奥"に控えている。本来、L√PCで構成されている自警団は、いくら相手が敵だと分かっていても、能動的に攻撃することは出来ない。しかし、指名手配判定の定義上、目撃者を生きて返さなければ直接的な問題はない。
『自警団はまず、ある程度対人が出来るやつを集め、ゴブリン村で3重の防衛網を敷くはずだ』
『ゴブリン村に引き込んで、目撃者を逃がさない作戦にゃ?』
「ヘケケ、初心者がイキるなよ!」
「
「はぁ? 頭大丈夫か? 辞書で義賊の意味、調べてどうぞ」
「知るかボケぇ!!」
自称義賊が、立ちふさがる団員を躊躇なく斬りつける。
「ッ! 皆、作戦通り行くぞ!!」
「「応ッ!!」」
「チッ! 逃げんなゴラァ!!」
『まず、自警団は犯罪者になるわけにはいかないから、わざと攻撃を受けて"正当防衛"を成立させて戦う事になる』
『でも、それが適応されるのはPTメンバーまでだから限界があるのにゃ』
『つまり、本命は村の"奥"に引き込んでの遊撃、と…』
『ぶっちゃけ、"最奥"に控えている団長やコロッケは飾りだ。コロッケはともかく、団長は対人戦が出来ないからな』
『ボスが最弱なのがにゃんとも…』
逃げた下っ端団員を追って、自称義賊が森を進む。彼らにしてみれば門番をしていたザコをあえて狙う必要は無いのだが、目的がこの先である以上、道すがら相手をする必要が出てきてしまう。なぜなら、彼らは正当防衛が成立しており、本命との戦闘中に背後から奇襲してくる可能性が高いからだ。
「くそっ! ちょこまか逃げやがって」
「連中、勝てない事を理解して撹乱に徹してきたな」
「仕方ない、これ以上の深追いは時間の無駄だ。せっかく1番乗りしたのに
そう、自称義賊は4人PTだが、呼びかけに賛同したPCはこの程度ではない。現在、検問を襲撃しに行っていたPTや様子見で待機していたPTが突入の第一報を受け、ゴブリン村に集結しつつある。
「よう! 調子はどうだ?」
「ん? なんだ、同士か…」
そこに現れたのは仮面を装備した黒ずくめのペアPT。自称義賊は、一目見て、呼びかけに賛同した同士だと"思った"。
「なんだ、てっきり俺たちが1番ノリだと思っていたのに」
「フライングしていたのは、俺たちだけじゃなかったか」
「ははは、そう言うこった。まぁ、お互い頑張ろう…、や!!」
「しまっ! コイツ、自警団だ!!」
同士を装ったPCの不意打ちを受け、自称義賊が早速1人脱落する。
『村の奥には仮面で顔を隠した"K"たちが待機している。アイツラは対人戦専門だから、充分戦えるだろう』
『不特定多数に参加を募ったアダがでましたね』
『つか、サラッと自警団の秘密部隊の行動を把握しているとか、流石は兄ちゃんにゃ』
「落ち着け、まだ慌てる時間じゃない。まだ、不意打ちが決まっただけ」
「そうだ! 実力や数では俺たちが有利!!」
「じゃあ、俺たちの勝ちだな」
「はぁ?」
「いやだって、実力も数も、俺たちが勝っているから」
「「!?」」
「お前は次に"気をつけろ、囲まれているぞ!"と言う!」
「気をつけろ、囲まれているぞ! はっ!!」
『結構、いい勝負ができそうで、安心したのにゃ』
『アレでも団長はそれなりにキレ者だからな。なにより、問題は勝ち負けではない』
『『??』』
『問題は、落としどころを調整できる
『『あぁ…』』
『まぁ、今は不確定要素も多いから様子見だな。なにより、どちらに味方しても良い未来は見えない』
『ぐしし、流石は兄ちゃんにゃ』
『 ………。』
このあとも自警団狩りは散発的に続いたが、各個撃破する形が出来ていた事もあり、最奥の守りが突破されることはなかった。
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