#368(8週目木曜日・午後・SK)

「どうするって、決まっているだろ? 悪いがその首、貰っていくぜ」

「賞金稼ぎか。ちょうど退屈していたところだから、助かるよ」

「ヒュ~、イキッてるね~。流石は売り出し中のルーキーと言ったところか?」


 アタシがイキッているかは知らないが、取りあえず、対人戦の練習に賞金稼ぎが釣れたのは確かだ。しかし…。


「ところで、仲間はいないのか? それらしいPCは居ないようだけど…」


 廃墟には半壊した石造りの家の跡などが点在しているが、今は開けた場所に居るので、注意していれば奇襲される心配はない。つまり、相手からしてみれば奇襲作戦は使えないわけだ。


 もしかしたら、仲間を待機させている場所があって、そこに誘い込む作戦なのかもしれないが…、いくら練習とは言え、分かっていて罠にハマってやる義理は無い。


「えっと、ど~だったかな~。居たような気もするし、居なかったような気もするな~」

「あっそ。まぁいいや、時間が惜しいから、さっさとヤろうぜ!」

「上等! っと言いたいところだけど…」

「??」

「忘れる前に言っておく」

「ん? 何かあるのか??」

「あるんだよ、今日の夜に! 有志をつのって"自警団狩り祭り"が開かれる。お前もC√で上を目指しているなら自警団には少なからず迷惑しただろ?」


 なんの話かと思えば、実につまらない話だった。


 たぶんコイツは、そこそこの実力者なのだろう。それで、ランキングや魔王を目指していたが、上手くいかず、腹いせにBLを開発した自警団に仕返しをしようと企てた(企てに賛同した)ようだ。


 しかし、BLの有無にかかわらずランキングは実力で順位が決まるし、自警団のKやHもランカー以上の実力があれば返り討ちにできたはず。結局、リスクを承知で博打をして、それで負けたから自警団に八つ当たりしているだけなのだろう。


「いや、全然。そもそもアタシ、ランキングなんて興味ないし」

「さいですか。まぁ、募集掲示板のURLは送っておくから、気が向いたら参加してくれ。それこそ、自信があるならソロで検問を潰しに行ってもいい。時間と同士討ちさえ気をつけてくれれば、あとはフリーのイベントだからさ」

「 ………。」


 すこしソロ攻略には惹かれるものがあったが、やはり参加する気にはなれない。


 話を聞く限りでは、どうやら自警団狩りは、少数精鋭でこっそり行う感じではなく、不特定多数の同志を集めて堂々と攻め込む作戦のようだ。間違いなく指名手配のリスクがあるので、対象は『転生が迫るほど時間を費やしたが、PS的にランキング争いには関われないくらいの実力者』ってところだろうか?


「一応、言っておくが指名手配はそこまで気にしなくてもいいぞ? 自警団は基本的に素人集団だからノーダメキルは可能だし、なにより、襲撃を恐れて検問や養殖を中止してくれるなら、それこそ俺たちの計画通りだからな」


 当然、自警団はこの作戦に気づいているだろう。しかし、作戦の目的は自警団への嫌がらせなので、検問や養殖を中止するなら、指名手配出来ない分仕掛ける側が得なのだ。多分、参加者には頭数を揃える目的のカカシ役もいるのだろう。


「それで、アンタは、そんなつまらない話を、しにきたのか?」


 仕掛けるでもなく、鎌を相手の首に突き出す。


「OK。お喋りは終わりだ。お互い、楽しく殺し合おうじゃない…、か!!」


 ゴング代わりに鎌が弾かれ、甲高い金属音と眩いエフェクトが勝負の開始を告げる。





「なかなかやるな、あの鎌使い」

「あれで初心者なのは凄いと思うが…、だが、ロマン武器、しかも"なかなか"止まりなのは報告通りだ」


 瓦礫に身を隠し、戦いを観察する影が2つ。


「あの賞金稼ぎ、勝てると思うか?」

「そうだなぁ…。まぁ、無理だな」

「やっぱりそうか」

「それでも、実力を引き出すくらいには健闘してくれている。口だけのザコだと思っていたが…、どうやら役に立つザコだったようだ」

「別に、キルしてしまってもかまわないんだけどな」

「それ、負けフラグだから」

「ん? そうなのか??」

「そうなのだよ」


 2人は戦いに介入することなく、女性PCの動きを観察する。


 この2人が戦闘に参加すれば、彼女に勝ち目は無いだろう。しかし、それはしない。彼らが見ているものは"大局の勝利"であり、目先の勝利ではないからだ。


「まぁいいや。この調子なら"アイツ"に任せれば充分勝てるだろう」

「注意すべきは、あの鎌使いとポン刀使いだったが、ポン刀使いが出てこないならアイツで充分勝てる。それよりも問題は"セインが出てくるか"だが…」

「乱入は、無いだろうな」

「だろうな。我が子を千尋の谷に突き落とす獅子みたいなヤツだし」

「ところで…」

「ん?」

「ライオンって草原に住んでるんだろ? そんな深い谷ってあるの??」

「知るか」

「まぁいいや。それはともかく、試合を全面的にプロデュースしておいて見に来ないってのは無いだろうな」

「だろうな」



 結局2人は、戦いを一部始終を観察した後、言葉通り彼女に接触することなく、そそくさとその場を後にした。

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