#367(8週目木曜日・午後・SK)

「さて、このあたりでいいかな…」


 昼過ぎ、アタシはアニキたちと別れ、ソロでシズムンドの荒野の一画にある"廃墟"に来ていた。


「さっそくお出迎えか? 有り難いね~」


 お出迎えと言っても、現れたのは狼系の魔物、ハウンドだ。一応、毛皮が汎用防具の素材になるので金策にもなるが…、今回のお目当ては別にある。




「ん~(攻略サイトの)情報だと、このあたりなんだけどな…」

「ぐへへへ~、そこの女、命が惜しくば有り金を置いていけ!」

「お、待ってました!」

「 ………。」


 嫌らしい笑みを浮かべつつ現れた薄汚い男。女性相手が相手でも、狙いはあくまでお金だけ。どうもコイツはホモのようだ。


 っと言うのは冗談。いかにもって感じの風体だが、そこは全年齢対応なので言葉は選んでくる。そう、コイツはNPC。分類としては魔物と同じ、盗賊型のザコ敵だ。


「お互い不本意だろうけど、対人戦の練習に付き合ってもらうよ!」

「 ………。」


 無言で構える盗賊。残念ながらNPCの会話のレパートリーは多くない。決められた内容以外には、全て無言で返す設定のようだ。




「ん~、やはり、NPCだと勝手が違うな…」


 とりあえず1体倒したところで一旦休憩する。


 今回、盗賊を狩りに来たのは対人戦の練習のためだ。もちろん、人型と言うだけで人ではないので、感覚としては大きめのゴブリンと戦っているのと大差ない。しかし、だからと言ってPKをするわけにもいかず、今回はいくら倒しても問題のない盗賊を選んだわけだ。


「結局、実戦あるのみなんだよな~」


 L&Cは"PKあり"のゲームだが、制約がある関係で普通にプレイしているとギルドなどでの手合わせ以外で対人戦をする機会はない。よって、対人戦の経験を積むのは結構難しかったりする。


「そういえば…、なんだっけ? なんかオープンアクションの格闘ゲームがあるんだよな…」


 タイトルは忘れてしまったが、今、L&Cと同じ戦闘システムを採用した格闘ゲームのテスト版が応募者限定で公開されているらしい。まぁ、同じなのは動きに関する部分だけ。スキルなどの追加要素は別モノなので、話を聞いた時は気にも留めなかったが…、今になって考えると『応募だけでもしておけばよかった』と思ってしまう。多少、細かい部分は違っても、人対人の駆け引きが『好きな時に好きなだけできる』のは魅力的だ。


「おっといけない! 今日は"目標"を果たすまで粘るって決めたんだ!!」


 腰かけていた瓦礫から飛び降り、次のエモノを探す。


 分かっていたことだが、どうにもアタシは気分屋で、集中力が続かない。なにより、それを個性と受け入れて、直そうと努力をしなかった。学校ではそれでもなんとかやってこれたが…、高校、大学、社会、順を追うごとに支障は大きなものとなり、結果は大学中退からの派遣社員で日給生活だ。


 そういえば、小学校の通知表には毎回のように『落ちつきが無い』とか『授業に身が入っていない』などと書かれていた。そして、それから先も先生には同じように思われていたのだろう。


 えっと…、名前が思い出せないけど、先生たち、ごめんなさい!


「ぐへへへ~、そこの女、命が惜しくば有り金を置いていけ!」

「はいはい、ホモなのは分かったから」


 相も変わらず、同じセリフを吐きながら現れる盗賊。


 因みに、お金を渡しても見逃してもらえることはない。単に3つくらいのセリフパターンがランダムで選ばれているだけ。言葉の内容に意味はない。


「そこだ!!」

「しまっ!? たく、なかなかノーダメでは、いかないな…」


 考え事をしながら戦っていると、見事に盗賊のスキル攻撃を貰ってしまった。


 一応、モーションで攻撃は予測できるのだが…、それは本当に短く、何よりコチラも動いているので対応できないタイミングも結構多い。しかし、L&Cは基本的にRPGで、完全回避が必須技能ではない。ある程度は攻撃を受けてもいいようになっており、その上で『出来たら背伸びできますよ』って感じなのだ。


 しかし、対人戦で上を目指すなら、これくらいの相手は完全回避できないと話にならない。その点、NPCの戦闘はモーションが素直であり、パターンも決まっているので、慣れてくればノーダメは全然可能。もちろん、パターンを覚えて脳死で倒しては特訓にはならないが…、『モーションに反応する』特訓はNPC相手でも充分できる。




「ぐはっ!?」

「よし、つぎつぎ」


 ほどなくして、また1体倒し終える。


 正直苦手だが、反復練習も大切で、それにNPCがうってつけなのは事実。すこしずつミスを減らし、レベルや装備の力ではなく、PSで相手を圧倒する。それが出来るようになったら、さらに(戦闘AI的に)強い相手に挑む。


「そこの鎌使い! おまえ、SKだな?」

「ん? だったら、どうするつもりだ??」


 アタシを訪ねる、見ず知らずの男性PCが現れた。


「どうするって、決まっているだろ? 悪いがその首、貰っていくぜ」


 必死でニヤケそうになるのを我慢する。確かにPKは犯罪であり、迷惑行為だが…、挑んできたのを返り討ちにするのは正当防衛だ。例えそれが、故意に狙われやすい状況にあったとしても、だ。




 こうしてアタシは、第2目標のWS狩りのチャンスを得た。

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