#363(8週目水曜日・夜・セイン)
「兄さん、実は私! ずっと言おうと思っていたことがあるんです!!」
「ん? なんだ改まって」
「その、実は…、私、兄さんn…」
「勝負だ!!」
夜、いつものように集まり、これから狩りに出かけようと言うところで、何故かアイに勝負を挑まれた。
「え? 俺と勝負したいのか? 別にいいけど」
「 ………。」
「だから、勝負だ!!」
「 ………。」
アイが無言で振り返る。
「勝う…、ぶはっ!?」
そして無言の張り手がSKの頬に突き刺さる。
えっと、うん。これから狩りに出かけようと言うところで、突然SKが勝負を挑んできた。
「おまたせ~、って、これ、何て修羅場にゃ?」
「いや、俺が聞きたいくらいなんだが…」
遅れてやってきたニャン子も状況を飲み込めていない様子。てっきりニャン子の差し金かと思ったが、どうにもそうでは無かったようだ。
「SK、ナツキたちと狩りに行くんじゃないのか?」
「いや、今日はアイ、さん? と勝負しようと思って」
「え? あ、あぁ~。勝負って、アイにか」
考えてみれば当然と言うか、今まで挑みに来なかった事が不思議なくらいなのだが…、バトルジャンキーのSKが、ついにアイに勝負を挑みに来た。
一応、アイはSKの境遇を知っているので無下にはしないと思うが…、はたしてアイの反応は…。
「 ………。」
無言で立ち尽くすアイ。
分かりにくいが、わりと怒りが天元突破している時の反応だったりする。多分、話を遮られたことを怒っているのだろうが…、よほどタイミングが悪かったのか、はたまた気まぐれか。よくわからないが兎に角、出発は少し遅れることになりそうだ。
「そうだニャン子、狩場は予定通りでいいか? 何かリクエストがあれば…」
「兄ちゃん、この状況で、よく落ち着いていられるのにゃ…」
「ん? 別に、これはアイとSKの問題だろ?」
「いや、うん。兄ちゃん、そういうとこ、致命的に死んでるのにゃ」
「??」
いまいち話が見えないが、SKがアイに勝負を挑むと言うのなら、俺が止める筋合いはない。多少予定は狂うが、逆に言えばそれだけの話だ。
むしろ、アイにはもっと同性同年代との繋がりを作ってほしい。もしかしたら知らないだけで、すでに沢山いるのかもしれないが…、L&Cの事とは別に、兄として妹の社交性を心配していたりする。
まぁ、社交性に関しては俺も死んでるけど。
「はぁ~~、皆、苦労するのにゃ~」
「????」
「 ………。」
「ん~、とりあえず、勝負は受けてくれるってことでOKみたいだな」
「 ………。」
相変わらずノーリアクションで返すアイと、手探りでアイの反応を解読していくSK。
アイの強みは、この"馬耳東風"な戦闘スタイルにある。心理攻撃は仕掛けるだけ無駄。ちょっとしたフェイントも通じない。もちろん、相手は見ているのだが…、なんと言うか、データ主義? 高性能の戦闘プログラムと戦っているような印象を受ける戦い方だ。
「よく分からないが、それじゃ、行くぜ!!」
「 …ッ」
「うぉ!?」
大鎌の一撃を、最小限の動きで弾き返すアイ。
SKからすれば珍しい体験だろうが、アイの持つ斧はSKの鎌より重い。耐久値など、速度面以外は全てアイが勝っているので、必然的に当たり勝つのはアイとなる。
「うわ~、相性最悪だにゃ」
「まぁ、そうだな」
ハッキリ言ってこの戦い、まともにやったらSKに勝ち目は無い。大鎌の利点は、高い攻撃力と独特の軌道であり、速度面は比較的遅い部類の武器なのだ。
対してアイは、速度的に対応可能な攻撃は確実に弾き返してくる。おまけに、斧の攻撃は防具越しでも充分にダメージが通り、当たらなくても武器の耐久値勝負で有利にたてる。
「うおっ!? 全然攻撃が通らねぇ!」
「SK、普通に攻めても攻撃が通らないのは理解できただろ!? それでも勝ちたいなら頭を使え!」
アイに勝つ方法は速度かステータスで圧倒するしかない。それも、技量の余地が入り込む隙の無い圧倒だ。
逆に言えば、そこさえクリアしてしまえば、アイに対応するすべはない。だから相性のいい俺は、やっても一方的な戦いになるので早々に手合わせはしなくなった。
しかし、今のSKにその手は使えない。それではどうするか? 幸い、耐久値の問題はギルドホーム内なのでクリアしている。あとは半端に勝っている速度と、リーチ。そこを活かし、詰め将棋で細い勝ちすじを手繰り寄せるしかない。
「え? あ、応ッ!! やってみるよ"アニキ"」
「!!?」
「あちゃ~。兄ちゃん、やっちまったのにゃ~」
「え??」
「この程度ですか? 兄さんの手前、今まで見逃してきましたが…、これは処罰が必要ですね」
なぜだか完全にブチギレムードのアイ。
雰囲気的にはSKがピンチに見えるが、アイの方は怒りで冷静さを欠いているのか、攻撃が普段よりも強引になっている。これは、SKの機転次第ではワンチャンありそうだ。
「ぐはっ!? 強いってのは聞いていたが…、まさかここまで強いとは…」
「そうですね。では、こうしましょう」
「な、なんだよ」
「私が勝ったら、現在ゲスト登録している(女性)PCを全員解雇します」
「なっ!? え? えぇ??」
アイの謎の宣言に目を白黒させるSK。
多分、ギルドでのやり取りが"お遊び"になっており、修練に身が入っていないと判断したのだろう。実際、そういった一面があるのは事実なので俺も否定はしきれない。
「確かに、アイの言うことも一理あるな…」
「ちょ、兄ちゃん!?」
「ふふふ、決まりですね。では…、手早く終わらせましょうか」
まぁユンユンなんかは特に、なし崩し的にギルドに居つく状態になってしまっている。それならこの機にギルドを割るのもありだろう。
そんなこんなで、ブチギレながらも何処か笑顔のアイが…、攻守交替、SKに仕掛けていく。
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