#362(8週目水曜日・午後・ナツキ)
「とっ! はっ! ふっ!」
「おっとと」
テンポよく息を吐きながら、じわじわとSKを追い詰めていく。
VRゲームの中であっても、呼吸やリズムが重要なのはリアルと変わらない。特にL&Cは、そのあたりメーカーも拘っているらしく、意識して動いているとSPの消費が全然違う。まぁリアルすぎて、学校でも時々構えたり、無意識に無いはずのシステムウインドを呼び出そうとしたりしてしまうのは内緒だ。
「つっ!! まったく、一応、吹っ切れたからココに来たのよね?」
「え? あぁ、うん。まぁ…」
あまり喋りながら戦うのは好きではないが、聞かないわけにもいかないので聞いてみる。
「それなら! セインさんに! 挑まなくちゃ! ダメなんじゃないの?」
「ぐっ! まぁ、その、そうなんだけどさ~」
SKの回答は、歯切れの悪さこそあるが、それでも自分なりに折り合いはついたように見える。しかしそれなら、考えなしにセインさんに突っ込んでいくのが普段の流れだ。それをしないという事は、まだ問題を抱えているか…、あるいは、セインさんに向かい合うこと自体に問題がうまれたかだろう。
「たく、世話が焼けるわね」
「え? どうしたんだ??」
そういって背を向ける私に対して、当たり前の疑問をぶつけてくるSK。しかし、当たり前なのは一般常識からしてであり、これで気が付かないSKは、やはり本調子ではないようだ。
「何って、やるんでしょ? 仕方ないから手伝ってあげるわよ」
「え? あぁ、流石はナツキ!」
そういって2人で、セインさんの後ろに回り込む。SKは良くも悪くも気分屋。気分屋なら、面白い状況を作ってあげるまでだ。
*
「おい! あっちでセインが女性PCに囲まれてるってよ!!」
「はぁ? 死ねばいいのに」
「そうじゃなくて、セインが女性PC3人に襲われてるんだよ」
「よし、加勢しよう」
「え? セインにか??」
「んなわけあるか。俺たちも女の子に加勢して、セインを倒すんだ!!」
有名プレイヤーであるセインが、女性PCと戦っているという噂は瞬く間に広がり、その場は、多くのギャラリーと乱入者でお祭り騒ぎになっていた。
「なんか面白そうだし、俺も混ぜてもらうぜ!!」
「ちょ、なんなんだよお前ら!?」
「これは私たちの戦いだぞ! 関係ないヤツはすっこんでろよ!!」
「知るかそんなん! こんな公の場でバトってる方が悪いんだよ!」
「はははっ。いいよ、こいよ、逝かせてやる!」
状況が混とんとしている理由はもちろん、セインの側についていたナツキが裏切り、3人でセインを襲ったところに始まる。
「うわっ、マジでセインじゃん。つか、アレって妹グループじゃねぇの? なんでセインと戦ってんだ?」
「知らないのかよ? 妹グループはあくまで妹の友達。直接の繋がりは無いんだぜ?」
「いや、だからって戦う理由が無いだろ? 指導とかだったらギルドとか使えって話だし」
「あぁ、アレじゃね? 最近噂になってるセインの偽者! よし、俺たちも加勢しようぜ!」
「はぁ? 嫌だよ、死にたくないし」
「じゃあ、ドロップは頼む! お祭りは見るよりも参加した方が面白いんだ! 半日程度のペナルティーで参加しないのは損だぜ!!」
「ちょま!?」
大半は戦いに参加せず距離を置いて観戦しているが、勢いに任せて飛び込むPCも少なからずいた。
「おい、邪魔だ! 道をあけろ!!」
「はぁ!? お前こそスっこんでろ」
「お喋りしているなんて、余裕だな!」
「「しまっ!?」」
しかし、飛び入り参加者多数の大規模戦闘が、綺麗な形をなすわけもなく、その様相は"大乱闘"と表現するのが相応しい状況となっていた。
「ははは、やっぱりアニキはすげ~や」
「なに笑ってんのよ! ちょ、今、私たちが!?」
「あぁ、もう! もとはと言えば
乱闘は、飛び入り参加者が増えるにつれ、参加者間、更には参加者と女性PCでも剣がぶつかり合う形となっていた。
「あぁ、もう!! 2人とも、とにかく態勢を整えるわよ! 私が背中をカバーするから、隙が出来たらセインさんに仕掛けて!!」
「よし来た! 全員、一刀両断にしてやるぜ!!」
「その前に、アイツに全部、
飛び入り参加者の切れ目を狙い、3人が隙をついて攻撃に参加する。
「まだまだ、踏み込みが甘いぞ! いちいち考えるな! 体で流れを覚えろ!!」
「くっ! どんだけ強いのよ、もう!?」
「ハハッ! 乱闘も面白いもんだな?」
「だから何で、
否定的な意見ばかりを口にするHiだが、その表情は晴れやかであった。
「言っても無駄よ! それより、手を動かしなさい!!」
「あぁ~~、もう! どうにでも、なれ!!」
「おっと、今のはイイ踏み込みだったぞ。その調子!」
「あぁ~。なんだか俺もウズウズしてきた! 俺も参加してくる!!」
「ちょまっ、俺も!!」
現実はなかなか思い通りにはいかないものだ。しかし、それが悪い方向に転がるとは限らない。少なくとも、事が収束した際の当事者の表情は、晴れやかなものだった。
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