#361(8週目水曜日・午後・セイン2)

「おい、そこの2人! 突然だが、勝負だ!!」

「はい!?」

「 ………。」


 ナツキに稽古をつけながらハルバDでレベル上げをしていると、突如現れたPCに勝負を挑まれた。一方的に襲ってこないところを見るとPKではなく(犯罪にはならない)決闘のようだが…。


「えっと…、2人とも、何しているの?」

「何って、言葉通り、決闘を申し込んでいるに決まっているだろ? 他に何に見えるって言うんだよ?」

「いや、だって…」


 挑んできたPCは、赤を基調とした女性PCのペアPT。[道化師の仮面]と[ファントムマスク]で顔こそ隠しているが…、どうみてもHiとSKだ。


「フン! いいから、さっさと勝負するわよ!」

「いや、だからね…。…。」


 何を隠そう、Hiを呼んだのはこの俺だ。別に県太郎たちでも良かったのだが…、つまりは稽古の締めに適当な対戦相手が欲しく、レベル的に丁度良さそうなHi(+α)を呼んだわけだ。


 しかし、てっきり相方はいつもつるんでいるLuあたりだと思っていたが…、蓋をあければまさかのSK。ナツキに限らず、俺も困惑していたりする。


「おい、時間もアレだから。とりあえず始めないか?」

「ハハハ、流石はアニキ、話が早いぜ」

「お前、隠す気あるのか?」

「あっ」


 ファントムマスクの女性PCが慌てて視線を逸らす。先ほどから強引に話を進めようとしているが、どうやら何か考えがあっての事のようだ。


「はぁ~、仕方ないわね。流石に1対2はキツいけど…」

「何言ってんだ? 2対2だろ??」

「「はぁ?」」


 思わずナツキと声がハモル。どうやら、決闘には俺も含まれているようだ。


 今回Hiを呼んだのは、県太郎たちよりもPS的に適切だと思ったのもあるが…、もともと頼み事をしていた流れもあっての事だ。金策勝負の一件は、確かにMMOでは"よくある話"だが、それでギルドやPTが簡単にバラバラになってしまうのもよくある話。


 まぁ、ナツキたちなら大丈夫だとは思うが…、女性の機微に関しては、男の俺が変に口を挟んでも拗れるだけ。やはり、女性に頼むのが1番だろうと言う事で、あえてSKから少し離れたポジションの女性を中心に声をかけた。そんな中で、Hiには敵の立場からナツキたちのフォローをメインに頼んだわけだ。


「フン! サッサと構えなさいよね。それともなに? 天下のセイン様が逃げるっていうの!?」

「いや、まぁ、いいけど…」


 SKとHiが俺に剣を向ける。戦う事は全くかまわないのだが、今回の趣旨を2人は本当に理解しているのだろうか?


 ともあれ、Hiは口こそ悪いが、あれで意外に仲間思いと言うか、敵ながら粋なところがある。加えて、いくらSKがナツキたちと意気投合していると言っても、親しい相手だからこそ出来ない話も世には存在する。そういった場合、ユンユンとか、それこそ敵の立場の相手の方が逆に話しやすかったりするものだ。




 試合開始と言っていいのか…、お互い睨みあい、立ち位置に微調整が繰り返される。Hi、特にSKは、そこまで細かく位置取りを気にするスタイルではないが、相手が俺と言う事もあり、流石に大胆に踏み込んではこられないようだ。


「来ないなら、こちらから行くぞ?」

「「 ………。」」

「そうか」


 それだけ言って、まずは遠距離攻撃を持っているHiに詰め寄る。


 本来なら実力的に、ナツキにはHiを任せるべきなのだろうが…、今回はあえてSKが相手になるよう仕向ける。まぁ、勝ち負けに意味は無いので、誰が相手でもいいのだが…、それより、今のSKは『戦うに値しない』気がしたと言うのもあったりする。


「まったく、何がしたいのかは、もう聞かないけど…、まだ、本調子じゃない、みたい、ね!!」

「おっとと。ははは、面目ない」


 気分屋のSKは、相変わらずエンジンのかかりが悪い様子。相手がナツキなのも大きいと思うが、ひとまずはナツキが押し気味の状態のようだ。


「悪いな、内輪のゴタゴタに巻き込んで」

「ふん! そんなこと言うくらいなら、はじめから頼むんじゃないわよ!!」


 SKたちに聞こえないように、小声でHiに感謝を伝える。


 相変わらず言葉にトゲはあるが、何だかんだ言っても付き合ってくれている。最近、例の商人の件で何度かやり取りをする中で、本性と言うか…、どうも口ぶりとは裏腹に、頼られるのが好きなタイプなのだと、分かってきた。


「よし、折角だ、全力でかかってこい!」

「はぁ!? 私はすでに…」

「魔法より、短剣の扱いを覚えたいんだろ?」

「ふん! やっぱりアンタ、嫌い!!」

「はははっ」


 言葉とは裏腹に、楽しそうに短剣を振るうHi。態度は素っ気ないのに、実は人懐っこいところは、どこぞのニャン子エセ猫より、よっぽど猫っぽくて面白い。




 こうして、突然の決闘は徐々に盛り上がりを増していった。

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