#359(8週目水曜日・午後・SK)
「 …で、ここはコレでOKね」
「あぁ、なるほど」
「 ………。」
「あ、SKちゃん、おはよ~」
昼過ぎ、コソコソとホームの様子を窺いつつもギルドに顔を出す。
「あ、ご主人様なら狩りに出かけちゃいましたけど…」
「わぁ! いいから、アニキは呼ばなくて!!」
「合わせる顔が無いって顔ね。でも、(ギルドに)来てくれて安心したわ~」
「べ、別に、怒られることは分かっていたことだし…」
言われた通り、アタシはアニキに合わせる顔が無く、何となく皆を避けていた。ともあれ、アタシだってソレじゃダメなことは理解している。そんなわけで…、とりあえず、大抵ギルドホームに残っているユンユンさんに軽く挨拶しに来たわけだ。
「でも、まだ完全に整理がついていない感じですね。焦る必要はないと思うので…、今はゆっくりしてみるのも、いいんじゃないですか?」
「あ、あぁ、まぁ、そうさせてもらうよ」
なにかの使い方を聞いていたのか、スバルが居たのは意外だが、まぁ…、いいか?
本当はいつも通り、昼に顔を出すつもりだったのだが…、恥ずかしい事に、踏ん切りがつかずにログイン画面と1時間も睨めっこしてしまった。
「「 ………。」」
微妙な沈黙が流れる。
正直なところ、この組み合わせは始めてで、何を喋っていいか、全く分からない。でも、下手にナツキとかいても…、それはそれでダメな気がする。
「あ、そういえば、SKちゃんって、モニター試験でL&Cをプレイしているのよね?」
「あ、あぁ。おかげで、休むこともできないんだけどな」
「「あぁ…、なるほど」」
何が"なるほど"なのかは知らないが、私は治療のためにVRを使った最新のリハビリをやっている。一応、毎日健康状態をチェックしてログイン可能か診断しているが、逆に言えば『問題がない』と強制でログインしなくてはならない。
まぁ、診断にはメンタルも加味されるので、休んだり、別のゲームをプレイしたりも出来るのだが…、それをやってしまうと、なんだかそれっきりL&Cを再開できなくなりそうで…。
まぁ、自分自身上手く説明できないけど、とにかく今は、頭の中がグチャグチャで、グチャグチャなりに、何となく年上のユンユンさんと話してみたくなったわけだ。
「やっぱりVRマシーンって特別だったりするの?」
「え? あぁ、うん、多分」
「あ、これ全然知らないやつだ」
「ははは~、気になるなら今からでも聞いてみるけど?」
「あぁ、モニタリングしているから、今も近くにお医者さんがいるんだ」
「ん~、居たり居なかったりだけど、今は居ないな」
VRマシンは、安全のために『ログイン中はカメラで室内の状況を確認できる』ようになっている。もしかしたらカメラの視界外(トイレとか)に居るかもしれないが、今、見える範囲に人はいない。
「それもそうよね。何時間もモニターの前で待機してるのもアレだし」
「普通は、ナースルームですか? そういう所で待機しているものなんじゃないでしょうか?」
「あぁ~、隣で書類とか纏めてる事も多いかな? 一応、データは機密らしいし」
「「あぁ~」」
話し始めてしまえば、意外に口が回るもので、ついでに気分も結構紛れてしまう。聞く話だと男はそうではないようで…、そういう部分は私も『女なんだなぁ~』と実感してしまう。
まぁ、同年代、特にクラスメートと恋愛だのファッションだのの話をするのは、苦手なんだけど…。
「 …。それで、スバルはアニキに怒られたりするのか?」
場も温まったところで、勢いに任せてスバルに突っ込んだことを聞いてみる。お喋りで変な駆け引きをしている自分が嫌になるが…、まぁ、今回はアタシも、どうかしているので許してほしい。
「ん~、そうですね…。むしろご主人様は、なかなか叱ってくれないので、ちょっと寂しいくらいですね。ボクとしては、ご主人様がちゃんと本人のことを思って叱れる人だって理解しているので、もっと叱ってほしいくらいなんですけど…」
「あぁ、まぁそうだよな。アニキって、サバサバしているけど意外に面倒見いいし、見込みがない相手は、気にもかけないもんな…」
「あ…」
「ん? どうかしたか??」
「いえいえ! 何でもないです!!」
「「??」」
突然、オーバーなリアクションで何かを否定するスバル。何か口を滑らせたような雰囲気だけど…、とくに変なことは、言っていなかったと思う。多分。
「それにしても、スバル君って、ちょっと"M"なところあるよね」
「え? そんなことないですよ。そんな風に見えますか??」
「ん~、まぁ、言われてみればソッチ系だな」
「えぇ~、ボクなんて全然。業界の人が聞いたら怒られちゃいますよ~」
「でも、業界ネタは知ってるんだ」
「??」
よくわからないが、世間の認知と、実際の住み分けが違うのはよくある事。少なくともスバルの分類では
「まぁでも分かるかも。お兄ちゃんって、イジワルで協調性ないけど…、何だかんだ言っても世話焼きなところがあって、お父さんっぽいって言うか、厳しいけど、どこかで見ていてくれるっていうか…、安心? なんかそういうトコあるよね~」
「そうです! むしろ、ボクからしてみれば、無責任に異性に優しくする人は、単なるフェミニスト。相手のためとかではなく、自分のためにイイカッコしているだけなんです!!」
相変わらずアニキの事になると熱くなるスバル。
正直ちょっとアレだけど…、確かにアニキは第一印象と、実際の印象が全然違うから、こうなるのは理解できてしまう。むしろアタシたちは皆、他の人から見れば、少なからずこんな感じ、なんだと思う。
「確かにアニキって、裏でコソコソやってる印象あるけど…、何だかんだ言っても、アタシたちのためにやってくれているって、なんか安心感があるよな?」
「ですね~」
「あ…」
「「??」」
そこまで言って、ようやく気付いた。
これは分かっていたことだが…、アニキは金策勝負の話を、アタシたちのために企画してくれた。しかし、アタシはそれをタダのイベントのようにとらえ、自分らしく正々堂々、行き当たりばったりにぶつかり…、結果として何も得ずに終わってしまった。
それに対してアタシは『怒られればいいや』と安易に考えて、結果、怒るでも宿題を課せられるわけでも無く、ただ失望させてしまった。アニキは、見込みのある者や、使える者には気を掛けるが、そうでない相手には一切気をかけない。
そう、怒れるのと失望されるのでは意味が全く違ってくる。アタシはバカなりに雰囲気の違いを感じ取り、無意識にショックを受けていたのだ。
今回のは、完全なるアタシの空回り。自分のバカさ加減は理解していたつもりだが…、まさかここまでとは。
「よっし!!」
「「??」」
「ちょっと一っ走り行ってくる!!」
「え? ちょ、どうしたの??」
勢いに任せてホームを飛び出し、行く当てもなくフィールドを駆ける。
我ながら情けない限りだが、なんとか早いうちに気づけて、本当に良かったと思う。
思っている以上に、アニキの存在が大きくなっている事を実感しつつも、アタシはガムシャラに走った。
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