#349(8週目月曜日・夜・ナツキ)

「え!? それで半日、棒に振ったの??」

「ん? まぁ、レベルは上げてたけどな~」

「呆れた…」

「まぁまぁ、お姉ちゃん」


 夜、いつものように3人で集り…、SKからレアアイテム勝負の話を聞いた。


 しかし勝負はいいとして、問題なのはSK。SKはなんと、私たちに気を使って昼間はあえて金銭効率の悪い狩りをしていたのだ。らしいと言えばらしいけど…、流石にそれは勝負所を間違えていると言わざるを得ないだろう。


「SK。アナタのそういうフェアなところ、私は嫌いじゃないけど…、いさぎよさばかりで、正直不安よ」

「??」

「悪あがきって言うか…、"信念"って結局自分のためって事でしょ?」

「ん? まぁ、そうかもな」


 いまいち理解していない表情のSK。


 私も上手く説明できないが、SKは、1つ1つは確りしているけど、行き当たりばったりで、大きな目標を成し遂げる力が無い。そもそも漠然とした欲求を満たすためだけに動いている感じだ。


 なんと言うか、そういう部分はセインさんとは真逆なんだよね…。


「ねぇお姉ちゃんたち、話もいいけど、時間、いいの?」

「あぁ、そうだったわね」

「そうだ! 早く稼ぎにいこうぜ!!」

「それで、SKは狩場の目星、つけているの?」

「いや、全然」

「「ですよね~」」


 思わず溜め息が漏れる。


 SKは戦闘面、特に窮地では頼りになるけど、他は全くと言っていいほどアテにならない。まぁ、下手に口を挟んでこないので、割り切ってしまえば逆にやりやすくもある。


「ん~。時間的には、やっぱりレアの1点狙いかな? 問題は…」

「セインさんが何を持ってくるかよね」

「そうなのよね…」


 すぐに出発したい気持ちもあるが、目標金額だけは決めておかないと行き先も決められない。つまり、ボーダーが"いくら"になるかだ。


①、セインさんが高額レアの1点狙いだった場合。これはもう運次第。ただし、狙いのレアが手に入らなかった場合は一気にハードルが下がる。この場合、私たちは無茶をしないで手堅く稼ぐのが正解だ。


②、逆に手堅く安定重視の金策だった場合。こうなると、ある程度一か八かの賭けに出る必要がでてくる。なにせ相手はトッププレイヤー。普通に素材を集めただけでも『最高ランクの素材』となってしまう。


「コノハはどのくらいだと思う? ボーダーライン」

「ん~。1日だけだから勝算はあるけど、どうだろう…。キリよく1M(100万)とか?」


 ただし、全く勝機が無いわけでもない。私たちは、手堅く素材系を集めて露店で高額レアと交換する手が使えるのに対して…、セインさんはハンデとして、ドロップしたアイテム1点での勝負となる。短期間で高額レアを狙うならボス狩りだろうが、ボスのコモンドロップは捨て値で取引されることも多く、運が悪いと目も当てられない結果となる。


 私だったら…、昼間は安定してドロップする特殊素材(数百k)を狙い、夜になったらボスでハードルを上げていくだろう。しかし、そうなるとSKの拘りのせいで半日棒に振った私たちに残された選択肢は少ない。


①、全員で素材を集めて、3人で1つのレアを用意する。


②、3人での連携は諦め、後腐れなくレア運の勝負をする。


「あ、そういえば…」

「「ん??」」

「いや、手持ちのレアを出してもいいなら、それこそ今の装備を提出してもいいんだよね?」

「まぁ、そうなるわね」

「ん~、それってズルくないか? まぁ、アタシはパスかな…」


③、手持ちのレアを提出してお茶を濁す。単品なのが難点だが、それならボーダーが1Mでも、なんとかクリアできるだろう。


「よし! それじゃあ1M以上のレア1点狙いでいいわね!!」

「さんせ~」

「うん、いいんじゃないかな?」

「あぁ…」

「どうしたの? お姉ちゃん」

「いや、ゴブリン村って、どうなったのかなって」

「あぁ…」

「??」


 SKがキョトンとした顔をする。


 私たち姉妹が1Mと聞くと、真っ先に思い出すのが[ゴブリンの魔結晶]だ。自警団のメインの養殖場であるゴブリン村のレアで、対人特攻と言う事もあり安定した高値で取引されている。


「詳しくは知らないけど、まだやっているらしいよ。養殖」

「でしょうね…」

「「 ………。」」

「??」


 別に、今さら自警団他人の考えをどうこう言う気はないけど…、やはりセインさんの影響もあって、L&Cをゲームと割り切って、ゲーム的に攻略する考えとは相いれない。それは私だって『簡単にレベルや装備が揃ったら…』なんて思うことはあるけど、コノハ曰く『チートは楽しいけど、すぐに飽きて投げ出すことになるよ』だそうだ。


 自警団で養殖に参加した人が、どれくらいの割合で活動を続けているのかは知らないけど…、少なくとも私なら、そこに面白さは見いだせなくなっていると思う。


 もし、セインさんと出会えていなければ…。もし、自警団を続けていたら…。たらればを言っても仕方ないが、多分"たられば"の私は、つまらない人間になっていたと…、違うな。つまらない人間のままだったと思う。




 そんな事を考えつつも、私たちは1点狙いの金策へと出かけ…、見事に爆死した。

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