#350(8週目月曜日・夜・セイン)

「猫、遊んでいる暇はありません。すぐに次を釣ってくるのです!」

「アイにゃんは猫使いが荒いのにゃ~」


 夜、俺たちは旧都の地下迷宮に来ていた。


「あまり抱えすぎても処理しきれないから、ほどほどでいいんだが…」

「そうはいきません!!」


 珍しく食って掛かるアイ。


 余談だが、この場所は当時の権力者が地下に作ったカジノだという説がある。普通に考えれば、魔法関係の秘密研究所だと思うのだが…、L&Cのシナリオは、こういった不確定な部分が多いのも特徴となっている。


「ん? なんだ[骨のサイコロ]か。これはスルーっと」

「兄さん、サイコロは確かに使い道のない売却専用アイテムですが、その分軽いので拾えば収入になります。手間を惜しまず…。…。」


 普段なら無視する雑多なアイテムもマメに拾うアイ。


 こうなったのは全てニャン子のせいだ…。


「ぎにゃ~。早く助けてにゃ~」

「「 ………。」」

「にゃ~ん。可愛い可愛い猫ちゃんが、わりと瀕死なのにゃ~」

「あ、あぁ、今助ける」

「早くするのにゃ~」


 つまりはニャン子が勝負の話をアイにしてしまったのだ。『それくらい…』と思うかもしれないが、アイは俺と同じPTで、必然的に全てのドロップがアイの懐を通過する。これが何を意味するかと言えば…。


「兄さん」

「はい」

「先ほど、なにか拾いましたよね?」

「あぁ…、魔結晶だな。これくらい軽いから俺が…」

「いえ。ドロップは商人である私が! "全て"預かりますので」

「あ、はい」


 俺がどんなレアを拾っても、全てアイの成果に変換されてしまう。これでは公平もへったくれもない。完全に企画倒れだ。


「ニャン子」

「ぜぇ~、ぜぇ~。はい?」

「ちょっと死んで来い」

「はいぃぃ!??」


 別にアイを勝たせるのがダメというわけではないのだが…、今回の勝負はあくまでナツキたちのための企画であり『金策の大切さを教える』ことにある。よって、ハードルを下げ過ぎて、ただのご褒美企画になってしまうのは看過できない。


「ん?」

「どうかしましたか? 兄さん」

「いや…。なんでもない」

「はぁ…」


 とりあえず、アイには思いついたことは言わないでおく。


 アイは基本的に優秀で頼りになるのだが、ときどき妙なところで視野が狭くなる時がある。今回、ココに来たのは金策であり、狙いはエターナルワーカーなのだが…、考えてみればドロップの[囚われた魂]は"俺の"コネで勇者同盟に売っている。もちろん、店売りすればそこそこの値で売れるだろうが、昼にログインできないアイには、どう考えても換金が間に合わない。


 まぁ、間接的に勝負の話を聞いたので、そのあたりのルールを詳しく理解していないのだと思うが…、詰めが甘いと言うか、確認不足は否めないだろう。


「ぜ~、ぜ~。疲れたから、ちょっと休まないかにゃ」

「「 ………。」」

「猫、手が止まっていますよ」

「うぅ、ここは強制労働施設なのにゃ…」


 しかし、それならニャン子が気づいても良さそうなものだ。実は、ちゃんと売却するアテがあるのか、あるいは日頃の仕返しにあえて黙っているのか…。


 いや、違うな。目的は『俺の足止め』の方だろう。


 推測するに、2人は、昼間『俺が手堅い金策をしていた』と思っているのだろう。だから夜、ボス狩りなどに行けないよう、地下迷宮に縛ったのだ。ドロップの問題も、俺がアイの我が儘を受け入れたから成立しているだけで、俺が無効だと言えば無効に出来てしまう。


「よし、休憩がてら奥の個室へ行ってみるか。なにか面白いドロップが拾えるかも」

「「 ………。」」

「まぁ、そのくらいなら」

「アチシは全然OKにゃ~」


 表情を見るかぎりは"アタリ"だろう。


 地下迷宮には特殊な仕様があり、本来ならダンジョンの個室のような場所は魔物が溜まる現象、モンスターハウスが起きやすくなるのだが、地下迷宮の奥にある個室は時間帯によって沸き数などが変化する。


 今はちょうどザコが湧かない時間であり、必然的に特殊個体のみが出現する状態となっている。


「あ! リーダー見っけだにゃ!!」

「幸先がいいな。まぁ、今まで合わなかったのだから可能性としては充分あるだろうけど」


 現れたのは"エターナルワーカーリーダー"(通称リーダー)。一応、上位種って事になっているが、レッドパンツやハウンドのような劇的な強化はなく、感覚としては差分やユニークに近い。


「HP型ですね。私が前に出ます」

「あぁ、まかせた」


 リーダーは、レッドパンツのように同一個体でありながら幾つかのパターンに分かれ、ドロップも変化する。今回現れたのは体力特化タイプで、外見は『太ったワーカー』だ。


 アイが前に出て、淡々と攻撃を捌き、隙を見て俺が攻撃、ニャン子は状況を見ながら臨機応変に対応していく。


「にしし、ソロだとリーダーは全然怖くないのにゃ~」


 余裕を見せるニャン子。


 それもそのはず、リーダーは完全な上位個体では無いので特化した代償なのか、それぞれ分かりやすい弱点が存在する。体力型なら、HPと攻撃力が高いかわりに、速度とSPが低いので…、動きを見きれるなら、むしろ快適に戦えるくらいだ。ともあれ、特殊スキルもあるので油断は禁物なのだが…。


「ん~~~っ!!」


 奇声とともにリーダーが両手をかかげ、祈るような専用モーションをとる。


「下がれ!」

「はい!」「にゃんにゃん!」


 モーションに入ったところで全力で距離をとる。


 このスキルは通称『カースジャッジメント』と呼ばれるスキルで、周囲に闇属性のランダムダメージを撒き散らす凶悪な技だ。しかも、ダメージは体力が減れば減るほど最大ダメージが出やすくなるオマケつき。


「よし! 今だ!!」

「はい!」「にゃにゃん!!」


 しかし、初見殺しと言うべきか、知っていれば対処は容易。幸いなことに射程は短く、使用後にSPを使い切って行動不能になるので、あとはボーナスタイムだ。


 ともあれ、本来なら転生後に対峙すべき魔物なので、根本的な火力不足は、どうしても出てしまう。


「マズい、土下座モーションにゃ!」

「ノーかn! …!」


 そして、体力型はもう一つ特殊スキルを持っている。それがこの、伏せるポーズから繰り出される超回復スキルだ。長めの詠唱はあるが、キャンセル不可で、終わると1回だけ体力が全回復してしまう反則じみたスキルだ。


「あくまで回復するだけだ、殴り続けろ!」

「はい!」「にゃん!!」


 ともあれ、回復は面倒なだけで、単体相手なら特に問題は無い。




 結局、俺たちが単体相手にヘマをするわけもなく、体力型のリーダーは時間こそかかったが、無事撃破できた。


「あぁ、そういえば…」

「ん?」

「風の噂で、リーダーは条件を満たすとドロップにボーナスがつくって話を聞いたことがあるのにゃ」

「あぁ、そういえばそんな話、ありましたね…」


 実は、リーダーにはシークレットドロップが存在する。俗に"ジャックポットドロップ"と呼ばれるシステムで、条件を満たすと放置される期間に応じてドロップにボーナスが発生する。本来ならミミックやジュエルタートルの特殊スキルだが…、条件は厳しいものの、リーダーもこのグループに属しているのだ。


「ん? あぁ、コレのことだろ??」

「「あぁぁ!!」」


 このシステムは、頻繁に狩られる状況では恩恵はうけられないので、都市伝説のような扱いになっているが…、ナンバリングがリセットされた今は、存在を確認するチャンスとなっている。


 ぶっちゃけた話、俺も半信半疑だったが…、たまたま思い出したので挑戦してみたらこの結果だ。何事もゴネ得、じゃなかった、挑戦してみるものだ。




 こうして、俺は1つの都市伝説を解明しつつ、換金アイテムの[古代の通貨]を手に入れた。

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