#348(8週目月曜日・午後・セイン2)
「それで、実際のところアイツラはどうだった?」
「どうって、何の話よ…」
夕方、軽くボス狩りをした後、俺は酒場でユランに会っていた。
「道化師だよ。もう、合同練習とかしてるんだろ?」
「そんなの言えるわけないじゃない。アナタは私の敵。敵のアンタに教える義理は無いわね!」
それなら何故会いに来たのか、とは思ったが口には出さないでおく。
「別に、俺はどちらの味方でもないんだがな…」
「どうだか」
「試合と準備が進んでいるならそれでいいがな」
「その、どういうつもりなのよ?」
「どうって、何の話だ?」
酒場の個室で、男女が距離をあけて話す。傍から見れば"別れ話"にでも見えるのだろうか?
「資金援助の話よ。なんでアナタがわざわざ再戦に必要な資金を出すのよ?」
「それはすでに説明しただろ? 不可抗力とは言え、勇者同盟がお前たちの戦いに水を差してしまったから…」
「そのワビって! そんなんで納得できるわけないじゃない!!」
「そうか? 俺としては
実際、ナツキは順調に腕をあげているし、コノハは特色を生かして上手く立ち回っている。SKは…、もう少しかかりそうだが、試合までには何とか形にするつもりだ。
「ふん! 来てやったわよ。感謝しなさい!!」
「あぁ、無理言って悪かったな」
「はぁ!? なに簡単に謝ってるのよ。やめてよね、気持ち悪い!!」
「どうしろって言うんだよ…」
「え? なんで…」
遅れてやって来たHiを見て、ユランが面白いように驚く。
「もしかして、私が来ること言ってなかったの?」
「あぁ、わざとうっかり言い忘れてしまった。すまない」
「それ、うっかりって言わないから…」
「ちょっと! なんでアナタたちがツルんでいるのよ!? まさかアンタたち、最初からグルだったんじゃ!?」
八百長を疑うユラン。気持ちは分からなくもないが、組織間の摩擦は、ガキの喧嘩と違って『絶交しているから口聞かない』では通らない。
「ちょ!? 変な事言わないでよね! 私だって会いたくて会いに来たわけじゃないんだから、勘違いしないでよね!!」
「まぁ落ち着け。試合の段取りもあるから来てもらっただけだ。しかし…」
そういってHiに視線を送る。本来、この手の調整はSiや代理の商人が行うものなのだが、Hiが来たのは俺も予想外だった。
「別に、誰だっていいじゃない! その、ちょっとメンバーで揉めているだけよ」
「まぁ、そうだろうな」
「??」
試合の段取りは鬼畜道化師と俺が代理でおこなっているのだが…、肝心の日取りが決まらない状態だったりする。
「その調子だと、まだ"助っ人"は決まらないようだな」
「その…、悪かったわね!」
「別に責めてはいない。はじめからこうなる事は予想していた」
「ふん!」
「え? なんの話よ? 説明してよね」
俺は再戦にあたって、必要な資金を援助した。したのだが…、先のセクシーメイトとの戦いで、ナツキたちが元ランカーの花中島を倒したことにより、道化師幹部だけでは敵わない事が発覚した。
まぁ、倒したと言っても、悪い言い方をしてしまえば
結果として一度は纏まった試合の話は、EDの圧力により再調整する形になったわけだ。
「なに、参加選手が豪華になるって話だ。それも追加料金なしでな」
「ちょっと、大丈夫なの? 強い人が参加してくれるのは助かるけど、グダったあげく仲間割れとか、私はゴメンよ」
「ほんと、いい迷惑よ、アイツラ…」
「??」
EDが無理を言えば幹部のファイトマネーは"無し"に出来るだろう。それで浮いた金を使ってランカーを雇えば、本来ユラン側の勝利は確実だった。
しかし、下位のランカー1人では足りないとなると、話は一気に難しくなる。ただでさえ"デスペナ有り"の試合となれば参加報酬は桁外れ。その金を用意できたとしても、転生前の追い込みの時期にランカーが簡単に承諾するとは思えない。特に今のEDは、おいそれと名前を出せないので使えるコネにも限界がある。
ぶっちゃけた話、確実を望むならED本人が参加しないといけない状況なのだ。せめて、県太郎たち二軍を手元に残していたのなら話も変わってきただろうが…。
「まぁ、この調子だと、試合はイベントの前後ってところだな」
「はぁ~。できれば、早めに終わらせたいんだけどね…。こうしているだけでも、商人の私からしたら損失だし」
「ふん! もとはアナタの蒔いた種じゃない。他人事みたいに」
「ぐっ、それはまぁ…」
事の発端は些細な野心。俺にコネを作ろうと、ユランがナツキたちに接触したのが始まりで…、言ってしまえばここまで話が大きくなったのは『運が悪かった』からにすぎない。
しかし、だからと言って『はい、そうですか』で済ませてやるほど俺はお人好しではない。むしろ…、最大限利用させてもらう。悪いが俺は、そういう性格なのだ。
ED、そして勇者同盟の各派閥。このまま疑心暗鬼を加速させ、表舞台に引きずり出す。L&Cはフェアなゲームであり、特定の組織が全てを支配する構図にはなってほしくない。
それにはまず…。
結局、話し合いは予想通り、何も決まられないまま終わった。
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