#347(8週目月曜日・午後・スバル)

「おっまたせ~」

「お、ホントにメイド服だ」

「よく見れば細部に拘りを感じます。これは一部のマニアにウケがよさそうですな~」


 ぞろぞろと集まってくる女性PCたち。今のところは5人だが、はたして…。


「それで、ボクの正体を知った上で襲ってくると言うことは、そういう事でいいんですね?」

「ん? 思わせぶりなセリフだな。意味は分からんけど」

「ばっか、セインと敵対するぞって脅してるんだろ?」

「いや、それは無いだろ? セインがPK歓迎なのは調査済み。身内がやられたからって"お礼参り"するとは考えにくいし、何より俺、じゃなかった私たち、L√だからね」


 ご主人様のことでは無いのだが…、まぁいいや。


 どうやら5人はPK、正確に言えば"賞金稼ぎ"のようだ。意味的にはWSと似ているが、彼らの場合はフリー参加、賞金目的で名乗りを上げた、第三者の立場の刺客だ。


 因みにL√がどうのと言うのは、彼らが非犯罪者であり、普段はL√PCの多いエリアで活動しているという意味だ。その場合、C√PCとして顔の知れたPCがPKしようと近づこうものなら…、周囲のL√PCに袋叩きにされてしまう。


「まぁいいです。先を急いでいるので、早く始めましょう」

「ヒュ~。5人に囲まれても余裕だね~」


 ボク以上に余裕を見せる賞金稼ぎの5人。しかし、ステータスやスキル構成は分からなくとも、足運びや構えを見れば大よその実力は判断できる。


「さて、それじゃあそろそろ…」

「「いきますか」」


 そういって3人でボクを取り囲み、残りの2人が少し離れて待機する。


 どうやら3方から同時に攻め、残りの2人はそのカバーにまわる作戦のようだ。


「 ………。」

「お、居合の構えか? かっちょい~」

「イキッて刀なんか使って、それでどうやってこの状況を回避するって言うんだ?」


 意識を極限まで集中させる。しかし、集中と言っても意識を集束させるわけではない。むしろ"拡散"。極限まで意識を全体に均一に広げていく。攻撃かえしや回避は考える必要はない。そもそも、考えて体を動かしていては間に合わない。普段から鍛練がつめているなら、あとは体に任せるだけ。


 刀と言う剣は、余計なことをすればするほど曇っていく。そういうものなのだ。


「へっ! 背中が隙だらけだぜ!!」

「行くぞ!!」

「「破ッ!!」」


 ゆっくりと閃光が流れていく。その1つがボクの髪先を、1つが袖口を、1つがスカートを切り裂く。


「あまり、大きい事は言わない方がいいですよ? 軽く見られますから」

「はぁ!? 避けられたからって調子にのってんじゃねぇぞ!」

「へっ。お前は知らないだろうが、すでにお前のビルドはWSに晒されているんだ。軽量装備のおかげでなんとか避けれているようだが…」

「まぁ、そのレベルとスキルで、俺たちを倒すのは不可能だな」

「?? そうですか…」


 一瞬、本当に言っている意味が分からなかった。


 しかし、データ主義、特にL√系のPCには相性やステータスの差を絶対視するプレイヤーは多い。


 ボクは使っていないが、聞くところによると対戦データを元に相手のスキルやステータスを解析するツールがあるそうだ。それには解析機能だけでなく、条件を指定して入力した行動が可能か判別する機能もあるとか。


 そういったモノが便利なのは認めよう。NPCである魔物相手に有効なのも認めよう。しかし、それを対人に持ち出すのは、悪いが否定させてもらう。他のゲームでは知らないが、オープンアクションのL&Cでそれが通用するわけがない。なにせ、移動速度1つとっても足運びしだいで速度は無段階に変化するのだから。


「そうなんだよ」

「お喋りも飽きてきたぜ。そろそろ終わりにしようや」

「そうだな。それじゃ、まぐれ回避がどこまで続くか、見せて…、のあっ!!?」

「隙と言うのは、こういうものを言うんですよ?」


 1人が視界を切った瞬間の隙を突き、指を切り落とす。


 人が操るアバターは人ならではの隙が、どうしても生まれてしまう。さっきの場合なら(癖なのか決めポーズなのかは知らないが)斜め下を向きながら指を突き出すような動作をしようとした。


 ボクがついたのはその隙。それは視界的ものではなく、意志の隙。本人は見ている、注意していると思っているものの、実際には出来ていない。それが本当の"隙"だ。よって、視界外の背後からの攻撃も、注意が切れていなければ隙とは言えない。


「はぁ!? ざっけんな! まぐれで局所破壊決めたからって調子こいてんじゃね~っての。こっちはまだまだHPよゆ~だし!!」


 体力の余裕はあっても、気持ちの余裕はないようだ。


「熱くなるな! ここは俺が代わるから、後ろに下がって回復しろ!!」

「お、おう…」

「ほら、せっかく数的有利だ! 絶え間なく攻撃してSPを削っていくぞ!!」

「「応ッ!!」」


 はじめからそうしていれば? とは言わない。すでに実力で勝っているので、あとは粛々と捌いていくだけ。それは最初から分かっていた事なのだ。ボクの目からは『無謀な挑戦』に見えたが、彼らにとっては逆の状態だった。最初の認識の食い違いは、そこに他ならない。


 ボクは、入れ替わった1人の攻撃を"わざと"受け、残りは速さをいかして先手をとって切り伏せていく。


「しま!? 腕をやられた!!?」

「こっちもだ!!」

「なんなんだよ、ありえねぇだろこんなの…」

「なにがありえ…、いえ、何でもないです」


 思わず言い返そうとしてしまったが、我にかえって、言葉ではなく刀で相手を斬り伏せる。


 この人たちは、L√PCの中では充分強い方なんだと思う。ランキングにギリギリ入れないくらいかな? でも、残念なのは致命的に対人経験が不足している点だ。それも実戦の。多分だが、ギルドホームの安全な環境でしか対人戦闘をこなしていないのだろう。だから緊迫感に欠けると言うか、お遊び感が拭いきれなかった。


 それはご主人様やSKの、好奇心からくる"楽"ではなく『これくらい出来れば充分だろう』と言う楽観の楽であり、似て非なるモノだ。




 こうして、ボクは賞金稼ぎの5人を粛々とキルした。

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