#346(8週目月曜日・午後・スバル)
そういえば、この辺りに来るのは久しぶりだな…。
そんな事を考えながら、ボクは南国エリアのキアネアに来ていた。狙うのは金銭効率のいい食材系アイテム。食材は、専門の買い取り商人もいるので売却がスムーズで手堅く稼ぐなら定番の金策だ。
欠点としては、定番なので他のPCもそれなりに居る事と、食材以外のドロップが供給過多で売りにくいってところだろうか?
「よし! 食材ゲット~」
「おい! ここは俺たちが陣取っていた場所だぞ!!」
「はぁ? タゲはこっちだったんだから、俺のものだろ!?」
魔物の交戦権をめぐって言い争いをしているPCが目に入る。
少し前までは、ここまでPCの多いエリアではなかったが…、しばらく来ないうちにPCの平均レベルが上がって人気エリアになっていたようだ。
「困ったな…、これじゃあ全然稼げないよ」
安全策を選んだつもりが、いきなり
一応、攻略サイトの『オススメの金策狩場』を確認してこの場所を選んだのだが…、どうやらそれが災いしたようだ。
ご主人様なら、大人げなく超高額アイテムを持ってくることは無いと踏んで、無難なところを攻めたが…、見事な裏目。今から移動するにしても、無難な金策は投資できる時間が全て。今日は学校もあるので、今からではどこも厳しいだろう。
「よし! レアの1点狙いに切り替えよう!!」
自分の頬を叩き気持ちを切り替える。できればご主人様に叩かれたいのだが…。
おっといけない! 危うく妄想の世界に入るところだった。今はとにかく時間が惜しい。取りあえず移動して、ダメもとで高額レアを狙う。これしかないだろう。
「そこの刀使いさん、ちょっといいですか?」
「え? いやその、先を急いでるんですけど…」
転送のために街へ向かう途中、見知らぬ女性PCに声をかけられた。
「まぁまぁ、直ぐに終わるから、ちょっとだけ、ちょっとだけお願い! その、アナタもしかしてスバルさんじゃない?」
「あ、はい、そうですけど…」
どうやら向こうはボクを知っているようだ。この辺りはPKが出没するので、一時期、修行も兼ねてわざと狙われに来ていた。まぁそのせいで顔が知れわたってメッキリ狙われなくなったが…、その関係だろうか?
*
「よかった。私、女性中心でギルドを組んでいるのだけど、どうしても女性ばかりだと、ほら…、狙われることも多くて」
「はぁ、たしかにこの辺りはPKも見かけますからね」
よっし!
心の中で思わずガッツポーズをとる。ダメもとでフィールドを探し回っていたが初日でアッサリ出会えたのはラッキーだ。とりあえず仲間に集合をかけ、話を進める。
「そうなのよ! それでね~、出来れば強い人に仲間になってほしいな~って」
「あの、すいません。そういう事なら間に合って…」
「ちょ! お願いまって。別に正式なギルド員にって話じゃないの!」
「はぁ…」
アッサリ断ろうとするスバルを慌てて制止する。
考えてみれば妹グループとも交流があるので"女性ギルド"と言うだけでは押しに欠けるのだろう。むしろ、下手に別の女性と交流を持てば今の関係を崩しかねない。それなら…。
「えっと、よければ、ゲストか幽霊部員になってくれるだけでもいいの。スバルさんの仲間ってだけで、殆どのPKは追い払えるだろうし」
「いや、ボクはそんな…」
「その! よければSNSのアドレスを交換しない!? 私たち、メインはむしろソッチって言うか、写真を交換したり、家が近い人たちはオフ会なんかもしてるのよ!?」
「ごめんなさい。ボク、そういうのはやってなくて…」
女性のリアルをチラつかせても全く反応を示さないスバル。こいつ不能か?
いや、完全に悪質な勧誘か、新手のPKだとでも思われているのだろう。実際、やっている事はただの逆ナンだ。アッサリ見つかって、つい事を急ぎすぎた。今さら言っても仕方ない事だが…、なんとかここから巻き返さなくては。
「ごめ~んヒビキ、スバルさん見つかったって?」
「ナイス、アヤカ! スバルさん、紹介するわね。…。…。」
こういう疑り深い相手には数で攻めるのが有効だ。用心深い相手でも、女性PCに囲まれると、どうしても気が緩んでしまう。他のメンバーも直ぐに到着するだろうし、あとは勢いで押し切るまでだ。
「あの、ボク、ほんとうに急いでいるので…」
「まぁまぁ、スバルさん。せめて、フレンド登録だけでもしてくださいよ~。そのくらいならイイでしょ?」
本当に急いでいるのか、気が弱そうなわりには反応がイマイチだ。ここは焦って失敗するより、手早く自己紹介だけで済ませておくべきなのだろう…。
(スバルはまだ自身のアバターネームを名乗っていないのでID交換は成立していない)
「それ以上は近づかないでください。それ以上近づけば…」
「ちょ、そんなつもりじゃ!? 落ち着いて、私たち、PKとかじゃないから」
アヤカが背後に回ろうとしたところで、スバルの雰囲気が一変する。今、これ以上近づけば、間違いなく斬られるだろう。
やはり、アバターの見た目はアテにならない。そもそも、名だたるベテランPK相手に無敗を貫くバケモノだ。俺たちの演技が、簡単に通用するわけがない。
「アナタたち、本当の性別は男性ですよね? 仕草を見ればわかります」
「「 ………。」」
「残念。さすがは無敗のPKKだ」
「チッ、楽な仕事だと思ったのにな~。しかたない、やるぞ!」
「応ッ!!」
仲間に引き込む作戦は失敗したが…、まぁいい。むしろ、キルするほうが手っ取り早くて助かるってもんだ。
こうして、ターゲットのスバルと殺し合う事となった。
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