#345(8週目月曜日・午後・セイン)
「そうだったんですか?」
「うしし、それで兄ちゃんたら…」
「 ………。」
「げ!? 兄ちゃん、いつからそこに??」
昼、いつものようにギルドに顔を出すと、珍しくニャン子がいた。
「今来たところだが、何か不味い事でも話していたのか?」
「さささぁ~、何でもない、タダの世間話だったのにゃ~」
「そうか。まぁ興味ないからどうでもいいや」
「にゃ~ん。助かるけど、それはそれでなんだか悲しいのにゃ~」
女性の噂話に首を突っ込むほど、俺は無粋じゃないし、暇でもない。
「それよりアニキ! 今日は何をするんだ? やることが無いなら、アタシと勝負しようぜ!!」
「SKにゃんは、相変わらず元気だにゃ~」
「そうですね~」
「「ほ~ほっほっほ…」」
ニャン子とユンユンが、縁側でお茶をすするお婆さんのマネをする。この2人、動画のことさえ無ければ本当に仲がいいんだよな…。
「その…、"ご主人様"今日のご予定は、いかがしましょうか?」
「ん~、とりあえず殴っていいか?」
「はい、よろこんで!」
スバルはスバルで、メイドの当てつけか悪ふざけをしてくる。基本的には忠犬で、信用できるのだが…、どうにもこう言う悪ふざけは止められないようだ。
「あ、そういえばお兄ちゃん」
「なんだアイドル」
「はい、バーチャルアイドルの~、ユ・ン・ユ・ン、です! って! それでね、聞こうと思っていたんだけど…、ミーファさん、どうしてるのかなって。ほら、BLって今、完全にオワコンじゃない?」
ビッチの事が気になるユンユン。まぁ、自警団時代に色々あったらしいので無理も無いか。
「別に、アイツはむしろ面白がっているぞ?」
「え? そうなんだ…」
「もともと自警団に思い入れは無いし、何より管理サイト自体の閲覧数はむしろ増えている。楽観的な性格も相まって、危機感のようなものは感じないな」
「へぇ…」
なんとも煮え切らない表情のユンユン。
実際のところ、BLはダウンロードしてしまえば管理サイトを細かくチェックする必要はない。よって、ど~でもいいビッチの雑談動画を貼っていても宣伝効果はたかが知れていた。
しかし、BLが機能不全になってからは状況が一変した。C√側のPCも、そうでないPCも、BLの動作状況を確認するためにサイトに通い、そのついでに動画が再生される。動画の本体は大手投稿サービスで一元管理されているが、そこで稼げる再生数はチャンネル登録したユーザーが殆ど。しかし、管理サイトに貼られている動画のリンクなら『目に入れば見るけど、チャンネル登録するまでもない』くらいの未登録ユーザーが再生数に反映されるようになる。
これにより、一時的ではあるが広告収入がバイトレベルから平社員レベルまで向上した。まだまだ贅沢が出来る金額では無いが、投資している時間を考えれば破格の効率といえるだろう。
「それで、今日はどうするんだよア・ニ・キ!!」
「あ、あぁ、一応考えてはいるんだが…」
「ん?」
SKと言うか、ナツキたちのPTに、今一番足りないのは"資金"だ。
「そうだな。SK、俺と勝負をしよう」
「おう! 全然OKだぞ」
そういってブンブンと鎌を振り回すSK。完全に今から"試合"をする気でいるようだ。
「そうじゃなくて…、明日のこの時間までに、より高価なアイテムを入手した方が勝ちってゲームだ」
「え? なんだそういう勝負か…」
見るからにテンションが落ちるSK。どうにもSKはレベルや装備によるブーストを軽視する傾向がある。まぁ、個人的にはPSを重視する考えには賛成だが…、このままでは例の商人、ユランとの再戦では"力及ばず"の結果に終わるだろう。
「そういうな。お前が勝ったら、勝利報酬として"頼み"を1つ聞いてやるから」
「え、なんでもか!?」
「なんでもって、無茶なのは普通に拒否するが、まぁ無茶じゃなければ聞いてやるさ」
「よし! なんかやる気でてきた!!」
「 ………。」
「なんだスバル。お前も勝負に参加したいのか?」
「いや、その、全然そんな気は…、無いんですけど…」
両手を振って全力で否定するスバルだが、顔はそうは言っていない。スバルに関しては、すでに充分な装備が揃っているのだが…、まぁ目的は資金稼ぎであってSKを勝たせる必要はない。ここはスバルも参加させてハードルを上げるのもいいだろう。
「にしし、なんだか面白い事になってきたのにゃ。それで、ルールはどうするのにゃ?」
「普通に考えたら、お兄ちゃんが有利過ぎるわよね? それこそ手持ちのレアを昨日拾ったって言って持ってきてもいいわけだし」
そして『勝負には参加せずに安全なところから口出しする』のに楽しみを見いだすニャン子とユンユン。
「別に、俺は入手した時のログをつければいいだろ? お前たちは、最悪、手持ちか、それこそ露店で"わらしべ"をしてもいい。とにかく、俺が1日のうちに入手したレアを超える高額アイテムを用意すればOKだ」
「ってことは、お兄ちゃんより高価な物を持ってきた人全員が勝者ってことね!」
「なっ!」
「にしし、ナツキにゃんたちも早速連絡だにゃ!」
「ちょ!?」
あれよあれよと言う間に話が大きくなっていく。ともあれ、これは俺にとって不利なことばかりではない。最悪なのは、参加者全員で金銭効率のいい消耗品や素材を掻き集めて、それを売って露店で高価なレアに変換するパターンだ。しかし、参加者全員が競い合う形なら、協力するにも限界が出てくる。
こうして、勝負の話は思った以上に大きくなり、そのまま各自金策のために解散となった。
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