#343(7週目日曜日・夜・ナツキ)

「ウォンチュウ!!」

「よっと」


「そこだ!」

「くっ!?」

「お姉ちゃん、また集中が切れてるよ!」

「あぁ~もう! やりにく過ぎ!!」


 リーダーの奇襲を難なく躱すSKに対して、私は見事に策にハマっている。こんなフザケタ戦法が、これほど厄介だったとは…。


 セクシーメイトの戦法は、変な言動で相手の隙を無理やり作る奇襲戦法。マイペースなSKに通用していないのは助かるが…、私の方は、直接対峙していないにもかかわらず気をとられてミスを連発してしまっている。もちろん、意味がない事は頭では分かっている。私だってつられていると言っても、そこまで致命的な隙は晒していない。しかし、耳に声が入れば気になってしまうし、視界に動きが入れば目が追ってしまう。


 私は奇策の恐ろしさと、実戦経験の重要性を再認識していた。


「お姉ちゃん! 取り巻きで強い人は、あの金髪のPCだけみたい。とりあえず、お姉ちゃんはその人に集中して!!」

「あ、うん。わかったわ」


 それでもなんとか戦えているのは、リーダー以外の戦闘能力が低いおかげだ。L&Cのプレイ時間はほぼ同じはずだが(私が言うのもなんだが)相手の実力は初心者相応と言うか、剣と魔法で戦うのに慣れていない印象を受ける。


 体感としては、SKとリーダー(無駄な動き込み)が同格、リーダーと金髪以外は2人で私1人と同じくらい。金髪は1対1なら勝てるくらい。


「ふっ、俺の相手をしてくれるのは嬉しいが、そっちの嬢ちゃんは3人相手にどれだけ持ちこたえられるかな?」

「ふん、お喋りはいいからサッサとかかってきなさい!」


 姉として恥ずかしいが、コノハの判断は"正解"だ。私がここまで押されているのは『集中できていないから』であり、目の前の相手に専念できるなら金髪に負ける道理はない。


 コノハに関しても、相手がザコで、なにより『時間稼ぎに徹する状況』なら何人相手にしても負けは無い。勝てもしないが、時間稼ぎに関して言えばコノハは最強だ。


「上等! いくぜ!! はぁ~~」

「そこっ!!」

「ぎゃっ!?」


 変な言動をみせる金髪に問答無用で斬りかかる。


 そう、1対1なら、変な言動につき合う必要はない。これだけで私にとっては充分すぎるほど有利だ。


「お姉ちゃん、その調子!」

「なんとなく掴めてきたわ。大丈夫だと思うけど、コノハも頑張ってね!」

「そこだ!!」

「うん、まかせて!」

「えぇ!?」


 コノハを狙う奇襲の1撃が空を斬る。


 関係のない話だが、コノハはドッジボールをさせると必ず最後まで生き残るタイプだ。ただし…、ボールをキャッチできないので勝てもしない。


「ははは、キミたち強いな! 素人とはとても思えない」

「ふっ。まぁ、こっちにはアニキがついているからな」

「なるほど、それじゃあ、これはどうかな。はぁ~~」

「SK! その変な動きにつき合わないで、サッサと攻撃するのよ!!」

「えぇ~。新しい動きが出てくるうちは、一応見ておこうかなって思ってたんだけど…」


 言動に付き合う必要が無いのは誰でも気づく事。それでもSKが受けにまわるのは、悪い癖が出ているからだ。セインさんもそう言うところはあるけど…、流石にそこまではつき合わないと思う。多分。


「SK!!」

「ん?」

「アンタが遊んでいるなら、私がコイツを倒して、そっちに合流するわよ!!」

「あぁ、それは、ちょっとヤダな」


 SKの口元がニヤリと吊り上がる。


 伊達に私もSKとPTを組んでいない。SKは、戦いに水を差されるのをトコトン嫌う。それは、PTメンバーの私たちも高頻度で含まれるので…、SKの機嫌の管理は大変なのだ。ホントに!


「必殺! ラブミドゥー!!」

「よっと!!」

「ぐふっ!!」

「まぁ、こんなもんだ」


 カウンターが見事に決まり、リーダーに大ダメージが入る。


 口には出せないが、多分あのリーダー、普通に戦った方が絶対に強い。



「やるじゃないか…。お前の攻撃を喰らって倒れなかったのは、俺がはじめてだぜ!!」

「「ん??」」

「そこだ!!」

「ちょ! だからもう!!」


 また気をとられてダメージを貰ってしまった。ホント、こいつら苦手だ…。


「一気に行くぜ!!」

「なんの!!」


 しかし、変な言動さえなければ問題はない。勝ちに目が眩んだのか、迂闊に攻め込む金髪を冷静に対処する。


「や、やるじゃないか…」

「悪いけど、SKがまたサボりだす前に、決めさせてもらうわよ!」

「こなくそ!」


 今度はコチラから攻めていく。


 正直なところ、自分から攻めていくのは苦手だ。しかし、別にできないわけじゃない。そちらの方が都合がいいなら、そうするまでだ。


「はぁ! つっ! ヤァ!!」

「ちょ、だから、ちょっとまてって!!」

「待つ意味が、はぁ! 分からないわ…、ね!!」


 やはりそうだ。コイツ、ペースを握っていない時はトコトン弱い。


 実戦においての"有利不利"は様々なところにでる。それは武器の相性だったり、性格だったり。いくら私が言動による奇襲に弱いと言っても、私が一方的に攻め立てる状況さえ作れれば、有利になるのはむしろ私。


 回避主体の盾の立ち回りもそうだったが、セインさんはいつも、私に新しいものを気づかせてくれる。


「だめだ! 抑えきれない! 誰か助けてくれ!!」

「俺がカバーに入る!」

「助かるぜ!」

「ふっ。2人で足りるかしら?」


 そう、相手が増えても、主導権さえ握っていれば関係ない。幸い私は盾使い。盾と剣で一度に2人までなら対処できる。あとは強引に押し込み、防御力にモノを言わせて相手の体力を削りきれば済む話だったのだ。


「ちょ、コイツ、ゴリ押しに切り替えてきたぞ!」

「ダメだ! 押し切られる!!」


 やはり、この人たち…、弱い!


 セインさんやスバルさんとは比べるのもおこがましいが…、SKと比べてもハッキリ弱い。そしてなにより、攻める事の利点が実感できる。普段は安全のために受けに回っているが、回避と同じで、盾持ちが攻めにいってはいけない道理はない。


 盾をぶつけて相手の姿勢を崩す戦術の嫌らしさ。削り合いでの防御力の高さの有利。攻めにまわる事で得られる主導権と精神的余裕。守りの立ち回りを軽視する気は無いが…、L&Cはオープンアクションであり、立ち回りに関してはスキル構成による制約を受けない。その都度優位な立ち回りに切り替えていけばいいのだ。


「今フォローする!」

「いいところなんだから、お姉ちゃんの邪魔しないでよ」

「しまっ!?」


 視界端でコノハが攻めているのが見える。しかし、断片的と言うか、"感情"は引っ張られず"情報"として認識できている。ゾーンと言うやつだろうか? 集中力が高まり、必要な情報が必要な分だけ流れ込んでくる感覚を…、私は確かに感じていた。


「そこ!!」

「ぐっ! ここまでk…」

「調子にのる…」

「甘い!!」

「ぐはぁ!?」


 立て続けに2人をキルする。


 やはりL&Cにおいて数的有利は絶対ではない。特に対人戦は魔物に比べて体力が低いので局所破壊1つで戦況がひっくり返る事も珍しくない。


 そして…。


「またせたわね!」

「流石お姉ちゃん、カッコよかったよ!」

「そ、それほどでも~」


 漫画と違って、趨向すうこうが1度決まってしまうと根性論や奇跡による逆転はまず起こらない。それがゲームの現実リアルであり、L&Cだ。




 セクシーメイトとの試合は、結局このまま勢いのついた私たちの勝利に終わった。





「さて、帰るか」

「せっかく見に来たんだから、声をかけてあげたらいいのにゃ」

「今回の俺たちはあくまでギャラリーだ。助ける気も無ければ、勝利を分かち合うつもりもない」

「兄ちゃんはスパルタだにゃ~。まぁアチシも、その距離感、キライじゃないけどにゃ~」

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