#342(7週目日曜日・夜・ナツキ)

「ほんと、セインさんて唐突だよね」

「ししし、まぁ、アタシはいつでも大歓迎だけどな」

「ちょ、まるで私が歓迎していないみたいに言わないでよ!」


 夜、私たちはセインさんの指示に従い、旧都に来ていた。


 目的は…。


「お、そのアバター。君たちが妹グループだな!?」

「え? いや、やっぱり妹グループで定着してるんだ…」


 現れたのは、奇抜な肩パットの男性PTとその仲間、総勢8名。今日は、この人たち、セクシーメイトと練習試合をすることになっている。まぁ、企画立案がセインさんなのでデスペナあり。これで"練習"というのは語弊があるが…、なぜだかこのハイリスクな練習に異を唱えるものはいない。


 まぁ、SKあたりはペナルティーがないとエンジンがかからないので、セインさんの判断は"正しい"のだけど…、なんというか、2人の相性に思うところが無いと言えば嘘になる。


「それじゃあ皆さん、頑張ってくださいね」

「健闘を祈る!」

「え? 下がっちゃうの!?」


 いざ試合がはじまると言うところで、相手PTの2人が離れていくのを見て、SKが思わず声をあげる。


「あぁ、2人はサポーターなんだ。悪いけど見学って事にしてくれ」

「え、あぁ、そうなんだ…」

「 ………。」


 残念そうにするSKと冷静に2人を観察するコノハ。


 セクシーメイトの言う通り、2人は見るからに生産系で、少なくとも前に出て戦えるようには見えない。見学という主張も信ぴょう性は高いだろう。しかし、Hiのように『卑怯こそがC√の正しい在り方』と考えるプレイヤーもいる。コノハが気にしているのは、そういった部分なのだろう。


「というか、今更だけど本当にいいのか? 6対3は、流石に気が引けるんだが…」


 上から目線と言うか、唯一の6時代経験者であるセクシーメイトのリーダーが私たちを心配する。


 どう考えても勝ち目がないので当然だ。特に今回はスバルさんもいない。あの人が居れば8人相手でも何とかなっただろうが…、残念ながらセインさんに『3人だけで戦ってこい』と言われてしまった。


 正直なところ、優しいスバルさんの事だから、こっそり助けに来てくれる事も期待したが…、あの人はそれ以上にセインさんを慕っていて、特にメイドの格好になってからはセインさんの事を"ご主人様"と呼ぶほどの従属っぷりだ。まぁ、悪ノリしている部分も少なからずあるだろうけど…、セインさんはスバルさんから見ても雲の上の存在なんだろう。


「問題ありません。勝ちを狙っていないわけでは無いですが、それだけが全てとも思っていませんし」

「あぁ、そうか…」

「ははは、そうだな!」


 微妙な顔をするリーダーと笑い飛ばすSK。


 私たちから見てセクシーメイトの言動が予測できないように、彼らからしても私たちの言動が予測できないのだ。なにせ私たちはセインさんの"弟子"(と言うことになっている)であり、数的不利の状況でもデスペナを賭けて相対している。普通なら警戒して当然だ。


「さて、それじゃあ始めましょうか」

「フッ、合図はこの俺が行おう!」

「いや、合図はいらない」

「え? いやでも…」

「これは実戦形式だからな。合図をするのは違うだろう」

「そ、そうか…」


 一度は下がった2人が、審判も兼ねて出てきたところで…、リーダーに断られ、ションボリしながら帰っていく。


「悪いな、時間をとらせてしまって。それじゃあ…」


 試合の合図は無いが、リーダーが手をかかげたところで残りのメンバーが一斉に散る。これが実質の合図であり、正直に言ってわざわざ断った意味がないのは…、口には出さないでおこう。


「2人とも、落ち着いて作戦通りにいくわよ!」

「おう!」「はい!」

「それでは、こちらもいこうか。 …はぁ~~」


 背中合わせに全方位を警戒する私たちに対して、セクシーメイトは数的有利をいかして囲い込む陣形をとる。


 ここまでは予想通り。今回、試合にあたって相手の情報を事前に調べておいた。それによるとセクシーメイトは、リーダーが単独で前に出てヘイトを稼ぎ、残る味方が奇襲を仕掛けるスタイルのようだ。


 よって、リーダーの対処はSKに任せ、私とコノハは背後からの奇襲を警戒する作戦にした。


「よくわからないが、来ないならコッチからいくぜ!」

「ちょ、SK!」


 妙な動きをみせるリーダーに対して、テンションが上がっていたのか不用意に突っ込むSK。確かにリーダーの対処はSKに任せたが…、相手は6時代に下位とは言えランカーにまで登りつめた人だ。いくらSKでも、迂闊に突っ込めば瞬殺もありえる。


「ふっ!!」

「え!?」


 リーダーが襲い掛かるSKを飛び越え、背後に回り込む。上方向に対する視界は、自分が思っているよりも遥かに狭い。SKからして見れば、振り上げた鎌の影をすり抜けていったように見えただろう。


「ぬぁぁぁぁぁあ! 必殺!!」

「おっと」

「 ………。」

「 ………。」

「「 ………。」」


 しかし、SKの空間認識能力は、その程度では揺らがない。死角から必殺の一撃を放とうとするリーダーに動じることなく、すぐさま姿勢を正し、カウンターを狙う。


 これにはリーダーも面食らったのか、向かい合ったところで硬直してしまった。


「こほん。えぇ~、続きまして…」


 そして、何事もなかったかのように仕切り直すリーダー。


「お姉ちゃん、油断していると危ないよ!」

「え、あぁ、うん」


 そして妹に叱られる私。


 見れば残りのメンバーがジリジリと距離をつめていた。




 そんなこんなで、セクシーメイトとの戦いは続く。

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