#341(7週目日曜日・午後・セイン)
「あ、セインさん、お待ちしていました!」
「えっと、はじめまして…、ではないが、まぁなんだ、よろしく」
「こちらこそ…」
「「よろしくお願いします!!」」
夕方、俺はとあるPTを訪ねて旧都に来ていた。PT名は…。
「そういえば、PT名? チームと言うか、何か名前はあるのか??」
「えっと…、一応、今は"セクシーメイト"って名乗ってますけど、正式な組織名は、まだ無いですね…。…。」
「 …。…。」
ほぼ初対面と言う事もあり、ぎこちなくも簡単に自己紹介を済ませていく。
なにを隠そう、彼らはL√最大ギルドであるヘアーズのC√ギルドだ。しかし、現在のギルド員はまだ8名。C√のPTとしては多いが、ひとまずチーム分けはなく、セクシーメイトとして都合のついたメンバーでPTを組んで旧都とクルシュナを中心に活動しているそうだ。
「さて、自己紹介はこれくらいでいいだろう?」
「そう、ですね…」
「それじゃあ、さっそく殺し合おうか」
「「 ………。」」
なごやかな空気が一瞬で塗りかわる。
そう、今日俺がセクシーメイトを訪ねたのは、かねてからクレナイに頼まれていた"指導"のためだ。それも実戦形式、命を賭けた試合だ。
今まで指導の話は、はぐらかしていたのだ…、転生タイミングの調子により時間に余裕ができたこともあり、今回の話を受ける運びとなった。
「それで、合図とかは必要ですか?」
「実戦にそんなものは存在しない。これが実戦だと思うなら、合図は不要だろ?」
「そうですね」
そういってリーダーの"花中島"が片手をかかげると、メンバーが一斉に散っていく。
そう、これは実戦形式。睨み合って正面から斬りかかるのは"実戦"とは呼べない。
「新人が多いとは言え、やはり指導者がいると違うな。さて、4人でどこまで出来るか…、見せてもらおうか」
今回集まったメンバーは4人のみ。急な話だったこともあり、半数しか集まらなかったそうだ。まぁ、それが事実である保証はないのだが…。
「それじゃあ、そろそろ始めますか。 …はぁ~~」
何やら不思議なポーズをとるリーダー。
セクシーメイトは、ハッキリ言ってしまえばリーダーのワンマンチームだ。6時代に下位のランカーだった花中島がC√に転向し、それにあわせて有力な新人を集めた。それがセクシーメイトであり、リーダー以外はナツキたちに近い境遇となっている。
花中島は元L√ではあるが、奇抜な動きで意表をつく対人向きの戦闘スタイルを得意としている。推測するに、唯一の実力者である花中島が正面で俺の気をひき、その隙を残りのメンバーが攻める作戦なのだろう。
「「 ………。」」
花中島の妙な舞?を、とりあえず傍観する。動きで翻弄する意図もそうだが、メンバーが配置につく時間くらいは待ってやる。
やがて、花中島の手が股間にのび…。
「セクシー! スプラッシュ!!」
「ん?」
股間から遠距離技の<指弾>が飛んできたので、とりあえず素直に避けてみる。
「えぇ~、続きまして~」
「あ、あぁ、続くんだ」
またしても珍妙な舞を披露する花中島。もしかして…、これって決まるまで同じ流れが繰り返されるのだろうか?
「はぁ~~」
あ、ダメだ、続くやつだコレ。
「時間の無駄だな。こっちからもい…」
「もらった!! って、えぇぇ!?」
距離をつめる俺に合わせ、メンバーの1人が背後から襲ってくるが、とうぜんのように回避する。
*
まずい、分かっていたけど、
<指弾>に続き、背後からの不意打ちも難なく躱され、メンバーに困惑の色が伝播する。不幸中の幸いなのは、メンバーからしてみればレベルが高すぎて力量差を漠然としか認識できない点だろう。
あのセインというPC、不意打ちに対して全く視線を動かさなかった。俺も(下位とは言え)ランカーの世界に片足を突っ込んできたのだが…、アイツは正真正銘のバケモノ。対人最強の異名は伊達や酔狂ではないと確信してしまった。
すかさずハンドサインで『波状攻撃』の指示を送る。
「くらえ!」
「 ………。」
「そこだ!」
「 ………。」
「もらった!!」
「 ………。」
3方からの攻撃も難なく躱され…、蜃気楼にでも攻撃したのかと、メンバーが自分の手にした武器とセインを交互に見る。
メンバーは確かにL&C初心者だが、もともとTPSゲームをやり込んでおり、チームでの立ち回りは俺よりも上手いくらいだ。俺たちの戦法は…、俺が前にでて動きで相手の注意をひき『視線を読む』ことに専念する。<指弾>での不意打ちはオマケに過ぎず、本命は『相手の心理を読み、ハンドサインで最適な指示を送る』事だ。
当然、やっている事は非常に高度であり、決まれば死角からの波状攻撃でワンサイドゲームに出来てしまう。本来、数的有利がとれている状況なら必勝と言っても過言ではない、そんな戦法なのだ。
なのだが…。
「俺も前に出る、全員、相手の重心移動に全神経を注ぎ込め!!」
「「うっす!!」」
明鏡止水と言うべきか、視界に頼らず"空気"で周囲を知覚する様なバケモノには当然通用しない。こうなれば引き出しの少ない俺たちが選べる選択肢は多くない。ぶっちゃけ、俺が前に出て泥臭く戦うだけだ。
*
「 …! …!!」
「 …! …!?」
なんと言うか…、普通の戦法に切り替えてきたセクシーメイトの4人。つまりは『奇妙な動きからの奇襲』は一発芸の類だったのだろう。
まぁ、あれはあれで(見た目の奇抜さとは裏腹に)やっている事は正攻法であり、普通に強い部類だと思う。が、残念ながら通用するのは同格、それも人数で有利がとれている場合のみだろう。期待していた残りの4人も現れる気配もないので…、どうやら本当にこれでネタは打ち止めのようだ。
「さて、そろそろ終わりにするか?」
「ぐっ、ここまで、ですか…」
「そうだな。まぁ、及第点だったぞ。しいて言えば、戦術にバラエティーが欲しいがな」
「返す言葉も、ありません」
淡々と攻撃を避け、淡々とカウンターで耐久を削っていく。
一芸特化とは言え、初心者をここまで纏め上げた花中島の才覚を感じながらも、そのあとは特筆する点も無いまま全員キルして、そのまま現場解散となった。
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