#340(7週目日曜日・午後・K2)

「くそっ!! ここ、までか…」

「悪いな、これも仕事なんだ」


 残った1人も光と消える。


 時間は昼過ぎ、場所はサーラムの密林。俺たちは、このエリアに点在するNPCたちを狩る"NPC狩り狩り"をしていた。


 あと、これは気にしてはいけない事なのだが…、リアルの都合で第一線から退いたものの、結局ほとんど毎日ログインしていたりする。まぁ、プレイ時間は減っているし、何よりプレイスタイルがカジュアルになっているので負担は比べるべくもないが…。


「やっぱり、PK自体の質は落ちているよな?」

「そうだな。PKを特定する手間は増えたが…、それ以上にPKの数、それも低レベルの初心者が増えている印象だ」


 自警団のPKK部隊"K"として、PKやNPC狩りをするPCを狩る俺たちだが、今回のアプデで肝心かなめのBLの判別機能が使えなくなってしまった。当初はKどころか『自警団の活動自体が終わるのでは?』と思ったが、蓋をあければ思ったほどは酷い状況にはならずにすんでいる。


「よし、このまま3班に分かれてローラー作戦の続きといくか」

「そうだな。効率は悪いけど」

「爺さんや、それは言わないお約束じゃろ…」

「ぷっ、なんだよその小芝居」


 Kとなり、カジュアルにL&Cをプレイするようになり、こういった"おふざけ"が気軽に出来るようになった。ミイラ取りがミイラになるわけじゃないが…、PKKをする中で、俺たちはPKやC√の"ノリ"を理解し、L&Cに新たな楽しみを見出していた。


「そういえば、他のチームってどうしてるんだろ?」

「あぁ、K4は"商人の護衛クエスト"に参加しているって言ってたけど、そこまで効率は良くないみたいだな」

「PCの乱入イベントがあるって言っても、基本は盗賊NPCとのイベント戦闘だもんな。探す手間は省けるけど、時間的な効率はイマイチか」

「みたいだな」


 BLの判別機能が使えなくなり、PKを特定する手間は増えたが、かわりにPKの人口自体は増えている。問題は犯罪者を見極める手間の方で、ランキング上位を目指さないなら、判別が簡単な護衛クエストで稼ぐのも悪くない選択肢と言えるだろう。


 まぁ護衛クエストは、相手を追い込むなどのPKKとしての醍醐味に欠けるので、俺はやりたいとは思わない。


「そういえばK3って、何してるんだろ?」

「ターゲットか? あぁ、たしかPKを狙っているってチラっと聞いたけど、今も続けているかまでは知らない」


 K3は、最近下位のK4にジリジリと差をつめられている。つまり『効率の悪い相手を狙っている』事になる。それなら反面教師として、なにか参考になるかもしれない。


「BLが死んでるからPK狩りは、そりゃあ効率悪いよな」

「ゆうて、1発でも反撃を入れれば仮面は割れる。顔さえ見えればBLは機能する。もちろん、自動通報機能も含めてだ」

「ゆうて、実際に成績は伸び悩んでいるから効率は悪いんだろうな」

「それはまぁ、そうなんだよな…」


 BLの判定機能は、新装備の登場にともなって無効化されてしまった。特に当初は本当に使いものにならいところまで落ちていたが…、今は"顔(仮面や髪形も含む)"や"防具の組み合わせ"を基準に判定する方式に変更することで、条件は絞られるが一応動くようになった。


 そんな話をしていると…。


『こちらブラジャー。NPC狩りと思しき3人PTを発見した。至急集まってくれ』


 どうやらNPCを狙うPCを発見したようだ。


『こちらアルファ。了解』

『こちらチャーリー。了解』



 NPCの前で、不自然に周囲を警戒する3人組のPTを視界範囲ギリギリで観察する。


 当たり前だが、相手もPKKを警戒しているので、いきなりNPCを襲うことは無い。スキルや勘を頼りに周囲を確認して、無人ならNPCをキルする。あとは逃げるだけ…、なのだが、そこに落とし穴がある。


①、スキルの有効距離は視界に比べて遥かに短い。(ただし、遠すぎると目撃判定はつかない)


②、警戒すればするほど目立つ。


③、こちらの狙いはPKKであり、NPCの保護ではない。


 初心者がやりがちなミスだが、本当に注意すべきは『犯行現場を見られない事』ではなく『速さと逃げ足』だ。結局、いくら注意しても絶妙なタイミングでPCが通りがかる事は起こりうるし、索敵スキルも絶対ではない。(大勢で広範囲を封鎖しても得られるC値には限りがあるので非効率)よって『簡潔に周囲を確認して、素早くNPCをキルし、即時撤退する』事が重要となる。


『こちらチャーリー。ターゲットの1人がNPCの後ろに回り込むようだ。残り2人は見張りを続けるみたいだな』

『こちらアルファ。確認した。予定通り、NPCに初撃を入れた時点で突撃しよう』

『こちらブラジャー。了解。俺、この戦いが終わったら告白する予定なんだ』

『こちらチャーリー。突撃とブラジャーの死は了解した』


 結局、PKKの立場から見ると目撃判定や指名手配は、それほど重要ではない。例えば、見張りが非犯罪者であっても、犯人グループに属しているのならキルするだけ。指名手配は出来るにこしたことはないが、犯人がすでに街の利用を捨てている可能性もある。


『よし! 仕掛けたぞ! ゴーゴーゴー!!』


 NPCの背後にまわったPCが剣を振るモーションを見せる。攻撃が当たったのか、そもそも本当に攻撃だったのか。実はハッキリ見えてはいないのだが、それは気にしないで突撃する。魔女裁判では無いが、PKKにとって重要なのは"真実"ではなく『疑わしい行動をとったか』なのだから。


「なんだお前たち!!」

「止まれ! それ以上近づくなら攻げk…」

「遅い!!」


 見張りが2人であるとも、数と速さにものを言わせた突撃に対応するのは至難の業だ。そもそも、それが出来る上級者が初歩的なC値稼ぎをしているはずがない。


「くそ! まさかお前たちが自警だ、って、最後まで、い!!」

「いわせねぇよ!!」


 俺たちは自警団であり『正義の組織』なのだが、俺たち自身に正義は無い。あくまでポイントを稼ぐビジネスであり、ゲームとしてゲームを楽しんでいる。




 こうして、格下を一方的にキルする形で、俺たちは今日もポイントをコツコツ稼いでいった。

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