#339(7週目日曜日・午後・ナツキ)

「お姉ちゃん」

「ん? どうしたの、コノハ」

「そういえば私たち、妹グループって呼ばれているらしいよ?」


 昼。今日は私たち3人で旧都にレベル上げに来ていた。


「妹グループって、私、姉なんだけど…」

「ははは、アニキの妹ってことか」

「PT名を設定しても傍から見えないからね。ギルドにも入ってないと、そんな感じの呼ばれ方になっちゃうみたい」


 本当はユランとの再戦を意識して多対多の対人戦の特訓をした方が良いんだろうけど…、残念ながら横の繋がりが殆どない私たちに練習試合を申し込む友達相手はいない。


「いっそ、アタシたちでギルドを作るか?」

「ん~、別に困ってないしな~」

「むしろ、不便になっちゃうよね」

「まぁ、そよね…」

「だな」


 私たちは現在、ゲスト扱いでセインさんのギルドを利用している。ギルドは初期状態では、酒場の個室と同じ雑談スペースでしかないが、追加料金を払って拡張する事で有料のNPCサービスを無料化した状態で設置できる。


 セインさんのギルドは、たぶんC√ではトップ。L√の大手に比べても引けを取らないほど拡張が進んでおり、今さら私たちがギルドを作っても機能面では全く勝負にならない。不便に感じるのは2点。


①、ギルドの特殊操作が出来ない。特殊なルールで手合わせする場合、その都度セインさんに変更をお願いする必要がある。


②、平日夜と土日は利用不可。ギルドの暗黙のルールで"アイ"と呼ばれるPCに関わってはいけないことになっている。ニャンコロさんは普通に話をしているらしいが、もし『見つかったらゲストを解除される』と言われている。


「そういえば、SKってアイさんと話をしたことあるの?」

「ん? 何度か話したけど…、最近はないな。なんかあったか?」

「いや、別に…」


 私も積極的に交友関係を広げたいとは思わない性格なので、無理に関わる気は無いが…、なんというか、スバルさんやユンユンさんは彼女を頑なに避けているので、逆にちょっと気になっていたりもする。


 そんなやり取りをしていると…。


「げっ! おまえら、何でここに!?」

「それはコッチのセリフよ!」

「まぁまぁ、そんなにカリカリしないの。みなさん、こんにちは~」


 現れたのはHiとLu。つまり、対戦相手と狩場でバッタリ会ってしまったわけだ。


「チッ! この沸きポイントは私たちが使うんだ。よそへ行ってくれ!!」

「なんで移動しなきゃいけないのよ? カブった場合はエリアを分割するのがルールでしょ!?」


 私たちが先に…、と言いたいところだが、お互い動きながら狩りをしていたので、明確にどちらが先かは分からない。カブリ自体は当たり前のように起こる事だが、残念ながら対戦を控えた相手とカブった場合のルールは存在しない。たぶん。


「まぁまぁお姉ちゃん、落ち着いて…」


 考えてみれば当たり前のことで…、レベル帯や目的が同じなのだ。それは狩場で遭遇しても何の不思議もない。


「分割って、まさか私に手の内を見せてくれるの? お優しい事」

「はぁ? なんでそうなるのよ!」


 ダメだ、相手のペースに乗せられている。早くマウントを取り返さないと!


「ははは、それならいっそ、勝負して決めるか?」

「ちょ!」

「ふっ、私に喧嘩を売るつもり?」

「ヒィちゃん、私たち、今2人なんだけど…」

「「あ…」」


 不本意だがHiとハモってしまった。今回はスバルさんが居ないとはいえ、3対2なら私たちが圧倒的に有利。その気になればキルしてペナルティーを付けられる状況だ。


「ふふ~ん。どうやら、謝るのはソッチのようね。どうしたの? 頭がまだ、上がったままだけど」

「ぐっ! 調子にのりやがって…」


 もちろん、私もそこまでするほど鬼でも無ければ恨みもない。なんと言ったらいいか私も分からないが、因縁はあれど"恨み"は感じていない。まぁあれだ、腐れ縁? そんな感じ。


「わりぃ、遅くなった」

「ちょ、なんで妹グループそいつらがいるんだよ!? つか、にゃんころ仮面さんはきてないの??」


 そこにやってきたのはMeとSi。今度は3対4となり、私たちが不利な状況になってしまった。


「ふふ~ん。形勢逆転ね。どうしたの? 頭がまだ、上がったままのようだけど」

「くっ! 調子にのって!!」

「ははは、おまえら、実は仲いいだろ?」

「「どこが!!?」」

「あらあらあら」

「ぷっ、お姉ちゃん…」


 周囲が笑いに包まれる。セインさんに言わせれば『C√らしいノリ』なのだろうが…、真剣みが足りないと言うか、ネタや笑いがとれるなら戦闘中でもお構いなしなところは、ちょっと苦手だったりする。


「まぁなんだ。狩場がカブったなら仕方ないな」

「そうだな。レベルが近いとよくあることだ」

「「 ………。」」


 笑い声が一瞬で消え、緊張が走る。3対3なら勝つ自信はあるが…、3対4だとキルされる欠けることなくとはいかない。非常に不本意だが、この場での模範解答は『安全地帯まで逃げながら戦う』になるのだろう。


「2人とも、移動するぞ! 時間が惜しい、さっさとこい」

「ちょ、引っ張らないでよ!」

「ぇ…」


 あっさり引き下がる道化師たち。私も思わず声が漏れてしまったが、止めるわけにもいかず、去っていくのを眺めるしかなかった。




「お姉ちゃん、私たちも移動、しよっか」

「あ、あぁ、そうね」

「ちぇ~、面白くなりそうだったのに」

「SKって不利な状況ほど、燃えるタイプよね」

「ん? なにを今更」

「うん、知ってた」

「ぷっ、ぷぷ、お姉ちゃんたち…」


 ツボに入ったのかお腹を抱えて笑うコノハ。よく分からないが、コノハは妙なところで突然笑いだすことがある。


「ん? とにかく、さっさと行こうぜ!」

「あ、うん。コノハも、いつまで笑っているのよ。行くわよ」

「はぁ~ぃ」


 後でセインさんに聞いたところ『悪徳ギルドはそんなもんだ』とイマイチ分からない解答しか返ってこなかった。理由は、お金や契約、あとは装備が違ったとか色々考えられるけど…、なんと言うか『ベテランプレイヤー間でのみ通用する暗黙のルール』的なものがあるのだろう。




 こうして、鬼畜道化師とのランダムエンカウントは、なんだかフワフワした感じで終わった。

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