#337(7週目土曜日・夜・Hi)

「ホント、面倒なことになったよね…」

「商会としては、儲け話なんでしょうけど、悩ましいところよね~」

「ふっ、まぁ俺は、ちょっとワクワクしてるけどな!」


 夜、私はLuとMeの3人で狩りをしながら例の件について話していた。


「出来れば、もう関わりたくなかったんだけどな~」

「でも、次は事情も違うようだし、こっちも強気に交渉できると思うわよ?」

「いや、まぁお金もそうだけどさ…」

「ハハハ、人のこと言えないけど、Hiも商売は出来ない性格だな!」

「ぐっ…」


 まだ調整段階だが…、何故だか昼間の客が再度私たちを雇って妹グループと再戦する事となった。それも、今度は決闘のように示し合わせて正式に戦う事になるそうだ。おまけに、EDに話が漏れたり、私たち幹部も参戦する話になったりと、かなり話が膨らんでいる。


 今やっているレベル上げもその延長で、正式にギルドから指令が下りて『試合までレベル上げなど戦力強化に集中する事』となった。


「そう言えばさ、Luって結局、鞭でいくのか?」

「ん~、ずっと鞭でやってきてから、流石にね~」


 前回、妹グループと戦った時は、武器の長さを短くする作戦を使った。慣れもそうだが、武器熟練度の問題もあるので根本的な武器種の変更は(例えメタにハマっていたとしても)リスクが高くなる。


 幸い、Meはもともと前衛型なので変更の必要はなく、私も(魔法がメインなので)武器の依存度が低いので問題なし。しかし、中衛のLuはそういうわけにはいかなかった。鞭はトリッキーな武器で、中衛としては面白い武器種だが、攻撃が軽く金属防具にはほぼ無力とデメリットが大きい。好きな相手を襲えるPKではあまり問題にならないが、試合形式となればデメリットの方が大きくなってしまう。


「まぁ、幹部全員参加ってわけでも無いんだろ? Luは鞭スタイルに特化して、お呼びがかからなければ、それはそれでって事でいいんじゃないか?」

「そうね~。何もこんどの試合が全てでもないんだし」

「 ………。」


 口には出さないが、正直に言ってLuが羨ましいと思ってしまった。


 我らが鬼畜道化師商会はWSも業務に含まれているが、基本は好きな相手を好きにキルするフリーのPKスタイルとなっている。そんなわけで、殆どのメンバーが変則的な逃げ撃ちを想定したビルドとなっており…、試合に呼ばれるであろうメンバーはほぼ決まってくる。


 逃げまわることのできない試合形式となると、まずは前衛のMe(杖術)は確定。続いてJkやSiも変則的ながら拳闘士なので呼ばれる可能性は高い。続いて呼ばれる可能性が高いのは後衛枠の私(魔法使い)とTr(弓使い)になる。


「そんなにあの商人と組むのが嫌なのか? 俺は…。 よっと!! 足手まといでなければ、何でもいいかな?」

「まぁ、そうなんだけどさ…」

「ふふふふふ」


 相変わらずニヤニヤするLu。


 あの商人もそうだが、出来れば…、ナツキたちとは余計なシガラミ無しで戦いたい。


「あ、Siからメッセージ。カバーお願いね」

「あいよ!」

「任せて」

「そう言えばさ」

「??」

「Hiは短剣でいくのか?」

「え? そのつもりだけど」

「いや、今度の試合はL√PTみたいに確りポジションが分かれる構成になるだろうから、杖の方がいいんじゃないかな~って」

「あぁ…」


 C√に変則的なビルドのPCが多いのは、ソロや少人数PTで複数のポジションをカバーする目的が大きい。もちろん、対人戦となれば後衛は真っ先に狙われるので自衛できるにこしたことは無いが…、それでも人数が増えてくると、自衛よりもポジションの役割を重視した方が利点は大きくなる。


「まぁ、Dも武器種まで煩くは言ってこないと思うけどな。問題は…」

「EDの方よね…」

「だな…」


 流石にEDが試合に参戦するとは思わないが…、場合によっては連中が戦い方やPT構成に口出ししてくるかもしれない。


 まぁ、EDの方が格上なので間違った事は言わないと思うが…、現場の空気を知らないヤツの正論ほど厄介なものもない。最悪、気分で引っ掻き回されて連携どころじゃなくなる可能性すらある。流石のMeも、そこは警戒しているようだ。


「追加情報が入ったわ。やっぱり、試合には幹部を中心に何人か参加する事になるみたい。あと…」

「「??」」

「お客さんとの合同練習もあるかもって」

「「うへ~~~」」


 嫌なパターンを耳にして、思わずMeとハモってしまった。


「私たち、L√じゃないんだけど…」

「EDだけじゃなく、客にまで引っ掻き回されるとか、流石にやる気無くすぜ」


 忘れていたわけではないが…、試合には依頼者であるユランも参加する。むしろ私たちはユランの引き立て役であり、メインはユランなのだ。単純にナツキたちを倒す事ばかりに気が行っていたが、どうにもそう単純にはヤラせてもらえないようだ。




 こうして、面倒な客の面倒な仕事は、予想以上に面倒なことになっていった。

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