#336(7週目土曜日・番外編・????)

「どうしてこうなった~~!?」


 VR機のメッセージBOXに溜まったメッセージを前に、頭を抱えて叫びをあげる。


「うぐぅ~。まさかこんなに簡単にバレるなんて…」


 メッセージの内容は千差万別だが…、ようは勝手にセインの妹グループに手を出したのがバレて、そのお咎めや聴取、あるいは私を心配するメッセージだったりする。


「終わった…。完全に終わった。間違いなく同盟はクビ。下手をしたらL&Cも続けられなくなるかも…」


 ボヤキつつも、寄せられたメッセージを斜め読みしていく。


 幸いなことに、私を支持してくれる男性PCは多い。まぁ、彼らをカモってきたおかげで今の地位まで上ってこれたんだけど…。ある意味、私は彼らのアイドル。味方ではあるけど、特別に信頼できる"仲間"ではない。


 結局私は商人であり、なにより気ままな商人プレイが性に合っていた。信頼できる仲間と固定PTを組んで、共に苦難を乗り越える。それもゲームの醍醐味なんだろうけど…、私はその日の気分でPTメンバーを選んで、チヤホヤされたり、最適なPTに入れてもらったりするスタイルを楽しんでいた。


『PKの件で話が聞きたいので溜まり場まで来てくれ。リアルの用事もあるだろうけど、とりあえず返信だけでも早めに帰さないと、立場が悪くなるぞ』

『なんか騒ぎになっているけど大丈夫? よかったら相談にのるよ』

『なんかさっき、知らない商人にユランちゃんのこと聞かれた。とりあえず知らないって言っておいたけど、何かあったの?』


 同盟の情報網はバカに出来ない。有力プレイヤーを大勢引き込み、芋づる式に情報が共有されていく。こんな状況で迂闊にログインすれば、速攻で見つかり、質問攻め。それと同時に裏取りがなされて、私の行動が丸裸にされてしまう。


『お前、セインと敵対しているってマジ? 流石に相手は選んだ方が良いぞ?w』

「いや、それは成り行きで…。単にグリードアックスを返してほしかっただけって言うか…」


 分かっている。悪いのは私だ。斧を取り返すためにWSで人を雇ったのも失敗だったし。つい、勢いでキルして取り返す流れになってしまった。せめて、武力をチラつかせて話術で返してもらうべきだった。


『ユランちゃん、EDと繋がりがあったんだな。すぐに縁を切った方が良いよ。マジで』

「はい!? え? どゆこと!!?」

『セインと同盟を敵対させて。ユランって過激派だったんだな。それとも平和派?』

「いや、意味わかんないんですけど? 私は普通に利益重視の経済、N派だよ!?」


 メッセージを読むにつれ、問題が大きくなっている事を実感する。私にその気はなくとも、私がセインに対して"敵対行動"をとってしまったのは事実で、つまり私がN以外の派閥だと認識されたようだ。


 これはもう、すぐに出て行って詳しい事情を説明するべきだろう。ここまで来ては、同盟に禁じられていたセイン(の関係者)への接触や、コネをフル活用して手に入れたユニーク装備をパクられたことなんて些細な問題だ。


『うける。ユラン、お前完全に終わったな! もう、主要都市で露店は開けないぞ? なんでも、草餅がセインに謝罪しに行ったんだってさ。L&Cは引退することになるだろうから、キャラデリする前に装備を譲ってくれ!』

「誰が譲るかハゲ!!」


 また叫んでしまった。もちろん、返信はしていないので、この叫びが相手に届くことは無い。


『突然のメッセージ失礼します。同盟に加入している草餅です。今回の事件についてセインさんと話をしてきました。その結果、ユランさんの処分は"不問"となりました』

「はいぃい!!?」


 いや、何で?? 助かるけど、なんで!? 今年一番驚いちゃったよ!!


『しかし、不問にするには条件があります』

「あぁ、そういう事ね。そりゃそうか。ちょっと安心した」

『セインさんの妹グループと再戦してもらいます』

「なにそれ? 今日も負けたんですけど??」

『今日の試合は圧力をかけて負けてもらいましたが…』

「マジか!? 全然気づかなかった! なに? 鬼畜道化師アイツラわざと負けたんだ!? どうりで弱いと思ったよ!!」

『次の試合では、お互い、本気で戦ってもらいます。もちろん、ユランさんは助っ人を雇って構いません』

「はぁはぁ~ん。それで、相手も助っ人を雇って、私を公開処刑するつもりね? 完全に理解したわ」


 しかし、ピンチとは言え九死に一生を得たのも事実。試合には勝てないだろうし、大勢の前で晒し者になるのは間違いないが、言ってしまえばソレだけだ。


 同盟の事だから、ちゃっかり後で難癖をつけて私を除名するだろうが…、セイン本人が私を追求しないと言っているなら、同盟が出来る制裁はそこまで。同盟がセインに媚を売るために判断を任せたのが良い方に作用した。これが同盟単独の判断だったら、間違いなくL&Cから干されていただろう。


『それでは、詳しい段取りは追ってメッセージします』


 再戦の話は悩ましいが、とりあえず大きな山は越えた。あとはまぁ…、うまくセインが気分を良くする負けを演じるだけ。接待ゴルフのように、上手く手を抜いて、ギリギリの負けを演じる。


 あとは、ほとぼりが冷めるまで派手な行動は控えれば問題ないだろう。




 こうして、1度終わりを確信したL&C生活は、まだまだ続くこととなった。


「あ、またメッセージ」

『俺はセインと名乗っているプレイヤーだ。同盟から既に連絡が行っていると思うが、再戦の件で連絡した』

「え? えぇぇぇえええ!!!!」

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